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希望の風が西から吹くと言うけれど、西に向かっても希望があるとは限らない

 渡来周の転校が決まった。

 理由は、良くある親の都合だ。日本の首都より、この春関西の地方都市と田舎の中間、いや、若干田舎寄りの祭早市へ。

 雅な観光都市京都までは四十分、食い倒れの街大阪までは二十分、お洒落な港町神戸までは十分程度で行ける交通の便の良さが売りではあるが、祭早市自体に大きな特徴は無く、それこそ大阪、神戸に仕事勤めしている人のベッドタウン的立場に甘んじている。唯一の大きな特徴として、街の中心部に鎮座する丘の上に、不釣合いなほど巨大な神社がある、という事だろうか。京都の三大祭、大阪の岸和田だんじり祭りほどメジャーではないが、夏になると周辺からこぞって見物客が訪れるほど大きな祭りが開催される。起源は古く、嘘か真か神話の時代まで遡るという。そんな古代のロマンまで思いをはせる人はごく少数で、現代に生きる人々はただハメを外して騒げる日という認識だけだ。その街のシンボルとも言える神社の近くに立つ祭早高校が、周の新たな学び舎となる。


 新幹線の車窓から、周は流れる景色を見ていた。見てはいるが、景色は全く脳に知覚されていない。彼が見ているのは、これからの生活、未来への展望だ。

 周は、俗にいうコミュ症型ぼっちだ。人見知りで、人前では上手く喋れないし表情も緊張で固まってしまう。この性格を直さない限り、友達を作ることなど夢のまた夢だと自分でも自覚している。いつかわかってくれる相手がいる、なんていうのは幻想だ。自分から自分の情報を開示しない限り、相手に理解してもらうことなど永久に不可能だからだ。それに思い至ったのは、転校直前、学校での一幕が要因だ。春休み前、教師から転校するという事がクラスに発表された。この時も周は上手く喋れず、小さく頭を下げることしか出来なかったが、彼は勘付いていた。クラスの空気が一瞬、ホッとしたような、弛緩した空気になったのだ。きっと、自分のようなクラスに溶け込めない、クラスのお荷物的存在の自分がいなくなってやれやれと思っているに違いない。その後の教師からの、周の将来が良いものになるようにと送られた激励も、クラスメイトたちの拍手も白々しい、薄ら寒いものに感じた。

 彼らが悪いわけじゃない。きっと、自分が至らなかったせいだ。

 悪いクラスではなかった。こんな自分は、普通ならいじめの対象になってもおかしくない。けれど、かけられる言葉には、悪意に満ちたものは全く無かった。むしろこちらを気遣うような、優しさに溢れていた。今思えば、何度もクラスメイトたちは自分にチャンスをくれていたように思う。活かせなかった自分が悪いのだ。後悔してももう遅い。もっと何か出来たんじゃないか、チャンスをものにしていれば、打ち解けられたんじゃないのか、みんなに負担をかける事なんかなかったんじゃないのか。考え出したら切りの無い、それでいて考えても仕方の無い事がもんもんと彼の頭の中を巡った。

 周はその夜、風呂に浸かりながら後悔の涙を流した。

 春休みに入ってすぐ、引越しの準備が始まった。自分の荷物をダンボールに入れているうちに、次第に気持ちは切り替わっていった。

 新しい場所での生活に、不安はあった。しかし、それを期待が上回っている。今度こそ自分は変われる。そんな無根拠な確信が周中に芽生え、そのまま急成長して胸一杯の大樹と化した。

 新しい場所、新しい出会い、新しい学校、新しい季節。これだけ揃って、変われないはずが無い。好きなRPGでも新しい場所に引っ越して仲間と絆を深めていたじゃないか。あれが他人事だなんて思わない。自分にも起こりうるはずだ。

期待に胸を膨らませ、周は西へ向かった。

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