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普通の高校生が普通に楽しく過ごす、そんな日々・・・を夢見ていました

 春で連想するものは、季節柄もあるのだろうか、全般的に明るい。

 新学期に新社会人。新しい出会いに新しい暮らし、新じゃがに新たまねぎに新キャベツ・・・はあまり関係ないか。さておき。

 人は春と言う季節に、春の許可も無く勝手に希望を抱く。無根拠にも拘らず、良い事が起きる気がしてしまう。

 そんな淡い期待を胸に抱いていた日々が、僕にもありました。

「遠い目でどこ見とぉの?」

 叱責を含んだ呼びかけのせいで、遥か彼方の逃避先から強制的に引き戻される。黒縁のメガネ少女が、可愛い顔を思い切りしかめて僕を睨んでいる。知り合って日は浅いが、根は真面目だという事は良くわかった。ただ、彼女からはあまり生真面目、という印象は受けない。関西弁、本人曰く神戸弁のせいでどこかほんわかした、コミカルな印象を聞く者に与え、場の空気を和らげてしまうせいだ。関西弁と僕は一くくりにしていたが、大阪、京都、神戸と微妙に違うらしい。もう少し広げると和歌山、奈良、岡山、広島、阿波、香川、愛媛、土佐と、近畿から中国・四国だけでもかなり違いがあるらしい。関東の人間からすればどうでも良いと思うのだが、疑問が口から出てしまったのを一度聞き咎められ、ガチで怒られ、長々と説教された。彼女いわくアイデンティティに関わる大事な事らしい。

 神戸弁の彼女が二丁の拳銃を構えた。銃身が通常のものよりも長い、少し特殊な形状のリボルバーだ。銃身を長くする事で命中精度を上げ、かつ砲身内部のライフリングに刻まれた呪法が、弾丸が発射されて通過するまでに特殊加工を施し様々な効果をもたらすらしい。銃身をアタッチメントのように付け替えることで、呪法の効果を変えることもできる優れもので、今現在確認したことがあるのは通常弾に加え、炸裂、貫通、焼却といったところか。中々の極悪仕様だ。

「もう時間よ? 集中しいな」

 彼女の言い分はごもっともなのだけれど、今の自分の境遇を憂えずにはいられない。当初予定していた自分の未来予想図からずいぶんかけ離れてしまった。

 とはいえ、今更嘆いても状況が変わるわけでなく。仕方なく僕も、認めたくは無いが相棒となりつつある武器を構える。

 長さ九十センチ、素材不明の細長い柄の先には直方体のヘッドがついており、底面からはたっぷり毛束が生え揃っている。どこからどう見ても、まごうことなきデッキブラシだ。銭湯とかトイレとか、タイル張りの場所を磨くのに重宝するアレ。最初は何故、どうしてと嘆いたものだが、今では悔しいが一番しっくり来る。

『主』

 デッキブラシが気安く話しかけてくるのにも、もう慣れた。慣れってすごいな。この現代社会で通常起こり得ないことも、何度も続けば普通に受け入れることが出来る。『普通』とは、『非常識』や『ありえない』が連続した結果の直線上に作られる、『非常識』と『ありえない』の進化系なのだ。

『地獄の釜の蓋が、開くぞ』

 デッキブラシの言葉が終わるやいなや、目の前で巨大な火柱が上がった。肌をチリチリと焼くのは炎の熱気か、炎の中から現れる何かのプレッシャーか。相変わらず慣れない恐怖と不安を何とか飲み込む。事ここに至っては、泣いても喚いてもどうにもならないのは経験済みだ。何とかするしかない。前に進むしか、道は無い。柄を握る手に力が篭る。

 炎をかき分けて、巨体が姿を現す。額に反り返る立派な角を二本生やした、牛の頭をした巨人。牛頭ごず、もしくはミノタウロスと呼ばれる種類で、ごつい見た目どおり馬鹿力の持ち主。牛なのに馬と鹿とはこれいかに。しかも厄介なのはそんなに馬鹿じゃないってことだ。ある程度の知識を有し、知恵も働かせてくる。

「これ系が出たいうことは、怒りがこの場所に満ちとういうことかな?」

『巫女の意見に同意だ。ここ数日で多発している事件は傷害、暴力沙汰が多かった。影響を受けている可能性が十分にある』

 デッキブラシのくせに昨今の事件傾向とか良く知ってたな。

『TVでミ○ネ何某が言っていた』

 情報の出所がミヤ○屋なのかよ。MCの話が面白いのは認めるが、人が学校行ってる間に何してんだこいつは。

「何でもええわ。やることはそない変わらんし」

『同意だ。顕現せし荒ぶる神と舞い踊り、鎮め、この地に蔓延した邪気を祓い浄化する。それが我らの使命』

 げんなりする僕とは裏腹に、二人、いや、一人と一本はやる気満々のようだ。仕方ない。いい加減腹を決めよう。

 大気を奮わせる大音声を発し、牛頭が大地を踏み荒らす。やれるものならやってみろと言わんばかりに。こっちを威嚇してくる牛頭に対して、ブラシのヘッドを突きつけた。

「地獄に送り返してやる」

 ちょっと涙目なのは、いつものことだ。

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