思惟喪失
言葉の数だけ思考は増えると昔の国語教師は
教えてくれたが、豊かな『思い』を摘み取っ
てきた――事ある毎に殺してきた、全ては神
のために――この心は、多彩な結び付きを失
い、表現が失われ、繊細な『気付き』という
物が、混沌で散漫な、恐ろしく燃え盛る炎の
中に消え失せていく。断片的で不連続な感情
の順列。躁鬱ではない、人間然とした心の秩
序は散逸した。物憶えも悪くなった。今しが
た聞いた事を忘れている。今しがた考えてい
た事を忘れている。途切れ無い思考の流れに
突然何かが介入している。それが直前の私を
忘却の淵に追い込む。それ以後、彼とは切り
離されたまま。私は流されていく。まるで、
一枚のぼろ布が河下へ流されていくように。