彼が辞めれるわけがない
書きたくなったので書いてみました。流し読みで、暇つぶしになれば幸いです。
……あ、どうもはじめまして。私はラナ、16歳。どこにでもいる普通の女格闘家です。え? 女格闘家って普通じゃないって? なんですか男女差別ですかそういうのはいけないとおもいまーー
「ーーおーいラナ? 何してんだー?」
「あ、うん! ごめん今行くー」
邪魔が入ったので今回の件は不問とします。さて、今私を呼んだ彼は日野原 真人……マコト・ヒノハラだったかな? 私より二つ上で、私が今所属しているパーティーのリーダー役というかまとめ役をやっています。本人はそのポジションが嫌だやめたいって言ってるけど、やめられるとたぶんこのパーティーは消滅すると思う。それくらい重要な人……なのかな? このパーティーに入ってまだ日が浅いからどんな感じかは把握しきれてないんだ。
「というわけで今日はパーティーメンバーの関係性その他もろもろを改めてみておきたいと思います!」
「……誰に向けて言ってんの?」
あ、口に出てちゃってた。
ーーさて、まずは戦闘面。しっかりとしたバランス・役割で戦闘を行えるかが重要だよね。ということで現在街で魔物退治の依頼を受けて、対象の魔物を発見、もうすぐ戦闘開始といった状況です。
「さてーそれじゃ支援かけるぞー」
マコトがそういって、私を含めた4人のメンバーに付与魔法っていう、対象を強化してくれるものスッゴイ古い魔法をかけてくれる。これの効果は抜群で、攻撃や防御、速度などの基本的な部分をすっごく強化してくれる。本人は謙遜してるけど、普段人の頭くらいの大きさくらいの石しか割れないのに強化されるともう石というか岩も簡単に素手で砕けちゃうんだから、かなり有用な魔法だと思う。……え? 素手で岩を砕くな? 格闘家ならこれくらい普通です。
「今回の魔物は依頼報酬もだが素材も高く売れる。傷つけるくらいなら許そう。だがミリアリア、てめぇはだめだ」
「名指しするんじゃないわよ!」
「それが嫌なら加減を覚えることだ」
マコトにそう言われ怒った様子で返答するのはミリアリア。このパーティーのメイン火力だ。このパーティーにかなり初期の段階からいたらしい人で、火の魔法が得意なのだそうだ。マコト曰く、バ火力らしい。たしかによく加減を間違えて魔物を炭にしているから、ピッタリな言い方だとおもう。そんな感じで戦闘開始! 私ともう一人が前衛、ミリアリアと回復役の子が後衛、マコトが遊撃というポジションだ。
支援をもらった前衛がメインの魔物へと攻撃を仕掛けて引き付け、ミリアリアの魔法で大ダメージを狙っていく戦闘スタイルとなる。その間マコトは、ミリアリアへと向かってくる取り巻きなどを迎え撃っている。
「うらぁ! かかってこいやザコ共がぁ! ……あちょ、タンマタンマ! 団体さんはお断りしております!」
迎撃といいつつかなり危なそうな感じだが、チャンスのときはしっかり攻撃を当て、危ないときは即距離を取るという戦い方をしている。それでも危なくなった時は……
「ファイヤーチェイン!」
ミリアリアが魔法を向け、助けている。
さて、そんな彼女ですが。実はマコトにホの字です。
「まったく、しっかりしなさいよね。危なっかしくて見てられないわ」
「そういいつつ毎度毎度助けてくれるミリアリアさんマジ天使」
「なっ?! バ、バカじゃないの! アンタにそんな、て、天使なんて言われてもうれしくないわよ!」
マコトにそう言われ顔を真っ赤にして吠えるミリアリア。いやー、言葉ではそう言いつつも隠しきれてない嬉しさ。ニヤニヤしちゃうなぁ。でもマコトの方は気づけてないんだよなぁ……いじらしい。戦闘中ですよ二人ともー。
ミリアリアは見てのとおり加減が下手くそ、だから、同年代の人たちからは相当馬鹿にされていたらしい。そんな時、マコトがやってきて、加減ができないことなど一切気にせずパーティーに誘ってくれたとのこと。それでそのままフォーリンラブ。本人の前ではあんな感じできついことを言ってしまっているが、裏では『なんでいつもあんなこと言っちゃうの~!』と、悩んでいます。いつもいつもそれを聞いては正直になればいいのにとーー
「ーーそこ、戦闘中だぞ! 気を抜くなよ!」
おっと私が言われちゃった。よーし、気を取り直して集中集中。
ーー魔物を倒したとしても、それをお金にできるかは別問題だよね。と、いうことで今度はパーティーの交渉部門です。現在魔物を倒した後、解体が終わり、それをもって依頼主のところに報酬の相談で合っているところです。
「いやー今回はどうもお疲れ様でした。流石! 元勇者……いや、真の勇者パーティーなだけはありますね!」
「いや、勇者は偽とか言われてる方が本物なんで……」
そう煽ててくるのは、依頼主の商人。なんでもこの街でかなりのやり手だそうだ。ちなみに勇者云々は昔このパーティーのリーダー役だった人のことだそうだ。今はパーティーを抜け、独自に活動しているが、あまりの無能さに偽勇者などと言われているらしい。
「さて、長話もなんですからさっそく本題に入りましょうか」
「そうしますか」
そういって、商人とマコトはお互いに真剣な表情になる。
「今回の素材の売却金ですが……売却された素材の状態から、金貨40枚ほどでどうでしょうか?」
金貨40枚かぁ……依頼報酬が金貨20枚だったから、今回の収入はしめて金貨60枚……これは高級宿でパーティー全員で1カ月暮らせるくらいの額だね……いいじゃん。
「素材の状態とっても、足先が少し焦げただけで、そこまで悪い状態ではなかったでしょう。金貨70枚でどうです?」
おおぅ、吹っ掛けたねマコト……。
「確かにそうですが、その少しで価値が落ちる物もあるんですよ? 金貨45枚」
お、上がった。でもマコトはまだ続ける気だ。
「あの魔物で一番の価値があるのは目玉でしょう? それをあれだけ綺麗な状態で持ってきたんだ。マニアに高く売れること間違いないでしょう。金貨65枚」
「それは確かにそうですが……そのマニアの伝手もなかなか厳しい人でしてねぇ。金貨50枚」
うーん、この辺が限度じゃないかな? と思ったら、マコトが何か話し出した。
「今回の依頼内容の魔物ですが……」
「はい?」
ぴくりと、商人の表情が動く。
「このあたりでは出没する種ではないはずなんですよねぇ」
「……それが? 魔物の習性など、まだまだ分からないことだらけでしょう」
「いやーそうなんですけどね?」
そういうマコトの表情は……なんかあくどい。
「最近このあたりで妙な噂を耳にしまして」
「噂?」
「えぇ……このあたりのどこかの商人さんが、自身の利益のために魔物を外敵のいない森にはなって育てているというね」
「……それが?」
そう答える商人の顔は、かなり引き攣っている。……あ、これ読めちゃった。
「いえ、今回の依頼内容が、いるはずのない魔物に襲われたというものでしたから、ふと思い出しただけです。特に意味はありません……さて、代金の話でしたね。そうですね……そちらも大変でしょうし金貨60枚でどうでしょう?」
商人さんから異論はでなかった。
「ーーやりましたねマコトさん! 大儲けですよ! がっぽがっぽですね!」
「シスターがそんな欲にまみれたようなこと言っていいのか?」
マコトに苦笑しながらそう言われているのは、シェリア。このパーティーの回復役で、ミリアリアの次に古いメンバーだ。彼女もマコトに誘われてこのパーティーに入ったそうだ。そしてそんな彼女もまた、マコトにフォーリンラブだ。
「さーて、このお金で何をしましょうかね? しばらくはゆっくりしたいですしってわわ!?」
「おっと」
何もないところでなぜかコケるシェリア。そんな彼女を、マコトが抱き留める。やけに慣れた対応に見えるのは、相当な回数同じことが起きているからだろう。彼女は抜けているというかなんというか、よくコケるらしい。私はまだ百回ちかくほどしかみたことはないが……あれ? もう3桁行こうとしてる時点で多いのかな?
「ご、ごめんなさい。私ってばいつもこんな……」
「気にすんなって。そういう欠点とかをカバーすんのが仲間なんだから」
「マコトさん……」
そう言われ、シェリアは頬を赤く染める。うーん、シェリアちょっとちょろい? 教会にいて異性と関わることがなかったからかな? しかしそこはマコト。全くシェリアの様子には気が付かない。鈍感って罪だね。
ーーさて、戦闘・交渉なんかももちろん大事だけど、それと同じくらい外せないのは衣食住。特に食。腹が減っては戦はできないがその腹に入れる物が不味くてはやる気も出ない。ということで最後、パーティーの家事面です。現在、依頼達成の祝勝会でっす。調理担当はもちろん我らがまとめ役マコト。料理の腕は高級宿のコックを唸らせるほどだったらしい。たしかにマコトの料理はおいしいね。
「よっしゃ、完成」
そう言ってマコトがテーブルに並べたのは野菜・肉・海鮮、それぞれ多数のレパートリー多彩な料理の数々。一人でこれだけってどうやって作ったんだろ……。まぁいいや。気にしてはいけないってやつだ。それじゃーいただきまーすっと。
「……マコト」
「ん? どしたサツキ?」
食事をしているマコトに話しかけるのはサツキ。私と同じ前衛役だ。
「……おかわりは?」
今ある量でも全員で食べきれるかという圧迫感があるのに、サツキは当たり前のようにそう尋ねる。彼女はかなりの食いしん坊だ。このパーティーにも行き倒れてるところを助けられて入ったとのこと。そしてその彼女の質問に対し、マコトは親指を突き立てて答える。
「追加で3人前まで余裕だ」
「……グッジョブ」
「ありがとう」
サツキも同じように親指を突き立てて答える。そんな彼女ももちろんマコトに……惚れ……てるのかな? どうなんだろう……ミリアリアやシェリアみたいにあからさまな感じはしないけど……うーん。
「……ねぇサツキ」
「……? なに?」
肉を頬張っているサツキに、聞いてみる。
「マコトのこと、好き?」
「「……っ!?」」
「いきなり何聞いてんだラナ?」
マコトは黙っててほしい。そして他2名がこっちを見てるけどむしむし。さぁ、返答やいかに?
「……好きだよ? おいしいごはん作ってくれるから」
う、うーん……これは……どうなんだろ?
「そこの食欲の権化にそういった質問しても無駄だぞ」
確かにそうみたい……。
「あと……」
「ん?」
おっと、続きがあるみたい。
「……優しい感じがして、好き」
「ほうほう」
それを聞いてどうこたえるマコト!
「へっくし! ……あっとすまん、聞いてなかった」
「くしゃみで聞こえないとかどういう理由よ!」
「おぉっ!? なんだどうした!?」
「……」
あぁ、サツキがご飯食べだしちゃった……なんなのマコト? わざと? わざとなの? ……まぁいいや、私も食べよ。
ーーさてと、昨日までの調査によれば、戦闘面:問題ない、交渉面:かなりあくどい、家事面:文句なし、というかなり優良パーティーという結果が出ました。うん、拾ってもらったのに加えて、こんないいパーティーだとは、私は幸運だったね。魔物はいるけど世界は平和だし、いいこと尽くめだね!
「ちょっと! 聞いてるのラナ!」
……はい、ごめんなさい現実逃避はやめます。今私の目の前にいるのは、私が前にいたパーティーのリーダー的存在です。ちょっとみんなと別れて別行動してたら見つかって、いびられてるところです。
「……なに?」
「だから、私のパーティーに帰ってきなさいって言ってるの」
そう、高圧的に彼女は言ってくる。捨てておいて帰ってこいとは……勝手な。どうせ理由も……
「荷物持ちがいなくて運搬がめんどくさいの。あなた力だけはあるんだから、またやってもらうわね」
やっぱり……。前のパーティーでは私は、雑用的な立ち位置だった。荷物運びにその他もろもろ。それでいて報酬は一番少ないという、最悪な状況にいた。しかし他に頼れるあてはなく、そのままでいたのだがこの前捨てられ、あてもなくふらふらしているときにマコトたちに出会ったというわけだ。
「それじゃ今から依頼に行くから、ついてきなさい」
なんかもう勝手に参加させられてるし……どうしよ。
「ラナ? 何してるんだ?」
「あ、マコト……」
考え込んでいれば、マコトが近くに来ていた。
「誰アンタ」
「ラナの仲間だが?」
前パーティーのリーダーがそう尋ねれば、即答する。彼女はそれに苛立ったのか、高圧的に言ってきた。
「は? そいつは私の物よ。力は強いけど、殴る蹴るしか能がない奴だけど、荷物持ちには最適なの」
「……仮にも仲間だって言い張ろうってんなら物扱いすんなよ」
行くぞ、とマコトに手を引かれる。特に抵抗もせずにそのまま歩いていく。後ろで前リーダーがなんか言ってるけど、私もマコトも無視をしてそのまま歩いていく。そのまましばらく歩き、パーティーで止まっている宿の近くまで来る。意を決して、話しかける。
「……ねぇマコト」
「どした?」
「……私のこと、殴る蹴るしか能のない無能だと思う?」
「馬鹿力だとは思う」
どういうことよ。
「あと、殴る蹴るしか能のない無能って矛盾してるぞ」
「言葉の綾だよ」
歩くのを中断し、私の方を向いてマコトはいう。
「別に、殴る蹴るしかできなくてもいいんじゃね?」
「なんで?」
「純粋に俺たちの役に立ってるから」
「損得の問題なの?」
「損得の問題だろ。たとえほかの奴の得にならなくても、それが必要な奴らの得になれればそれで十分だ。てか、それでお前が無能ってならおれはどうなるんだ」
「マコトは料理とか交渉とかできるじゃん」
「お前は戦闘できるじゃん」
「私にはそっちの方がうらやましい」
「その言葉そっくりそのまま返すわ」
しばらくなんだかんだと言い合ったあと、改めてマコトが言う。
「ま、結局のところそいつが必要とされてないか否かってことだな」
「……そうなるのかな」
「そうなるんです。そんで、俺達にはお前が必要。OK?」
「……OK」
「んじゃ、そういうことで。宿に戻って合流すっぞ」
「……うん」
そういって、歩き出すころには、先ほどまで感じていた嫌な気分は消え去っていた。
宿に戻り、みんなと合流したあと、私は不思議とやりたくなったので、マコトに抱き着いてみた。
「「あっ!?」」
「……」
「何してんの?」
「なんとなく」
「どういうことだ……」
「とりあえず離れなさい!」
私をガン見していた3人に引きはがされた後、少し困惑しているマコトに伝える。
「やっぱりマコトってこのパーティーのまとめ役だね」
「やめたいんだけどなぁ……」
「だ、だめよ! マコトがいないと解体が難しいんだから」
「交渉もです!」
「……ごはん」
「お前ら……」
そうマコトがつぶやくと、3人は口々に言う。まぁ、うん。彼女たちがいる限り、彼はそのポジションをやめられるわけがないだろう。……もちろん私も辞めさせる気はないけど。