|映写機《スクリーン》の記憶
スクリーンにはある幸せそうな4人の家族の姿が映し出されいていた。
食卓で円形の白いケーキを囲み、何やら楽しげに歌を歌っている。
どうやらバースデーソングを歌っているようだ。
歌を歌ってもらっているのはポニーテールの小さな女の子だ。
女の子は頬を上気させ、照れた様な笑みを浮かべいた。
彼らからは、きっと彼らには見えないであろうものが滲み出ていた。
喜びに溢れた黄色・それを見守る暖かなピンク、その境目には2つの色が混じり合ったオレンジ。
いずれも美しい虹彩を放ち、またひときわ美しい光彩を煌めかせていた。
勇希は口をぽっかりと開け、目の前の光景にすっかり魅入っていた。
「はぁ…」、もうこの感嘆詞しか出てこない。
それを満足げに見ていた老人は見えない鼻を膨らませるように胸を反らして行った。
「どうじゃ?素晴らしいじゃろ。」
「いつまでも眺めていたとは思わんか?」
勇希は口をぽっかり開けたまま、素直に頷く。
「じゃがな、そういう訳にもいかなくなりそうなんじゃよ。」
「この水彩の国に美しい光彩を脅かす者が現れた。」
うん、これはピコラに聞いたことがある。
「そ奴らはかの美しき光彩を盗み、彩色を持たぬ己の身に彩りを付けようとしている。」
「お主殿にはそれを食い止めていただきたい。」
この時、勇希は訳も分からず即答していた。
「はい、やります。」
「ぜひともやらせてください!!」
それを聞いた老人は顔を少年の様にほころばせた。
「ほう、そうか。」
「勇希殿なら受けてくれると思っておったわ。」
「では、あとのことはピコラに任せてわしは昼寝でもするとしよう。」
「あとは頼んだぞ、ピコラ。」
それにピコラは恭しい言葉で返答した。
「はい、勿論ですともご長老。」
「あとのことは全てこの私めピコラにお任せくださいまし。」
驚いた、ピコラがあんな馬鹿丁寧な言葉を使えるなんて…
っていうか、俺と扱いの差デカすぎだろ!?
俺には割と遠慮ない言葉使うし、挙句の果てには床で5時間も寝てる俺を放置しちゃうし…
なのに、あの老人にはやたらと恭しい言葉遣いで話しやがって…クソ!!
と、そうこうしている内にピコラがまたあの遠慮のない口調で言った。
「何をボサッとしているの?相変わらず君はのろまだね。」
これを聞いた勇希の腹に殺意が湧いたことは言うまでもない。