よろしくね勇希君
その時勇希は違和感を覚えた。
ん?まてよ、何でコイツ俺の名前知ってるんだ?
そんな彼の疑問に気づいているのかいないのか、ピコラはおもむろにこう切り出した。
「ほらほら勇希君、ぼんやりしてないで早く行こうよ。」
「えっと…どこに?」
「どこって君、そりゃあ当然水彩の国のに決まってるじゃないか。」
だからその水彩の国って何だよ、そう逸る気持ちを抑えて彼は聞いた。
「水彩の国なんて聞いたことがないぞ、どこかのテーマパークなのか?」
すると、ピコラは長い溜め息をつきながら、かぶりをふった。
「はー呆れた、そんなことも知らずに君はドロシー長老に誓いを立てたのか。」
誓い?そんなの立てた覚えはないぞ。
「ねえ、本当に君はあの誠治博士の血筋なの?」
相変わらず言ってる意味が分からない。
あっそういえば、今爺ちゃんの名前言ってるたな。
でも爺ちゃんは博士でも何でもないし、たまたまだろうな。
「まあいいや、とり合えずは人の子の感情と色彩についてから説明会しよう。」
「人は誰しも、こころの中に感情を持っている。」
「そして、その感情には色がある。」
確かに先ほど見た親子の笑顔は喜びの黄色に溢れていた。
何となく分かる気がする。
「それからもっと細かく言うとこうなる。」
「その感情の源となっているのは記憶でその記憶は複雑な感情の色彩で成り立っている。」
「それがその人の想い出となり、それをいっぺんに集めたものが人のこころなんだ。」
「そのこころは人それぞれ色彩が違って、いずれも世界に一つだけの光彩を放っている。」
「その光彩を創り出しているのが、僕たち水彩の国の住人なんだ。」
「僕らはそこで誰しもが協力し合って、懸命に働き、いつもそれそれは美しい光彩を創り出していた。」
「でも、それを脅かす者が現れた。」
「奴らは自らに色を持たず、人々から色を盗むことでその心の隙間を得ようとしていた。」
「そうすることで、人々の記憶から光彩が失われていくらことなど考えもせずに。」
「本当に身勝手なのものだよ。」
そう言ってピコラはその白い肌を真っ赤に染めて、憤った。
かと思えば、こちら見て目をガラスの様に輝かせた。
眩しい、今にもその目から流星の大群が襲ってきそうなくらいだ。
「そうだ、そのために君がいるんだ。」
「もうこれで水彩の国は安泰だね。」
少しずつこの不可思議な語り手を受け入れようとしてきたというのに、コイツは何で俺が世界の運命を握る超重要人物みたいな言い方をするんだ。
これではますます混乱が広がるばかりではないか。
「君にはあの時の誓い通り、夢彩記操者となって奴らから人々の色を取り戻してもらう。」
「いいよね?だって君が前に言ったことだもんね?まさかあれは嘘だったなんてことはないよね?」
「まさかね〜、それはないない。」
「ね?そうだよね?」
怒涛の尋問攻撃にあって、勇希はたじろいだ。
俺にはそんな記憶はないけど、コイツの言う通り一度誓いを立てたのは間違いないんだよな?
そう、何せ勇希は約束や嘘といった類の良心を揺さぶる言葉に弱かった。
「あーもう分かったよ。」
「やればいいんだろ、やれば。」
と、投げやりに勇希は言った?
すると、ピコラは再び目を輝かせてあの時の親子みたいな黄色の喜びを振りまいた。
「うん、それでこそ誠治博士の血筋だよ。」