表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/58

ファイアフライ

 まず最初に装甲車で突撃。入り口付近を制圧後、火炎放射器で洞窟内を焼却する。

 ジョージの示した作戦は至って単純な物だった。


「随分とえげつない事を考えるのですね」

「効率的な攻略方法を提案しただけだ」


 思わず眉をひそめるロンソに、ジョージが素っ気ない調子で返す。他の三人も、その計画に対して特に問題があるとは思っていないようであった。


「いつもこんな感じなのですか?」


 それを見たロンソが尋ねる。ユリウスが「まあな」と肯定した後、続けてロンソに言った。


「ジョージの計画はいつもこうだ。よく練られているように見えて、実はそうでもない。結構大雑把だったり、細かいところは穴だらけだったりするんだ」

「見かけ倒しという事ですね」

「あまりハッキリ言うもんじゃないぞ」


 ロンソの出した結論を聞いたジョージが口を尖らせる。すると即座にそれにヨシムネが反応し、彼を見ながら声をかける。


「でも事実でしょ? あなたのプラン、外枠だけは完璧な場合が多いんだから」

「五月蠅いな。今までそれでやってこれたんだから別にいいだろ」


 どうやら自分の計画に不備があるのは本人も認めているようだ。ジョージの反応を見たロンソはそう考えた。それでもこれまで大した失敗も無しにやってこれたのだから、実力は相応にあるのだろう。

 ロンソはむしろ安心した。内容はどうあれ、強い事は良い事だからだ。


「とにかく、言われた通りにしろよ。俺の計画に狂いはない。作戦通りに動けば、絶対に上手く行く。わかったな?」


 そう思案するロンソの横で、ジョージが強い調子で断言する。彼の仲間はそれぞれ苦笑いを浮かべたが、それでも彼の指示に従った。

 ロンソも同様だった。彼女は呆れたように肩を落としながらも、ジョージの意見に異を唱えはしなかった。彼女も彼らが日頃どうやって仕事をこなしているのか興味があったからだ。


「おい、何してるんだ?」


 その時、それに気づいたイヴァンが声を上げる。ジョージ達もそれに反応してイヴァンの視線の先に意識を向ける。

 そこには何もない空間からマスクを抜き出しているロンソの姿があった。


「なんだそれ。なんでそんな物用意してるんだ?」

「何故って、必要だからですよ」


 空間に割れ目を作り、そこからマスクを取り出していたロンソがしれっと答える。そしてそのままマスクを被り、腕を腰に当てて四人に見せつける。


「皆さんもマスクしてますし、自分も同じようにしておこうと思いまして」


 それは右目の周りだけを黒く塗り潰した、縦長の白い仮面だった。それを見た四人は暫し呆然とした。


「用意のいい野郎だ」

「よく言われます」


 イヴァンの台詞にロンソが淡々と答える。嫌味に動じない彼女の姿を見て、他三人はむしろ感心した。ここまで肝が据わっているなら、むしろ信用できると言うものだ。

 根性無しと一緒に仕事するより百倍もマシだ。


「まあ、いい。よろしく頼むぞ」


 そう考えたジョージがロンソに声をかける。ロンソは無言で頷き、五人はそのまま装甲車へ向かった。

 作戦開始だ。





 車の運転は例によってユリウスが行った。そしてユリウスがエンジンを吹かしている最中、ロンソはこれがユリウスの私物だと言うことを初めて教えられた。


「自分から所有物を壊していくのですか?」

「モノってのはぶっ壊れてなんぼなのさ」


 思わず放たれたロンソの問いかけに、ユリウスは前を見ながらそう答えた。ロンソは眉をひそめ、ヨシムネとイヴァンも諦めたように肩を竦めた。


「使えなくなったら、また新しい物を買えばいい。こいつはそういう男だ」

「散財家ってやつね」

「もったいない……」


 その二人の台詞を聞いたロンソの呟きは、エンジンの音にかき消された。そうして唸りを上げる鋼鉄の塊は、ぐんぐんとスピードを上げてその洞窟の口元へと驀進した。


「お、おい!」

「なんだあれは!」


 オークがそれに気づいた時には既に手遅れだった。装甲車がそのオークの一団に突っ込み、調理器具ごとそれらを吹き飛ばす。はね飛ばされたオーク達は原型こそ留めていたが、地面に叩きつけられた段階で意識を保っていた者は皆無だった。


「お、おい! なんだあの物体は!」

「知るか! 侵入者だ!」

「武器を取れ! 応戦しろ!」


 しかし残りのオークは動揺しつつも、しっかりとそれに反応した。各々が武器を構え、瞬時に臨戦態勢を取る。しかし彼らが装甲車を包囲するよりも前に、後部ハッチが重々しい音を立てながら開いていった。

 何事かとオーク達がそこに注目する。刹那、その内の一匹の脳天に穴が開いた。


「な?」


 横にいた同胞がいきなり後ろに押し倒されたのを見て、別の一匹が驚愕する。次の瞬間、そちらを向いていたオークのこめかみに同じ大きさの穴が開けられ、そのままそのオークが地面に倒れ伏す。


「な、なんだ!」

「敵の攻撃だ! 油断するな!」


 オーク共が一斉に構える。ハッチの奥からマスクを被った五人が現れたのはその直後だった。


「敵だ!」

「かかれ! 一斉にかかれ!」


 即座に判断したオーク達が殺到する。五人が一斉に銃を構える。

 オークの目がそれを捉える。見たこともない黒塗りの武器。

 直後、不毛の荒野に銃声が轟いた。





 一方的な虐殺だった。弾丸の雨がオークの前進を貫き、穴だらけにしていく。高速で飛び交う鉛の嵐の前に、オークの肉の鎧は意味をなさなかった。

 豚人間達は自分の身に何が起きたのかもわからなかった。轟音を聞いた次の瞬間には全身から力が抜け落ち、その場に倒れ、等しく意識を手放していった。


「怖い武器ね」


 そうして表の敵を一掃した後、ロンソが手にした武器を見ながらしみじみと呟いた。この時ロンソとジョージ達は背中にボンベを背負い、ボンベの横には丸められたホースがあった。


「まさかここまで一方的とは思わなかった」

「そりゃどういう意味だ?」


 それを聞いたジョージは不思議そうに尋ねた。


「こっちに来たのは俺達だけじゃないんだろ?」

「ええ」

「なら、そういうのを持ち込んできた奴もいるはずだ。初めて見る物でもないだろう」

「自分で使うのは初めてなんですよ。他の人達は私にくれたりはしませんでしたし、私もそんな似興味無かったものですから」


 そう答えながらロンソが銃を腰に戻す。ジョージ達もそれに続いて持っていた銃をそれぞれ仕舞う。


「じゃあこいつも初体験って訳か」


 それからユリウスが背中に腕を回し、火炎放射器のノズルを前に伸ばす。他の面々もそれに倣ってノズルを手に持つ。


「使い方はわかってるな?」

「構えて、狙いを定めて、引き金を引く」

「それでいい」


 ロンソの返答を聞いたイヴァンがケラケラ笑う。そうして五人が準備を済ませていると、洞窟の奥がやにわに騒がしくなっていく。


「こっちに気づいたか」

「さすがにそうでしょうね」

「なら、やるか」


 ジョージがレバーを捻り、発射口の下部から火を点ける。他四人もそれに従い、その間にも騒音の群れがどんどんこちらに近づいてくる。


「燃やせ。動く奴は全部敵だ」


 ジョージの言葉に、全員が頷いた。





 そこから先は、入口で行われた事以上に悲惨な殺戮だった。出張ってきたオーク達は目の前の人間達が放つ炎の柱をまともに受け、一人残らず丸焼きにされた。五人は入口で引き金を引くだけの簡単な作業をこなしているだけだったが、オークにとってはまさに地獄であった。


「あれはマズそうだな」

「さすがに食おうとは思わないわね」


 豚の連中に炎を吹きかけながら、イヴァンとヨシムネが言葉を交わす。その一方でジョージとユリウスは淡々と敵を燃やしていき、ロンソはそのオークの燃えていく地獄絵図を醒めた目で見つめていた。

 幾筋もの火柱が洞窟を照らす。真っ赤な炎が豚を焼き、焦げた臭いをまき散らす。火達磨になったオークが、体についた火を消そうと踊るように体をよじらせる。その内抵抗を止め、全身から力をなくしてその場に崩れ落ちる。まったく一方的で、凄惨な光景だった。


「もう終わりか?」


 それから数分後、洞窟の奥から敵が現れなくなったのを見たイヴァンが声をかける。他の四人も火を噴くのを止め、放射器を下げながら奥に目をやる。

 洞窟の奥に灯りは無く、人の目では捉える事の出来ない暗黒が広がっていた。


「どうやら打ち止めのようですね」


 その暗がりを見ながらロンソが呟く。横にいたヨシムネがそれに反応する。


「わかるの?」

「魔力でわかります。彼らの気配はどこにも感じられません」

「全滅させたって事か」


 ユリウスの問いかけにロンソが頷く。それからユリウスはジョージの方に向き直り、彼の視線を感じたジョージは小さく頷いた。


「奥に進もう。油断するなよ」


 部下の三人が揃って頷く。しかし彼らが前に進もうとしたところで、唐突にロンソがそれを止める。


「待ってください」

「なんだ?」

「奥から誰か来ます」


 最初に反応したジョージは眉をひそめた。オークは全滅したのでは無いのか?


「まだ生き残りがいるってのか?」

「違います。オークではありません。この感じは……エルフ?」


 顎に手を当てながらロンソが言葉を漏らす。四人は一斉に顔を見合わせた。


「エルフだと?」

「またファンタジーな奴が出てきたな」

「ここも十分ファンタジーなんだけどね」


 ロンソが顔を上げたのは、彼らがそこまで話を進めた時だった。


「来ます」

「何?」


 全員がロンソの視線の向く先へ顔を向ける。その洞窟の奥、暗黒の中から、やがて一人の少女が姿を見せてきた。


「……」


 尖った耳と灰色の肌が特徴の、小柄な少女だった。手入れの済んでない髪はボサボサで、その顔は明らかに怯えていた。

 手足には枷が填められ、そこから分銅のついた鎖が伸びていた。


「あいつがそうなのか?」


 ジョージがロンソに問いかける。ロンソは神妙な面持ちのままそれに頷く。


「奴隷か?」

「見た感じそれっぽいな」


 ユリウスとイヴァンが言葉を交わす。彼らの話を聞いた少女はより一層怯えた表情を浮かべ、思わず後ずさりする。


「どうするの、リーダー?」


 ヨシムネがジョージに意見を求める。話を振られたジョージは悩ましげに顔をしかめ、そのままちらりとロンソを見る。


「私もあなたに従いますよ、リーダー」


 ロンソはしれっとそう答えた。ジョージは一瞬怒りを覚えたが、すぐに気持ちを切り替えた。

 この状況をどうするか。それを決めるのが先だ。


「仕方ない。じゃあ……」


 ジョージが決断を下したのは、それから数秒後の事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ