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ガンマン

 用意するもの。

 撃ち捨て式のロケットランチャー三丁。

 手榴弾。とにかくたくさん。

 突撃銃。人数分。

 散弾銃。人数分。

 小口径の拳銃。人数分。

 プロテクターと防弾チョッキ。セットで人数分。

 ロープ二百メートル。

 弾薬。積めるだけ。

 銃座付き装甲車一両。

 作戦目標。跡形も無く破壊すること。

 

「……これで作戦は以上だ。わかったな?」

「これブリーフィングじゃなくて、ただの確認作業だろ」

「いいんだよ。今回のは特に頭使う仕事じゃないんだ。やりたいようにやればいいんだよ」

「もうすぐで着くぞ。準備しろ」

「ああ、わかった。皆聞いたな? 手筈通りに動くぞ。車が陣地に突っ込んだら、一斉に飛び出す。後は規定時間まで、徹底的に破壊して回る」

「チリ一つ残さないようにね」

「いいね。シンプルでいい」

「単純なのは何物にも勝るからな」

「あと三十秒!」

「最終チェック! 弾詰まりとかは大丈夫か?」

「問題ない!」

「十秒!」

「構えろ! 行くぞ!」





 その日、ワイズマンが受けたのは破壊工作だった。依頼主は人間界にある、とある都市国家の長。目標は敵国が自国領土のギリギリ手前に設営した前線陣地であった。

 その都市国家は自国の北にある、もう一つの都市国家と戦争状態にあった。開戦の原因は、両国の領土の間にある一つの小村をどちらが領有するかというものだった。両者はまったく譲らず、すぐに全面戦争となった。争いの原因となった小村が戦争の余波で消し飛んだ後も、互いに矛を収めることはしなかった。

 ワイズマンにとってはどうでもいいことだった。彼らにとっては、仕事をこなして金を貰えればそれで良かったのだ。それにロンソとしても、人間同士が戦争をしてくれるのは非常にありがたかった。人間の産み出す負の力は、すべからく魔族の力の糧となるからだ。

 ワイズマンはその依頼を二つ返事で受け入れた。その国に同情したわけでも、敵国の思想なり文化なりに反発を覚えたわけでもない。ただこちらの方が早かった。それだけである。

 

「ちょうどいい機会です。ここで私のプランを実行に移すとしましょう」


 そしてこの時、ロンソがそんなことを言った。彼女はそれから、先日イヴァンに話していた腹案を、改めて全員に披露した。

 

「そんなんで本当に荒稼ぎできるのか?」

「大丈夫です。混乱と破壊、そして恐怖と苦痛こそ、魔族にとっての最上の糧。これをこの世界に一挙に呼び込むには、これ以上ないほどの計画であると自負しております」


 ロンソは自身の計画に絶対の自信を持っていた。初耳のジョージ達は最初彼女を訝しんでいたが、結局は彼女の案に乗ることにした。自分達にデメリットが無く、特に断る理由が無かったからだ。

 

「ありがとうございます。では早速、派手に行くとしましょう」


 ロンソはそんな彼らに感謝の言葉を述べ、それからとても意地の悪い笑みを浮かべた。

 そして依頼遂行当日。計画は実行に移された。ワイズマン達はこの世界の武器ではなく、賢者達の元いた世界にあった武器や装備を、こちらの世界に大量に持ち込んだ。これには先日厄介になった工業都市ヘイムゼンの長、ベトルードの協力あってのことであった。

 そうして持ち込まれた過剰な火力を武器に、ワイズマンは目標陣地に装甲車で突っ込んだ。猛スピードでこちらに向かって爆走する、見たこともない巨大な鉄塊を見た兵士たちは、大いに動揺した。そして彼らの動揺をよそに、デザートカラーで塗装された装甲車はなんの躊躇いも無く陣地のど真ん中まで驀進した。

 陣地の真ん中で停めると、ワイズマンはすぐさまフェイズ2に移行した。装甲車の後部ハッチを開き、そこから防弾スーツと重火器で完全武装した賢者達がわらわらと出てきた。

 

「なんだあれは?」


 兵士達は最初、それを敵と認識できなかった。あまりにも常識から外れた存在ゆえに、彼らはそれに対してどう対応していいのかわからなかったのだ。

 そんな棒立ちの兵士達に向かって、完全武装したワイズマン達は一斉に引き金を引いた。フルオートでばらまかれたアサルトライフルの銃弾は、兵士達の身に着けている鎧を易々と貫通した。

 

「え」


 何をされたのかもわからず、兵士達は一瞬で意識を刈り取られていった。聞いたことも無い轟音をBGMに全身蜂の巣にされた彼らは、地面に倒れる頃には既にその意識を暗黒の彼方へ飛翔させていた。

 ワイズマン達は一マガジン分の銃弾を盛大にばらまいた。そして弾を撃ちきった彼らは、仁王立ちのままマガジン交換を行った。

 弾倉と銃本体が擦れあう、乾いた音が辺りに響く。彼らを遠巻きに取り囲むように、穴だらけになった兵士の死体がそこかしこに転がる。

 その静寂の中、生き残った兵士達はようやく自分の置かれた状況を理解した。

 

「敵だ! 敵襲!」


 誰かが叫ぶ。その声を銃声がかき消す。何もできないまま、銃弾の雨を浴びた兵士達がばたばたと倒れていく。

 剣や槍を構える者もいた。身の丈ほどもある、巨大な盾を構える者もいた。アサルトライフルの弾丸は、それら全てを鼻で笑って撃ち砕いた。

 兵士達がどんどん倒れていく。運転席にいたユリウスも機銃座に移り、四方八方に弾丸を撃ちまくった。兵士の死体がさらに増えていく。ワイズマンはそれだけで満足せず、持ってきた手榴弾を手当たり次第に投げまくった。

 陣地の中には、宿営用のテントや資材を詰め込んだ木箱が大量に配置されていた。その殆どを、投げ込まれた手榴弾が無差別に破壊していった。ユリウスの動かす機銃座も、その破壊活動に一役買った。

 

「こりゃいい。みんなして進んで的になってくれる。気分いいぜ!」

「全部ぶっ壊せ! 容赦するな! 全部だ!」


 彼らは破壊と殺戮を進んで行った。心からそれを楽しんだ。


 

 

 

 彼らはそのような破壊活動を徹底的に行った。五分も経たないうちに、その陣地は死体と残骸の転がる、ただの荒れ地と化した。

 さらにワイズマンは、それと同じことを定期的に繰り返した。彼らは両方の都市国家からの依頼を選り好みせずに全て引き受け、両者の前線基地や補給ライン、郊外の田園地帯や都市部を隔離する検問一帯を等しく破壊していった。酷い時には、城下町の一角を瓦礫の山にしたりもした。そしてその破壊を行う際、彼らは常に「異世界」から持ち込んだ武器を手にした。

 当然、二つの都市国家は敵対勢力にも肩入れする彼らを批判した。しかし彼らはワイズマンの「破壊力」を身をもって知っているため、強く出ることは出来なかった。それにもしワイズマンの反感を買って敵方についてしまったら、それこそ破滅が待っている。対等な抑止力を持たない彼らは、その破壊魔の集まりを野放しにしておくしかなかった。

 その地方において、ワイズマンはまさにやりたい放題であった。

 

「おい、あの話聞いたかよ?」

「ああ。なんかヤバい連中が金を巻き上げてるって話だろ?」

 

 彼らの活動規模自体は、とても小規模なものだった。しかしその破壊行為は苛烈で、非常に摩訶不思議な代物であった。とある片田舎にポンと出現した戦闘集団は、当然注目の的になった。

 噂は風に乗って遠方まで届いた。南の果て、絶海の孤島に建てられた小国や、遥か北の山々に囲まれた町にまで、「あの地方には途轍もない魔法の力を行使する金の亡者が巣食っている」という話が流れ着いた。それだけワイズマンのやったことはショッキングなことであった。

 

「なんでもそいつら、今まで見たことも無い武器を使って暴れ回ってるらしいぜ」

「古代文明の遺産から発掘した魔法の武器を使ってるんじゃないか」

「違うよ。そいつらは宇宙からの贈り物を武器として使ってるんだよ。その連中はきっと、宇宙からの使者なんだよ」


 そして噂には当然尾ひれがついた。彼らは自分を含めた周りの連中が当事者と会ったことが無いのをいいことに、あることないこと好き放題話して回った。偏った誇張を施された噂はまた極端に偏った噂を生み出し、もはやどれが真実なのかわからない状態にまで事実を変質させていった。

 

「その魔法の武器、使ってみたいと思いませんか?」


 その時、不意に奥の方から声が聞こえてきた。その田舎町の小さな酒場に屯していた酒飲み達は、その声のする方へ一斉に赤ら顔を向けた。

 そこには一つのテーブルを独占してのんびり酒を飲む、一人の女がいた。その女は顔の上半分を仮面で隠し、全身を黒いローブで覆い隠していた。現在進行形で繰り広げられている酒場の喧騒とは無縁な、静謐な雰囲気を湛えた女だった。

 一言でいえば、浮いていた。

 

「もしよろしければ、私がそれを皆さんに提供してもよろしいのですがね。どうでしょう? 乗ってみる気はありませんか?」


 女は持っていたグラスをテーブルに置き、ゆっくり男たちの方を見ながら声をかけた。男たちは黙って女を見つめていた。

 しばしの沈黙が訪れる。周りはまだ好き放題に騒いでいた。そして数瞬の後、それまで無言で女を見ていた男たちは、途端に吹き出し笑い声をあげた。

 

「お前、なかなか冗談がうまいじゃねえか!」

「お前みたいな犬の骨が魔法の武器だあ? 笑わせんじゃねえよ!」

「おい嬢ちゃん。次はもっとマシなギャグ考えてくるんだな!」


 男たちは好き好きに言葉を吐き、容赦なく笑い続けた。女は顔色一つ変えずに、その男たちを見つめていた。

 女がおもむろに右手を懐に潜り込ませる。女はそこから一つの物体を抜き出し、それを笑う男たちに突き出して狙いを定める。

 男たちはまだ笑っていた。女の存在を完全に忘れ、顔を真っ赤にして爆笑していた。

 やがて男の一人が、笑いながら酒の入ったグラスを掲げる。女が引き金を引く。乾いた銃声が唸る。

 次の瞬間、男の持っていたグラスが砕け散った。

 

「……!?」


 グラスが眼前で砕け、酒が顔面にぶちまけられた瞬間、男たちは笑うのをやめた。笑い声を息ごと喉の奥に引っ込め、目を大きく見開いて割れたグラスを凝視した。

 銃声が酒場の喧騒をかき消した。遠巻きにそれを見ていた他の客は、一斉に驚いて席から立ち上がっていた。

 そんな客と、それまで笑っていた男たちは、やがて件の女の方へ視線を向けていった。そこが酒場の騒ぎを無理矢理止めた、音の発生源だったからだ。

 件の女は、見たことも無い物体を手に持ち、それを男たちに向けて突き付けていた。物体の先端には穴が開いており、その穴の奥から煙が漏れ出していた。

 

「次は顔を吹き飛ばす」


 女が静かに告げる。撃鉄を起こし、リボルバーを回転させる。

 男たちはそれが、自分達に向けられた死の宣告であることをすぐに悟った。男たちはそのリボルバー拳銃がどのようなカラクリで動いているのか知らなかったが、それが危険な代物であることはすぐに理解した。

 

「ま、待て! 悪かった!俺達が悪かった! 謝るから!」


 グラスを割られた男がすぐに頭を下げる。一緒に笑っていた他の男たちも、こぞって女に頭を下げる。地べたに降りて土下座する者までいた。

 女は無表情のままだった。そして女は拳銃を向けたまま、再び男たちに向かって言った。

 

「それで、どうします? この魔法の武器、使ってみたいとは思いませんか?」


 男たちが顔を上げる。その視線は女の手にある「魔法の武器」に向けられていた。男たちは宝箱を前にしたように生唾を飲み込んだ。

 食いついた。ロンソはにやりと笑った。

 

「ほ、本当にくれるのか? そのやばい奴、本当に?」

「ええ。ただで差し上げますわ。もちろん他の方にも」

「俺達も貰っていいのか、それ?」

「当然です。なんならここにいる全員に配ってもよろしいですよ」


 後はばら撒くだけだ。

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