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トーキング

「なんだ!」


 遠方で爆発が起こる。全員がそちらに意識を回し、その赤々と燃える炎と黒い煙を凝視する。火元の戦闘機は完全にスクラップと化しており、使い物にならないのは誰の目にも明らかであった。


「なんだ、何が起きた?」

「そんなの知るかよ!」

「物陰に隠れろ! 隠れろ!」


 商人が驚き、ユリウスが大声で返す。同時にジョージが指示を飛ばし、全員がそれに従う。ユリウスはすぐさま商人の首根っこを掴み、一緒に装甲車の影に隠れる。


「なんだよあれ、ここには爆弾も一緒に積んであるのか?」

「そこまで不用心じゃありませんよ。危険物はちゃんと別室で厳重に保管してありますって」

「どれが危険か区別出来てるのかよ?」


 腰のホルスターから拳銃を抜きつつ、ユリウスが商人に問いかける。商人もおどおどしながらそれに答えたが、それは却ってユリウスの不審を煽るだけであった。


「リーダー、どうする? このまま睨めっこか?」


 一方でイヴァンが、向かい側のバンに隠れていたジョージに声をかける。ジョージはそに反応し、ヘリコプターの陰にこもっていたイヴァンに言い返した。


「じゃあお前が行ってくれるか? 俺は嫌だぞ」

「なんだよそれ。俺だってゴメンだよ。向こうに何がいるのか全然わかんねえんだからよ」

「ええい、根性無しめ」


 二人は不毛なやり取りを繰り返すばかりだった。この時二人は、もっと言えば向こう側の世界からやってきたワイズマンの全員が、出火元のどこかに「犯人」がいると踏んでいた。そうでなければ、戦闘機が勝手に爆発するなど絶対にありえない。


「そんなものなんですか?」

「中に人が乗って動かすんですか……」

「あれ生き物じゃないのかよ。変なデカブツだな」


 そしてこちら側のメンバーは、ヨシムネから件の「戦闘機」と呼ばれる物体のおおざっぱな説明を聞き、それの正体を把握していたところだった。ロンソとエリーは純粋に驚き、フリードに至っては若干落胆した気配すら見せていた。


「でも、いつまでもこのままじゃ駄目だろ。何が起きてるのか早く確認しないと」

「あと消火もしないと。このままじゃ他の奴にも火が回って、まとめて吹っ飛ぶぞ」


 イヴァンとユリウスが口々に言い出す。全部正論だった。ジョージもそれを理解し、無言でヨシムネを見ながら彼女を指さした。


「うそ、私が?」


 ヨシムネはそれの意図をすぐに理解した。ジョージも頷き、続けて自分自身を指さす。そして再度ヨシムネを指し、最後に燃えさかる戦闘機を指し示す。


「ああもう、わかったわよ」


 ヨシムネはうんざりした声で返した。ジョージもそれに頷き、拳銃を引き抜く。ヨシムネも同様に拳銃を手に取り、ゆっくりとカバーから体を出していく。

 それにヨシムネも続く。二人は中腰で元いた場所から出ると、近くにある別の隠れ場所に素早く身を移す。そうして慎重に体を隠しながら、二人は距離を詰めていった。


「待った」


 そうしてある程度まで進んだ後、ジョージが唐突にストップをかける。ヨシムネもそれに従い、物陰からちらりと顔を出しつつジョージに問いかける。


「どうしたの?」

「あれを見ろ」

「あれ?」


 ジョージの指さす方向にヨシムネが目を向ける。そこには全身から煙を吐き出す、水色の物体が転がっていた。

 大きさは大の大人より少し小さい程度。どことなく瑞々しく、微かに震えている。こちらに向かって這いずってきており、明らかに生きていた。


「なにあれ」

「スライムじゃないか?」

「スライム?」


 ジョージの返答を受けてヨシムネが眉をひそめる。しかしヨシムネがそれに対して何か言い返す前に、ジョージが立ち上がってそれに向かって声をかけた。


「おい、お前、生きてるのか?」

「え、ちょ」

「そこのお前。生きてるなら返事しろ」


 ヨシムネは困惑した。いきなりスライムらしき物体に声をかけ始めたジョージに、彼女は唖然とした表情を向けた。そしてこの時、後ろに控えていた他の面々もジョージの声に気づき、同様にカバー元から顔を出してジョージを見据えた。


「何してるんだあいつ」

「何かいたのか?」

「こっからじゃよく見えねえな」

「お前! 聞いてるのか! わかったら何か反応しろ!」


 後方でのやり取りを無視して、ジョージが物体に声をかける。彼の言葉には次第に熱が籠もり始め、声援をかけているようにも見え始めていた。そしてヨシムネは何か馬鹿な物を見るような目つきでジョージを見ていた。


「おい、見ろ! さっき動いたぞ! こっちの言葉がわかるみたいだ!」


 そしてジョージが嬉しそうに、そのヨシムネに声をかける。その目は子供のように輝いていた。

 ヨシムネはもう呆れて声も出なかった。





「人間だと?」

「ええ。結論から言うと、あれは元人間です。人間が魔法によって変身した、と言うべきでしょうか」

「そんなこと出来るのか」

「可能ですよ。やり方さえ覚えれば誰でも出来ます。非倫理的で誰もやりたがらないだけです」


 「それ」が意識を取り戻した時、「それ」は周囲から声が聞こえてくるのを感じ取った。薄暗い空間の中、どうやら自分のことを話しているようだ。そのことに気づいた「それ」は、続いて全身を動かして周りの状況をより詳細に知ろうとした。

 しかしそこで、「それ」は自分の体が動かないことに気づいた。原因はすぐにわかった。「それ」は自分の足下に描かれた魔法陣の存在に気づき、そしてそれが「踏んだ対象の身動きを一切封じる」能力を有していることを即座に把握したのである。


「おい、息を吹き返したみたいだぜ」


 そうして「それ」が動けないなりに身の回りを調査していると、目の前にいた男の一人が「それ」が動いたことに真っ先に気づいた。そして続けざまに残りの面々も「それ」に気づき、一斉に「それ」に向かって顔を向け始めた。

 一方でその人間達を見た「それ」は心底驚いた。その場にいた全員が、何かしらの動物のマスクをかぶっていたからだ。慣れてくると馬鹿馬鹿しく見えてくるが、それでも最初は驚かずにはいられなかった。


「生きてるのか?」

「ええ、生きてますよ」

「あれが人間ねえ」


 動物のマスクを被った面々は、物珍しそうに「それ」を見つめていた。まあ無理もない。周りから向けられる好奇の視線を受けて、「それ」は優越感に浸り始めた。彼、もとい「それ」は、今まで地下にこもって実験ばかりしてきていた。だから自分の実験を評価されることは一度も無く、これだけ注目されるのは初めてだったのだ。


「おいお前達、私に何か用なのかな?」


 そして気を良くした「それ」は、自分からマスク人間達に声をかけていった。マスクマン共はすぐにそれに気づき、そして驚きの反応を見せた。


「喋った!」

「本当に生きてる!」

「スライムって喋れるんだな!」


 非常に初々しかった。その子供らしい反応が、「それ」にとっては心地よかった。サークルの同胞達は絶対に見せないその生のリアクションを前にして、「それ」はさらに気を良くした。


「その通り。私は生きている。これでもこうなる前は、それなりに名の知れた魔術師でね。こうして人からスライムに変異するのも、お手の物なのさ」

「自分からその格好になったのか?」

「そうだ。人間の体は何かと不便だから、より効率的な姿になったんだよ」

「へえ、そりゃ凄い。俺は魔法が使えないから、尊敬するよ」

「そうだろう、そうだろう。私は天才だからな」


 ライオンのマスクを被った男が話しかけてくる。「それ」は自分が拘束されていることも忘れて、すらすらと彼の問いに答えていった。


「その魔法は自分で考えたのか?」

「いいや、既存のものを使った。自分なりにアレンジは加えたがな」

「仲間の協力は借りたのか」

「それは違う。一人で研究した。そもそも、どいつもこいつも自分の研究にばかりかまけて、仲間意識なんてものは皆無だ。ま、私も連中に気を遣うことは無いんだが」

「お前も苦労したんだな」

「なあに。この程度、屁でもない」

「なんであの時爆発したんだ?」

「私も知らん。あの鉄屑の近くに水たまりがあって、その近くで火を点けたんだ。もちろん私の開発した新型魔法でな。そうしたら足下の水たまりに引火して、あの通りだ」

「仲間は今どこにいる?」

「キレニニス城だ。昔は貴族が使っていたが、今は廃城になっている」

「そこをお前達が買い取り、根城にしていると言うわけか」

「そういうことだ。お前中々鋭いな。気に入ったぞ」

「あなたのような大人物に評価されて光栄だよ。ところで、お前は月光の一人だな」

「そうだ。魔術サークル月光の一人。もっとも強大な魔術師の一人だ。もっと敬うが良いぞ」


 「それ」が得意げに言葉を返す。そしてそこまで言ったところで、自分の置かれた状況を理解する。狐のマスクを被った女の両手が光り、そして自分の周囲に青白く光る槍が何十本も向けられていた。


「最後の質問だ」


 元魔術師のスライムに向かって、ライオン男が低い声で詰問する。


「お前の名前は何だ?」


 失敗した。スライムは後悔したが、後の祭りだった。

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