もんもん
とにかく今日は悶々としていた。いつもは通り過ぎてしまう、あの門の向こうに行ける気がした。そしてとうとう来てしまった……
ぼくが門に手をかけると簡単に開いた。遠くに白い扉が輝いて見えた。あそこまで歩くのはちと怠い。チャリで行こう。ぼくは乗って来た自転車のサドルに跨った。
「もんもんしてる」
え? サドルが喋った?
ぼくは悶々としながらペダルを漕いだ。
「もんもんしてる」
え? ペダルが喋った?
ぼくは悶々としながらスピードを上げた。
もうすぐ扉だ。ぼくはスピードを緩めてブレーキをかけた。
「もんもんしてる」
え? ブレーキも喋った?
ぼくは扉の前に着いた。
「おかえりなさいませ」
扉が開き天使が迎えてくれた。ぼくは天使に導かれ、扉の向こうに足を踏み出そうとした。すると天使が言った。
「困ります。あなたはここには入れません。もんもんしてます」
え?
天使は扉を閉めてしまった。ぼくは仕方なくまた自転車に乗ろうとした。カゴを見ると紙袋が入っていた。そうかまだ終わってなかった。ぼくは慌てて駅に向かった。
「明日開店します。宜しくお願いします」
ぼくは駅前でビラを配布していた。悶々としながら……
現世にいる限り悶々は付いて回る。ビラは結局配りきれなかった。
やりたい事がなんだか分からないとか、やりたい事がありすぎるとか、何もかも上手くいかないとか、ぼくはまだ何にもやりきってないじゃないか。
ぼくは悶々としながら自転車に乗った。帰り道、犬がもんもんと鳴いていた。




