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人外と人間  作者: 九十九屋
ノースランド国
5/7

鬼と少女

人外の食事は様々

ある一族は霞を、ある一族は花の蜜を

しかし、そんな彼らでも人食いだけは禁止されています。それこそ、それ以外を食べられない種族は実力と理性を持った一族として誇りを持って代用品で済ませます。


これは、人を食べて償いを続ける鬼のお話。

昔々、一人の少女がいました。

少女は雪の日に一人の人外と出会います。それは、怪我をした赤い鬼でした。少女は鬼を家に連れ帰ります。そして、怪我をした鬼に手当てをしました。そこで鬼は聞きます。

「どうして助けてくれた?」

少女は答えます。

「怪我人を助けるのは当たり前よ」

鬼は笑いました。


「人間は嘘をつく、信じられない。この傷は俺を恐れた人間のつけたものだ」


その言葉に少女は涙を流しました。何度も謝少女を鬼は見つめていました。




やがて、長い冬が終わり雪が溶け始める頃に少女と鬼はお互いに好きになっていました。

「恩を返したい。なんでも願いを1ついえ」

「願いが出来たらいうわ」

少女が願いを口にすることはありませんでした。なぜなら、そんな少女を鬼は食べてしまったのです。少女の全てを平らげた悪い鬼は、すぐに王国の騎士様たちに捕まったのでした。



□□□



北にあるノースランド国には大罪人がいる。

御伽噺にも登場するほどの有名な罪人は、赤い鬼の人外だった。彼の罪については単純なものだ。


「人食いの罪」


その罪を贖う為に国の地下牢に捕らえられて既に1年が経っていた。

人食い鬼の警備は厳重だ。鬼は力の強い人外ゆえに警備するのも人外の中でも精鋭だった。

「聞こえるな」

狐の人外が耳を澄ませながら呟く。それに狼の人外は溜息を吐いた。

「またか」

「また、だ」

目を向けると、長い階段を下りてくる足音が聞こえた。そして、見えたのは白い服を着た文官だった。


「おはようございます!今日もお願いします!」


元気のいい声で彼が言うと警備の2人は呆れたように文官を見て道を明けた。

「何度もいうが」

「『格子には近寄らない』『壁際にそってあるく』『余計なことを言わない』ですね」

罪人と会う上での決まり事を説明されて既に半年経っている。

最早息をするように出る内容を口にする文官。それに狼が呆れる隣で狐がドアを開けた。人間には開けられないような重く厚い鋼鉄の扉を開くと、光一つない廊下が見えた。そこに入る前に狐が足元のランプを取ると、ガラスを持ち上げて息を吹きかけた。

途端に、吐息は火となって中の蝋燭に灯る。

「はい」

「ありがとうございます!また、その吐息についても「さっさと行け」げふ!」

狼が文官を中に入れると同時に彼らも中に入ってドアを閉ざす。

「てめぇ本当にいい加減にしろよ」

「え?ダメですか?」

「学者の考えること、わからない」

「だなぁ」

「酷い!」

白い服はノースランド国でも有名な研究者の証

その成果は様々だが、目の前の学者は魔物の解析で大きな成果を上げているそうだ。と思いながら、警備は今日も罪人の面会に立ち会うのであった。




「おはようございます!」

楽しそうな声と共に見えた小さな明かりに、牢の中にいた男は眩しそうに眉間に皺を寄せると目を開いた。その顔には『鬱陶しい』と描かれている。そんな鬼に彼は気がついていないのか笑顔で聞いた。

「では、今日もよろしくお願いします」

深々と頭を下げる男に鬼は深い溜息をつくと横になっていた身体を起こした。


「今日はなんだ?大型魔物以外で動くつもりはないぞ」


その言葉に文官改め学者は満面の笑みを浮かべた。

「ご安心を!今回の相手は3日前に発見された超大型の魔物です!」

格子越しに見せられた絵を見ることもなく鬼は立ち上がると警備に両手を見せる。そこには、鬼の力を抑える呪いの込められた手枷があった。

「さっさとコレを外せ」

「馬鹿か。向こうについてから外すって何回言わせれば気が済む?」

「チッつかえねぇ」

「あぁ?」

「まぁまぁ」

メンチを切り合う狼と鬼を諌めていると、狐が牢を開ける。

それに鬼は枷をつけたまま外に出る。そして、己の罪を贖うために今日も魔物を狩る。それが人を―――恋人を喰った罪の代償だった。




「ありがとうございました」

礼をいう相手を無視して鬼は再び牢に入る。研究者が出て行けば、牢屋は再び暗闇に閉ざされる。それをなんとも思っていない鬼を見ながら、ふと研究者は聞きました。

「そうです。1つ聞いてもいいですか?」

「…まだあるのか」

「はい。1つだけ」

鬼が人間を食べるのは何百年も昔に禁止されている。人を食べる鬼は魔物と同類だと同族からも忌避される。

それなのに


「どうして、貴方は喰ったんですか?」


それに鬼は血のように赤い眼をゆっくりと閉じながら呟いた。

「喰いたかったから、喰っただけだ」



□□□



女は老い、病にかかっていた。女は鬼に言った。

「私を食べて」

女が死ねば鬼は後を追うつもりだったと知っていたのです。それを止めるために女は願いました。『1つ願いを叶える』と言った鬼の誓いを使って、彼の血肉になろうとしたのです。

そうすれば、鬼は女を食い殺した己を許せないから

その願いを鬼は叶えました。


バリバリ

「ありがとう」

ばりばり

「ごめんなさい」


鬼は泣きながら老婆を食べました。こうして、鬼は愛しい人を食べて今日も罪を償う為に戦うのでした。

食べ物には最大限の感謝をしましょう。そんなお話

鬼は人間の倍ほど生きるので、少女が女に、老婆になっても鬼は少ししか歳をとりません。

基本的に人外は人間より長生きなので、人間とは恋に落ちても死別が殆どです。なので、人間との恋愛は人外にとっても危険なものです。

どこかの国では愛を欲して得られなかった吸血鬼もいますが、この鬼は永遠の愛を得て罪人になるという対照的なものとして書きました。

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