王子と悪魔
人外は魔物だ。化け物だ。というのは大昔の人間の間違った認識
それを振りかざすのは人外差別は、危険人物として見られる場合があります。それを振りかざすのが王族や貴族であれば国際問題にもなりかねません。
他国には人外の王族もいれば、人外混じりの王族もいますから
これは、なにも知らない王子と全てを知っている宰相のお話
学園から連れ戻され自室に押し込められる。
「何故だ。何故こんなことに」
第一王子として輝かしい未来の為に尽力したのに
あの人外と手を切れば、誰も王族に対して命令できるものなど居なくなるのに
「何故皆わからない!
あの吸血鬼が王族と同等?魔物と同じ化け物じゃないか!」
「口を慎まれた方が御身の為ですよ」
誰も居なかったはずなのに声が聞こえた。振り返ると、赤交じりの金髪が見えてすぐに宰相だとわかった。こいつも人外、しかも性質の悪い悪魔族だ。
「だんまりですか。まぁ構いません。王の決定を伝えに参りました」
「なんだと?」
「あぁ決定内容は簡単です。王国と友好関係を結んでいた守護契約の個人的な破棄による国家反逆罪により処刑です」
「何故だ!俺は国のためを思って」
「国のためを思うのであれば、尚更です」
「人外の分際でっ」
「大昔の危険思想を振りかざすと王族の籍まで外されてしまいますよ?」
「なっ…!」
手を伸ばす前に宰相は部屋を出て行く。それに俺も出ようとするが、目の前でドアが閉められた。
「っこの国のためにしたことが、何故いけない!」
誰も居ない部屋に俺の声だけが虚しく響いた。
□□□
一人執務室に戻った宰相が小さく漏らす。
「随分と簡単でしたね」
豪華とはいえない椅子に身体を置くと、40年ほど使い込んだ椅子はしっかりの身体に馴染む。まだまだ駆け出しだった職人の作品だが、今では貴族御用達の職人になっていると耳にした。
「やはり、いい腕をしています。この職人だけでも先に余所に逃がしてしまいましょうか」
机に詰まれた大量の抗議文や問い合わせを無視して彼は薄く微笑んだ。
「あぁでも、急がないと折角令嬢と馬鹿が心中してくれるんですから
早くしないと『あの人』に追いつけない」
既に国を出ているだろう『元』守護者の行く先を考えながら、混乱する廊下を無視して鼻歌混じりに魔法を使って積み上げられた書類を退ける。そして、思いついたように目を瞬かせる。
「そうです!急いで国王にお暇を貰わないと」
元々人外である彼が宰相になったのは国や王のためではない。そもそも、悪魔族とは同族以外を身内と見ない人外だ。
その理由として、とある宗教の盛んな国では天使こそが隣人たる人外であり、その他の人外(悪魔は特に)は魔物と同列だとされ奴隷以下の扱いらしい。
「こんな私を受け入れてくれたことには感謝していますが、最近は少し調子に乗りすぎましたね」
吸血鬼という絶対的な守護者に護られたクローディア王国
その契約の為に他国や商人、人外達の信頼は厚い。だが、それを利用しようとするものは多い。
「最後の置き土産くらいはいいでしょう」
魔法によって施錠された引き出しの中身を持ちながら彼は立ち上がる。その書類の中には賄賂や人身売買、違法薬物の密売など『平和』に飽きてしまった貴族達の資料だ。それを片手に上機嫌に宰相は王の下へ向かう。
その途中
「あぁそうだ」
思い出したように呟いた。
「あの貴族令嬢は…まぁいいでしょう」
王子に契約を打ち切るように持ち掛けた美しい伯爵家令嬢
「本当に、本当に愚かな子でした」
宰相である己に恋をした令嬢を利用し
愛の証として王子を篭絡するように仕向け、吸血鬼との契約を破棄するように促させる。
契約の内容とクローディア王国のことを考えれば絶対にしないような話を令嬢は受け入れた。その結果、彼女は国を出、令嬢は伯爵家の籍を外されて牢にいる。全て宰相が考えた通りになった。
「あぁ、本当に
この国は貴方を『貴方』としてみなかったんですね」
契約破棄の為に混乱した城内で、一部は仕方がないと納得している。だが、大半は思っている。
『王子め、余計なことを』
『吸血鬼は慈悲深い。すぐに戻ってくれる』
『そうだ。国が危機に陥れば誰かが助けてくれる』
平和に浸かりきった考えを宰相は鼻で笑いながら王の間に繋がる扉の前に立つ。そして、扉を護る近衛騎士達に声をかけた。
「王に至急お伝えしたいことがあります」
男とは思えないような美しい笑顔を浮かべながら、彼は最後の仕上げに取り掛かった。
宰相さんは悪魔ですが、吸血鬼さんとは旧知の仲
吸血鬼さんを利用するしか考えていない国の現状に堪忍袋の緒が切れた結果です。
吸血鬼さんは国に対して愛着や知り合いがいたから名残惜しかったでしょうが、宰相さんは友人主義者なのであっさりと全て切り捨てました。
因みに宰相さんがキレた原因は王子や王妃の不用意な吸血鬼さん蔑視発言でした。
その話はまた別の話で
ではこれにて