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死んでも愛してくれますか?  作者: 龍華ぷろじぇくと
一話、一つ屋根の下で?
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自己紹介

 しばらく喧騒の中待っていると、突然ガラリと開かれるドア。

 どうやら先生が来たらしいと、一斉に静かになる。

 その先生は……というと……黒板消しの直撃を受けて頭を真っ白に染めていた。

 だけど笑いは起きなかった。


 その先生の容姿を見て、こんな悪戯を笑い飛ばす勇気あるバカが居るはずがなかった。

 爬虫類を思わす顔つきと猛禽類を思わす眼。

 唇の色は悪くガリガリに痩せたような男の先生。なぜか白衣を着ていて右手に黒の手袋をしていた。


『おっ、おお~っ、圭くん鬼な手だよっ! 鬼っぽい手の先生発見っ!!』


 一人はしゃぐ溢喜を無視していたのは、何も呆れたからではない。

 圭一は得体の知れない恐怖感みたいなものを感じていた。

 それは自分の頭の上を軸にして白鳥の湖を踊っている溢喜が気にならなくなるくらいに緊張していた。


 なにせ頭に黒板消しが落ちてきたというのに眉一つ動かさず何事も無かったように教壇に向かったからだ。

 誰だってあんな悪戯をされてムカッとこない奴はいないはずなのに、あの先生は全くなんでもないと教壇に向かい濁った瞳でクラス中を見回した。


「始めまして皆さん……若生宏信です」


 ボソボソと呟くような声でいいながら、自分の名前を左手で黒板に書く。ついでに【わこうひろのぶ】と右側に振り仮名も書いていた。

 教壇前の席である二人の生徒が急に鼻を押さえだす。


「今日から一年間皆さんの担任です。よろしく」


 聞き取りにくい声で言いつつ、全員を見渡す。


「何か……質問はありますか? 無ければ自己紹介を終わりますが?」


 殆どの生徒が鬱状態一歩手前の顔で斜め下を向いて小さくなっていた。

 一年間担任がこんな暗い先生なのだ。仕方ないといえば仕方が無かった。


「では質問が無いようなので自己紹介を終わります。それでは……」


 息継ぎをしないような言葉遣いで喋りつつ、出席番号一番の生徒に顔を向ける。


「そこの君から順番に自己紹介。はいどうぞ」


 抑揚の無い声に指名された少年は慌てて立ち上がり自己紹介を始めていた。


「あぅっ、あ、あああ相川在人です。はい、その……よろしくお願いします」


 突然振られたせいでろくすっぽ考えてもいなかった自己紹介をする羽目に。

 急いで立ったせいで机に腹を打ちつけ呻き、顔を真っ赤にさせて必死に自己紹介している彼の姿は、見ていて同情を誘った。

 圭一の手前の今井采香が自己紹介を終えると、圭一が立ち上がる。


「今田圭一です。よろしく」


 無難に答えてすぐに座る。


『はいはいは~いっ! 草川溢喜で~す溢れる喜びと書いていつきって読みま~すっ』


 圭一はとりあえず無視することにした。


「宇津木來よん、気軽にラ~イッって呼んでね~」


 なんて言葉がすぐ後ろから返ってきた。

 溢喜の言葉にジャストのタイミングで返ってきたので思わずドキリとしてしまった。

 つい後ろを振り向くと、自己紹介を終えて座った女がウインクしてきた。

 なんだか気恥ずかしくて慌てるように圭一は前を振り向く。


 うん、これだよこれ。この普通な友達的距離感の雰囲気。中学生活では決して味わえなかったその感覚にある種の感動すら覚えていると、圭一の隣の女子が立ち上がる。


「切裂魑魅です」


 小さい声が耳鳴りのように聞こえた。

 すとんと座った少女の後ろの奴が慌てたように立ち上がる。

 すでに魑魅という少女の自己紹介は終わっていたようだ。

 魑魅は自分の自己紹介が終わると、圭一を再び注視する。

 圭一がそれに気付くと慌てたように前を向いてしまうので、結局圭一は無視することにした。


 最後の42人目、三井初音さんの自己紹介が終わると、即座に放課になった。

 先生が明日の授業に付いて説明をして去っていくと、ようやく教室内に活気が戻ってきた。思い思いに近くの生徒たち同士グループを作って教室から出て行く。


『あ~っ、すんだすんだ~っ』


 やることが無く暇を持て余していた溢喜も両手両足を精一杯伸ばして自由を満喫しているようだ。


『ようやく終わったよトカゲの授業』


「ようやく終わったねぇトカゲの授業」


 まるで溢喜の言葉を追うように後ろから声がかかった。

 半ば反射的に振り向くと、溢喜よろしく背伸びをしている來がいた。

 髪型こそポニーテールで違うし体つきもどちらかといえば溢喜よりも大人だが、なんとなく雰囲気の似ている少女だった。


 背伸びした拍子に制服からはみ出て見える肌色を見つけて思わず顔を赤らめる圭一。

 空中で溢喜が頭を蹴ってきたが、すり抜けてしまって意味が無かった。


「ええと、來さん……だっけ?」


「ん~っな堅っ苦しい。來でいいよラ~イッでさ」


 余りにもノリの良い言葉遣いについつい「うん」と生返事で返す。

 正直こんなに積極的に話しかけてくる女の子には免疫が無いので(幽霊は別として)心臓が無駄に高鳴って喉がカラカラに干上がってしまう。


「ねぇねぇ、そこの前の子……采香ってったっけ?」


「え? あ、はい」


 突然自分の名前を呼ばれた采香が慌てて立ち上がる。

 こちらは來と対照的で大人しい感じの女の子だった。

 髪も來のように茶髪ではなく艶光するほどの綺麗な黒髪で、肩口で切りそろえられたそれは、和服が良く似合いそうな可愛らしい顔だった。


「えと……なんでしょう?」


 控えめな笑みを湛えて來の前にやってくる。


「なんか教室での場所近いしさ、仲良くなるためにこれから遊び行かない? カラオケとかぱ~っと」


「え? あの……私そういうのは……」


「ねぇねぇ、そこの娘も行かない? あ、男子足んないからそこに残ってるのも一緒に来なさいよ」


 溢喜も呆気に取られる馴れ馴れしさで一番前でカバンに教科書を詰めていた相川在人と未だに帰る用意すらしていなかった切裂魑魅を無理矢理仲間に引き込み、有無を言わさぬ積極性で逃げ道を塞いでしまう。

 結局は全員がうんと首を縦に振るまで粘る來だった。


『いや~、凄い押しの強さだね圭くん』


 溢喜が圭一の頭を両手で掴んで鯉のぼりのようにふよふよと付いてきていた。

 よく分からないまま五人で行動することになった圭一は、ふと未だに教室に残っている初音といっていた少女に気付いた。


 誰にも声を掛けられず。

 ただそこだけが時間が止まってしまったように、少女は黒板を見つめたまま全く動かなかった。

 まだ帰らないの? そう声を掛けようとして、


「どした~? こ~んなかあい~娘が誘ってんのに来ない気か~」


「あ、行くって」


 來に声を返して踵を返す。


『あの娘……』


 溢喜は圭一が教室を出てもその場に留まっていたが、はっと我に返り慌てて圭一に憑いていった。

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