準備完了
学校へ向かい重たい塩を抱えながら帰り道を歩いている時だった。
前方をこちらへ歩く見覚えのある容姿に気付いた。
向こうも気付いたようで、圭一を見るなり逃走開始、思わず塩を投げ出しおいかけ、なんとか追いつく。
魑魅は圭一が塩を放り出したので、その場で塩の見張りをするようだ。
立ち止まって様子を窺っている。
溢喜は魑魅の横で一緒に待つことにしたようで地面に落下した塩の袋を必死に持ち上げようと努力していた。
さすがに実体化は無理なようで、すり抜けていたが。
「な、何よっ!」
捕まった來はバツの悪そうな声で牙を剥く。
「何よっておまえ、逃げること無いだろ」
「五月蝿いわね、キチガイから逃げて何が悪いのよ!」
來のあんまりな態度を、圭一は許せなかった。
彼女がお堂を開きさえしなければ奴は現れたりしなかったのだ。
自分達がこんなことをする必要も、來に嫌われる必要も。だからつい……
「お前のせいでクラスの皆が死んじまうんだぞっ」
「はぁっ!? なんで私のせいなのよ!」
「クビククリの封印を解いた。あの堂にいた奴だ」
「あ、頭おかしいんじゃないのっ」
「お前にはどうせ見えないんだよな? 俺たちの首についた黒い縄は……」
黒い縄。この言葉に來は思わず固唾を呑んだ。
「それ……ホント?」
「もしかして、見えてるのか?」
「今朝、鏡の前で自分の首に……ね。気味悪くて病院行ってみたけど見えない、分からないって言われて……」
圭一の言葉を事実と気付いたらしく、血の気の引いた顔をになる。
ようやく、彼女も自分が何をしたかに気付いたようだ。
本当に、今までは遊び感覚だったのだ。どうせ自分には幽霊が見えないんだから幽霊なんて存在する訳がないと。ただ想像上の生き物に恐がって肝試しをしていただけなのだと。
それが、どれ程危険な行為だったか分からずに、解いてはいけないソレを解き放ち、周囲を含めた無理心中を行おうとしていたことに。
本当に、幽霊は存在する。
それに気付いた瞬間、彼女は自分の行った愚かさを思い知った。
でも、もう遅過ぎた。
既にクビククリは解き放たれ、彼女の手に余る存在となっているのだ。
もしも彼女程度の力で浄化できる存在であれば、クビククリの呪いなど彼女が掛かるはずもなし。
自身の首に巻きつく黒き縄は、彼女の力をクビククリが上回っていることを如実に表していた。
「わ、私、知らなかったのよ、まさかこんなことなるなんて……」
「ああ、その通り、お前は知らなかった。でもよ、だからってこのまま知らんふりしてる気か? 俺たちは今からクビククリ除霊を開始する。場所は学校だ」
それだけ伝えて圭一は魑魅と学校へ向かう。
信じられないといった面持ちで圭一たちに何かを言おうとしていた來を放置して塩を拾い直し、さっさと進む。
魑魅が心配そうな顔を向けてきたが圭一は大丈夫と小さく呟いて返した。
学園に着いた圭一たちはすぐさま教室に集まった。
すでに用意を終えていたらしい七不思議の面々は弥生と初音を残してどこかに行ってしまったようだ。
『遅かったな』
開口一番、弥生がしかめっ面を向けてきた。
その顔は御使いも満足にできないのか? と責めるような目である。
「帰り道に來とあってね」
『小娘に会ったのか。どうだった? やはり奴にもクビククリの力は及んでいたか?』
「ああ。しっかり巻きついてやがったよ」
圭一の言葉に弥生の顔がさらに険しくなった。
『これは不味いやもしれんな。下手を打つと我々だけでは無理かもしれん』
弥生の言葉は予想外のものだった。
封印を行うというのだからてっきり普通に封印する力があるものだと思っていたのだが、どうやら一か八かの賭けを行っている様な様子を弥生から感じる。
「え?」
『ああ、心配はいらん。まだ予想の範囲内だ』
険しい表情から一変、にこやかな笑みを浮かべた弥生はすぐにでも準備に取り掛かろうと教室から散って行った。
一抹の不安を抱えつつも、圭一たちも用意に取りかかる。
といっても、彼らが行うことなどたかが知れている。
学校に人が居残らないように見回ることと、石灰で校庭に方陣を描くことである。
弥生は色々と忙しいらしいので、花子の指示の元、圭一がライン引きを使って魔法陣を描いていく。
小型の方陣は自分たち用の防御結界になるらしい。人が三、四人入れる程の円陣である。
それを引き終えると、次は少し離れた場所に巨大な魔法陣。一応、そこが封印地となる。
この場所に封印するのは、初音のせいでもある。
自縛霊であるため教室から動けない初音を加え、七不思議の面々が六芒星を描くように配置され、中央で弥生が指示だししながらクビククリを封印する大掛かりな儀式を行うのだ。
運動場のトラックには入らない中途半端な場所なので封印後に御堂を立てて札を貼ってもまず撤去されることもないだろうと、弥生が考えた場所である。
そんな弥生は、只今百葉箱の上で足をぶらぶらさせている三葉に休むな。と怒っている所だった。
といっても、既に三葉のやることは無いので、指を加えながらぶーぶーと言っている三葉。余りクビククリ封印に関してはやる気がないように見える。
ちなみに、百葉箱というのは温度計や湿度計が入っているものなのだが、まだあったんだな。と圭一は思わずうなる。
何せ、数十年前は普通に見かけたらしいそれは小学校くらいにしかないモノだからだ。
すでに殆どの学校からは姿が消えてしまい、この高校に在ること自体が不思議な存在だったが、どうも昔はこの学校は小学校だったようで、その名残らしい。
道理で花子みたいな小さな子がいるはずだ。




