悪霊の脅威
放課後になると、來が采香や在人に声をかけてゲームセンターへと誘う。
しかし三葉や千鶴の入った状態の彼らは用事があると頑なに断り、二人して魑魅と圭一の下へと寄ってきた。
圭一をのけ者にした手前、仲間に入りづらいのか、來は恨めしそうに圭一を睨み一人寂しそうに家へと帰っていく。
先生の呼び出しは完全に忘れているようだ。
さて……と、圭一は周りを見る。
何かを期待するような潤んだ瞳が三つ。
遠くの方では初音が苦笑いを送ってくれていた。
若生先生の元に向かうと、すでに用意が出来ていたようで、そのまま全員で寺に向かうことになった。
若生先生と連れ立ち、寺に二人を預けた圭一と魑魅は、除霊の間境内で緑茶を飲んで過ごした。
すでに千鶴と三葉、溢喜は体外に出ていて、縁側で夕日を浴びながら楽しそうに談笑している。
成仏してしまわないのだろうかと圭一は疑問に思うが、半透明な彼女たちは非常に姦しく、そのまま成仏するようには見えない。
「幽霊って夕方でも平気で外でてんだよな……」
圭一の言葉に魑魅は頷く。
圭一から見える位置には池へと続く石段があり、砂利の敷かれた庭に幽霊たちが浮いていた。
池は魚が数匹泳いでいて、池に直結した石の手水場には獅子威しが湧き水をめいっぱいに溜めては風流な音を立てている。
そこから少し横に目を移せば、四角い石や卒塔婆が所狭しと並んでいる。
浮遊霊は見当たらなかった。
ここの寺の住職は霊に対してはかなり高待遇しているらしい。満足して成仏してしまったのだろう。
「後は……來の奴だけか」
『私たち何も出来ないけどがんばってねお兄ちゃん』
独り言に答えを返してきた三葉に苦笑いを返し、圭一は仕切られた障子へと視線を向ける。
二人は未だに出てくる気配はない。意識のない間にこんな場所に連れてきたうえにお経を聞かせる。
不意打ち以上の酷い嫌がらせだ。確実に怒るだろう。
それにしても……と考える。
あの封印されていた中の何か……クビククリだったかはどこに行ったのだろうか?
解放された以上は何か目的の為に動くはず。
誰かに呪いを振りまくのだろうか? それともどこか遠くへ行ってしまったのだろうか?
自分たちが蒔いた種とはいえ、他人が迷惑になるというのは気分が悪いものだ。
なんとか自分たちで再封印しておきたいが、何処に言ったか、どうすれば封印できるのか全く分からない現状ではどうしようもない。
「今田」
「うぉわっ!?」
考え事を中断させる小さな声に思わず身体が仰け反った。
「って、先生?」
気が付けば真後ろに立っているバイキン先生こと若生先生。
ニタリと醜悪な笑みを浮かべて圭一を見ていた。
相変わらず存在が生理的嫌悪を引き起こす先生だ。
「どうにも君たちと違って強力らしくてね、あの二人は徹夜で除霊するらしい。親御さんにはこちらから連絡するので君たちは先に帰ってくださって結構ですとのことです」
不気味な笑顔に違和感を覚えながらも、圭一と魑魅は幽霊三匹を連れて学校に戻ることにした。
ここで問題だったのが三葉と千鶴で、どうも学校に憑いていた地縛霊らしく、外を自由に歩くことはできないから憑かせてくださいとか訳の分からないことを言われ、しぶしぶ身体を貸す魑魅と圭一。気が付いたときにはもう学校に着いた後で、どうやってそこまで歩いてきたのかの記憶が完璧に飛んでいた。
翌日、いつものように魑魅と二人で学校に着く。
采香と在人は未だに除霊中なのか、学校への道程で出会うこともなく、学校に着いても一向に来る気配はなかった。
來も來で今日は学校を休んでいるのか、ホームルームになっても教室に顔を出さず、無断欠席扱いにされていた。
そこまでなら何も問題の無い日常だ。そう思えただろう。
クラス全員の首に、薄い縄が付いていなければ。
圭一と魑魅は授業中、級友全ての首に巻きついた黒縄を意識せずにいられなかった。
「どうなってんだよ……これ?」
周囲に聞こえないような小さな呟き。
真上を浮遊していた溢喜が降りてきて魑魅と圭一の間に降り立った。
『これってやっぱりクビククリとかいう奴の仕業?』
「おそらくな」
『すごいね。一日でクラス一つ呪っちゃうなんて』
その光景は、見える人には地獄絵図。
初音もこれには流石に驚いたらしく、圭一たちを見てこれはどういうことかと目で訴えていた。
だが、自分達も知らないと首を振って返答する。
先生が入ってくる。バイキン先生は今日も小さな声で出席確認。
在人と采香、そして來が休んでいると確認してホームルームを始める。
互いに見合う相手の首。そこにも確かに、縄があった。
一昨日除霊したばかりのはずなのに、まるでそのことがなかったかのように、圭一にも魑魅にも首に縄が巻きついていた。
これでは、いくら除霊しても意味がない。
元を叩かなければ数日後にはこのクラスから自殺者が、いや、それだけじゃない。下手すれば学級、学校全滅すらありうる。
圭一たちは絶望的な状況に思わず顔を青くするのだった。




