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死んでも愛してくれますか?  作者: 龍華ぷろじぇくと
三話、 身投げ神社の怪?
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両手に幽霊

 前日、学校に帰った圭一と弥生。

 弥生は魑魅から抜け出て初音の隣の椅子に腰掛けると、全く使わなかったボンドを掌で弄びながら、考え込むような顔で俯いた。

 声もかけづらいほどにいらいらとした雰囲気を撒き散らしていた。


 以降は他の幽霊たちが話しかけても一切無視で思考に没頭し、これ以上進展しなさそうな状況を察した圭一と魑魅は、明日も来ることを伝えて学校を後にした。

 つまり、今魑魅は憑かれていない状態のはずだった。


 圭一は自分のベットの端に追い詰められ、寝起きの頭で必死に考える。

 今の状況はなんなのか?

 どうして魑魅はこんな表情をしているのか、この態度はなんなのか?


 全く理解不能である。

 朝起きたら、隣に眠っているはずの魑魅が胸元を見せながら迫ってくる。

 淫夢でも見ているのかと自問自答するが頬をつねっても痛みがあって夢ではないことを告げられるだけだ。


「圭くん……好き」


 熱に浮かされたような魑魅が迫る。

 着ているパジャマは一番上のボタンが外され、肩がはだけるように見えていた。

 赤らめた顔に潤んだ赤と緑の魅惑の瞳。艶やかな唇を見せびらかすように誘うように口ずさむ。


「キ・ス・したいの」


 だんだんと近づく魑魅の顔。思考が纏まらない。

 何が起こっているのかわからない。

 そもそもなぜ俺は迫られているんだ? 溢喜なら分かるがなぜ魑魅に。そんな思いが頭を占めた瞬間。何故かふと圭一は思い至った。

 魑魅のデコをペシンと叩き、圭一は冷めた声でその名を口にする。


「溢喜」


「……」


「魑魅からでてこい」


 カクン。

 魑魅が急に頭を垂れ、意識を失った。

 その背中から、よいしょよいしょと一生懸命這い出て来る溢喜の姿に思わず憂鬱になった。


「お前な……」


 溢喜がでてくると、さも気分悪そうに頭を抱えながら魑魅が起き上がる。


『ち、ちょっと私にもできるかな~って、その……ね?』


「次、魑魅に憑依したら住職さんに頼んで成仏させるぞ」


 魑魅に迫られてちょっと嬉しかったが、魑魅に申し訳なく思うのでもう二度としないようにときつく言い聞かせておく圭一だった。

 むしろ、次のあんな迫り方をされたら自分を止め切れるかわからない。

 相手が本来の溢喜であれば問題は無いだろうが、溢喜に操られた魑魅を襲ったのでは目も当てられない。


 人に憑依できると気付いた溢喜はいつにも増して上機嫌。

 魑魅と圭一が歩く頭上を胡桃割り人形を口ずさみながら踊り狂う。

 在人とは今日は出会わなかった。


 鬱な中学時代を思い出し、向かう十字路。

 いつものように走り去る黒い影。

 溢喜はハイテンションでおっはよ~と元気に挨拶。

 そして、タイミングよく返ってくる返事にほえっとマヌケな声を出す。


「おはようございます」


 十字路の角からやってきた采香が行儀良く挨拶をしたのだった。

 圭一たちも挨拶を交わして三人で登校する。

 采香は圭一が視線を向けるたびに不自然に赤くなりそっぽを向いて、圭一もちらりちらりと采香の首に見える縄が気になり、まともな会話は出来なかった。


 終始無言の魑魅は論外である。

 一人異常なテンションの溢喜は、采香の周りを跳ねながら、子犬のワルツを口ずさみ始めていた。

 あえて何も言わない圭一だったが、なぜ鼻歌で協奏曲やら交響曲を歌っているのかと問い詰めたい気分だったが、溢喜は気にせず新世界を歌っている。

 病院暮らしでそのまま死んだはずなのになぜ知っているのか意味不明である。




 教室に着くと、來が采香を見て睨む。

 なんで一緒に居るの? とでも言いたげに、でもすぐに視線を反らして知らないふりをする。

 圭一が挨拶しても完全に無視していた。


 視線を感じ、前に視線を向けると、既に学校に来ていた在人が慌てて前を向いた。

 在人にも來にも呪いの縄はしっかりと巻きついていた。

 心なし、昨日よりくっきりと見えるようになった気がする。

 そして先生がやってくる。


「ホームルームを始めます。その前に、相川くん。今井さん。宇津木さんは放課後残ってください」


 ざわざわと教室が揺れた。皆何事かと噂しあう。

 当の呼ばれた本人たちはなんとなく自分たちの共通点から呼ばれた理由にすぐ気付く。

 圭一の後ろで來が睨んでくる気配が分かった。


 溢喜は未だにハイテンションで、初音の席を横から覗いて世間話をしていた。

 あいつら仲良くなったよなと、感慨深く頷き溢喜から視線を戻した圭一の目の前で、采香がグラリと傾いた。


 しかしソレは一瞬で、後はまたいつものように先生の話しに耳を傾けていた。

 采香に異変が起こったのは昼休憩に入ってからのことだった。

 それまでは普通に授業を受けていたのだが、食事に行こうと圭一が席を立ったとき、采香は引き止めるように裾を掴んできた。


 そのまま魑魅と連れだって三人。食堂へと歩く。

 圭一と魑魅は隣を歩き、采香は圭一の裾を掴んだままぺたぺたぺたと後ろを歩く。

 なんとなく覚えのあるデジャブな行動に、思わず圭一は聞いていた。


「三葉?」


 今まで後ろを付いてきていた采香がぴたりと止まる。

 振り返ってみると、どうして分かったのかという驚きでいっぱいの顔をしていた。

 どうやら采香に彼女が憑依したらしい。


「いや、まぁ、なんとなく三葉の行動パターンに似てたから」


「そ、そっか……私だって分かったんだお兄ちゃん」


 頬を赤らめ恥ずかしそうに笑う三葉。

 しかし、周囲にいた生徒たちがお兄ちゃんという言葉に過剰反応して注目すると、さらに顔を真っ赤にして慌てだす。

 自分が何か可笑しなことを言ったのかと考えるが思い当たらない。


 心配になって魑魅を見るがその視線の先がどこを向いているかすら分からずにさらに頭が混乱する。

 必死に自分の失敗を探すが見当たらない。

 最後の望みを掛けて潤んだ瞳で助けを求め、呟く言葉は……


「ど、どうしようお兄ちゃん。私なんか変なこと言っちゃったかな?」


 自分の勘違いでないと確信した生徒たちが三葉に殺到する。

 特に男子生徒。俺も! 俺もお兄ちゃんと呼んでくれっ! とか、妹になってくださいっ! とか、パンツ見せてハァハァとか訳の分からない言葉を吐きながら押し寄せる。


 圭一は慌てて采香の手を握り食堂へ、これに怒った溢喜は、魑魅に体を使わせてくれと交渉に入る。

 見事了解を得た。というかもう圭くんと寝かさないっ。という脅し文句で奪い取った溢喜は、肉体を得て圭一に向かって突貫。


 空いた左腕を絡めとり、魑魅の胸を押し付けアピール。

 圭くんご飯食べよ~っと張り切って先導し始めた。

 過剰なスキンシップはしないという圭一との条件付きで借り受けた魑魅の体を使い、オムソバを幸せいっぱいに噛み締めながら、圭一の左側を占拠して三葉を牽制。


 なぜか対抗意識を燃やす三葉は右半分をぶん取って自己所有権を主張。

 真ん中に挟まれた圭一は周囲からくる凍てついた視線に貫かれ見るも無残な死に体と化していた。

 グロッキー寸前でなんとか昼食を終えた圭一は、ボロボロの体を引きずって理科室に逃げ込んだ。

 騒ぎのドサクサに紛れて魑魅と采香は完璧に撒いたと思う。


『どうしたんよ圭一さん』


 どこからともなく聞こえた声に周囲を見渡す。教壇の中から這い出てきた人体模型が近づいてきた。


「あ、いや、采香さんに三葉が憑依して……ちょっといろいろとね」


『わたしは人体模型に憑いてる地縛霊だから他人に憑依はできないけど、他の子はできるからね。今回のその騒動の発端は、弥生ちゃんが言ってた言葉だべさ』


 琉実は圭一の隣に座り、ふぃ~と息を吐く。


『憑依して坊主のとこ連れて行くんだと。ちょこっと早い気もするけど三葉が取り憑く役になったんだ。もう一人の子のとこにも誰か行ってるべ』


 少しトーンを落とし、言葉を続ける。


『弥生ちゃんが今日の夜言う予定だったんだけど先に言っとくね。退魔師の娘さんは危険だし、憑依したら成仏させられるんで憑けんらしいから。あの娘だけは圭一さんたちでなんとか連れてってな。他の人より抵抗あるから後数日は大丈夫だろうけど』


 幽霊たちの気配りに感謝する。

 采香と在人は彼女たちに任せておけば大丈夫だろう。後は來の首に掛けられた呪いだ。

 そろそろ鳴るよ。と言われて立ち上がる。


『次ここの授業あるからわたしは模型になるけど、もうちょっとならここ居ても誰もこんよ』


「いや、帰るよ。ちょっと溢喜と三葉のおかげで疲れることにはなりそうだけどね」


 琉実に別れを告げて理科室を後にする。

 傍目には采香と魑魅に迫られるように見えなくもないプレイボーイ的立場。

 しかし相手はただ憑かれて悪霊どもに操られているだけ。


 卑怯と思える行為に溢喜たちをしかってやりたいが、女性に構われるという嬉恥ずかしな場面を手放すことも少し惜しい気がするわけで……

 ただ、圭一はこの後恐ろしい現実が待っているなど全く予想していなかった。

 そう、七不思議の面々は悪戯好き。


 テケテケである千鶴が憑いたらしい在人も例外ではなかった。なぜか圭一争奪戦に参戦し、男ながらにかわゆい顔で圭一篭絡戦争に参加してきたのだ。

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