肝試され確定
昼休憩。昨日食べられなかった分を本日の食事で巻き返そうとでもいうように、授業終了とともに食堂に駆け込む圭一がいた。
小さな食堂に駆け込むなり食堂のおばちゃんにオムライス三つと頼み込み、ついでに菓子パンを買い漁る。
四人がけテーブルを見つけるや、買ったパンを抱えて座り込み、テーブル一杯にパンをぶちまける。
後は合い席の奴が来ないように威嚇しながら数分、ようやく歩いてやってきた采香と魑魅が圭一の向かいの席に座った。
「じゃあ取ってくるな」
二人に席番を任せ、オムライス三つをトレーごと両手に抱えて席に戻ると、魑魅たちの向かいには在人と來が座り込んでいた。
「オイこら……そこは俺の席だ來」
「あらぁ? そんな指定席この食堂にあったっけ?」
采香と在人によって隅に寄せられるパン。
空いた場所にトレーを置いていく。
「そこに余り椅子あるから持って来たらいいじゃん」
反論してやりたかったが、圭一はぐっと堪えて予備の椅子を取りに行く。
そうして戻ってきた瞬間、自分の食事が來に半分ほど食われている現場を目撃した。
「お前はなんだ? 俺に何か怨みでもあるのか?」
「んにゃ? お腹へって目の前に大好物があったら食うでしょ普通?」
「人のを食うなっ。俺の250円返しやがれっ」
「残念ながら昨日のボーリングで使い果たしちゃって、むしろ今月ピンチ?」
「つーかお前、自分の弁当どうしたんだよっ」
「二時間目半ばで胃の中よ」
怒鳴りつけようと息を吸い込む圭一。
しかし声より先に腹から聞こえた欲求音に気持ちが萎えた。
力尽きたように椅子に座り込む。
「はぁ……二日連続昼抜きか。そうだよな。ああ、俺なんて來にイジメられて先生に当てられて、パシリさせられて飯抜きがお似合いの男だよ。溢喜に耳元で音痴な歌歌われてるのがお似合いのクソヤロウだよ……」
「あ……そ、その、ゴメン。これ食べる?」
すでに四分の一に減ったオムライスを寄せてくる來。
圭一は恨めしそうに顔を上げ、いらないと手でジェスチャーだけを返した。
「もういいよ。放っといてくれ」
お腹の減りすぎか妙なマイナス思考が圭一周辺を包み込む。
気分はどんより空気もどんより。
周りの気分までが下がりだすが、圭一自身はお構い無しだった。
「あの……よかったら私の弁当、食べますか?」
さすがに見ていられなかったのか采香が助け舟。
顔を上げた圭一の前にコトリと置かれる二段弁当箱。
しかし圭一はこれも跳ね除け……ようとして口を開いたところへタコさんウインナー襲撃。
思わず飲み込む圭一に、箸を突きだしたままの采香は、次の卵巻きを掴み取る。
にこやかな笑顔で自分が何をしているのかも気付かぬまま、圭一の口元へと卵巻きを持って行く。
「はい、口開けて下さいね」
「え? いや……」
「小さい頃嫌いなものを食べないでいるとお母さんにこうやって無理矢理食べさせられたんです。お口に合わないかもしれませんが食べないよりはマシだと思いますから」
自分が何をしているのか全く分かっていないような満面の笑顔で「ね?」と答える采香についつい何度も頷いてしまう圭一。
周囲の温度差に気付いて慌てて采香から箸を奪い取った。
「え? あの……」
「いい。ちゃんと食うからっ、一人で食えますから大丈夫ですハイッ」
恥ずかしさを力に変えて物凄い勢いで弁当の残りを掻き込みはじめる。
采香はその時点でようやく周囲に気付き、はて? と首をかしげ、今しがた自分がしてしまった行為の重大性に気が付く。
まるでトマトのように一瞬で顔が真っ赤になり、そのまま椅子に倒れこんだ。
「と、とにかく、今田君。その弁当で足りないようならこっちのパンも食べてよ。僕一人じゃ食べきれないし」
事態収拾を目的に在人がメロンパンを差しだしてくる。
圭一はそれをむんずと掴み取ると、照れ隠しとばかりに采香の弁当もろとも食べつくした。
最後に魑魅が絶妙のタイミングで水を差しだし、そいつを一気に飲み干した圭一はようやく一息ついた。
「さ、さて、んで、今日の放課後のことなんだけど……」
ようやく本題が切りだせるとばかりに話しだす來。
「また肝試しの話かよ」
「その通り。私どうしても幽霊って奴をこの目で見てみたいのよね。小学校からずっと仲間内で見に行くんだけど私だけいつも体験できないのよ」
「そりゃ気の毒だ」
その友達たちが……と心の中で付け足す圭一。
「誘った友達はもう二度と行かないって皆逃げてくし。お願い。もうあなたたちしかいないのっ」
わざとらしい涙を浮かべつつ身を乗り出し采香の手を握る來。
采香は戸惑いながら周りの友達に助けを求める。
しかし在人は申し訳なさそうに視線を逸らし、魑魅に関しては意味すら分かっていないように純真な瞳で首を捻っていた。
観念したように頷きかけて圭一を見る。
犠牲者発見とでもいうように瞳がしっかりと圭一に会わされる。
采香はどうやら圭一に否定してほしいようだ。自分一人で否定できないのは人が良いからなのだろうか?
「あ、あの、今田さんは、その……」
「あ~、もう、行く行く。こいつは強制参加だからっ」
「おい待て。何勝手に決めてんだお前は」
來は半ば強引に采香の首を縦に振らせると、続いて在人に向き直る。
圭一の怒声には完全無視で在人を攻略した來は、ラスボス魑魅をターゲットに決めてさっそく話しだす。
が、魑魅は首を振ることなく、たった一言ボソりと呟いた。
「圭くんが行くなら行く」
それはもはや爆弾発言を超えた原爆発言だった。
凍りついた世界の中、唯一動けた來が嬉しそうに万歳をする。
こうして圭一たちの今日の運命も決定してしまった。
肝試しが決まるや否や、溢喜は楽しそうに初音にそのことを話しだし、七不思議側も久しぶりのお客様だと意欲満々で出迎えることが決まった。
特に、溢喜は魑魅を驚かせることを初音に頼んでいるのが圭一の耳にもよく届いた。




