学園七不思議の少女たち
輪のようになっていたその幽霊たちの中から溢喜が机を蹴るようにして圭一たちの元にやってくる。
ドアをすり抜け廊下に顔をだすと、溢喜は意外そうな顔で言った。
『圭くんと魑魅ちゃん? どしたの二人とも』
「ど、どうしたって……お前が勝手にいなくなるからだな……」
「圭くん、溢喜さん心配だって」
『え、ええっ!? 圭くん心配してくれたの!?』
魑魅の言葉に空中で飛び跳ねる溢喜。暴走し始めた。
『圭くんったらぁ、邪魔邪魔いっときながらやっぱり私のこと愛してるのねっ! 私が側に居ないと心配で心配で寝られなくて追いかけてきちゃうんだねーーーーっ。やぁーーーーんっ』
勝手に暴走する溢喜。どうすればいいのかと魑魅と圭一が顔を見合わせていると、ドアが独りでに開いた。
『溢喜ちゃんの友達? よかったらこっちにどうぞ』
舌っ足らずに圭一たちを誘う声。
教室の中から響いた声にもう一度顔を見合わせた二人は、溢喜をほったらかして幽霊たちの元に向かう。
初音の真横に座っていた小さな女の子が椅子から飛び降り圭一たちに駆け寄ってくる。
『初めましてお兄ちゃんたち。花子だよ』
赤いスカートおかっぱ頭。
どこかで聞いたことのあるような女の子が可愛くお辞儀をして見せた。
「どうなってんだ。溢喜の知り合い?」
『あ~そうだね、説明するね』
圭一たちを自分たちの輪に加わらせるように案内して座らせると、花子は初音の真横の椅子にぴょこんと飛び乗った。
『ここにいるのはね、この学校の七不思議を担当してる幽霊なの。溢喜ちゃんが昨日初音ちゃんと話をしようとやってきてね、それで皆仲良くなったんだよぉ』
表情豊かにコロコロ変えて、花子は楽しそうに説明する。
「七不思議……」
呟きながら周りを見た。
初音は目が合うと軽く微笑んできた。
その横の花子に目を移す。歯抜けた笑顔を返された。
どうやら乳歯との交換時期に死んでしまったらしい。こんな小さな子が……なんとも辛い話だ。
さらに左に目線を移すと、下半身の無い少女。髪は体よりも多く、恐らく腰元くらいまであるのだろう。
その腰自体が無いので比べようも無いのだが……
さらに横には魑魅がいて、その横が圭一だった。
圭一が自分の横に目線を移すと、その視線にビクリと震える女の子。
花子と同じくらいの背丈だが、こちらは和服というか、かなり昔の服装をしていた。
花子が戦時中の女の子ルックなのに比べ、こちらは気の弱い姫様とでもいったファッションだ。
さらに横に視線をずらす。
あの理科室で有名な人体模型がいた。しかも何故か女性型。
残念? なことに体操服を着ている。
その横では綺麗な女の子。
長い髪を一くくりに纏めたポニーテールで、バイオリンを大事そうに抱えていた。
最後に初音の右側で机に座り、興味深そうに圭一を見ている女の子。
七不思議の担当幽霊は全員女の子だった。
理由を聞いてみると、花子曰く「だってここは女子高だったし」とのこと。
どうにも女子ばっかりだから幽霊たちも女子が殆どらしい。
ただ、最近は男子生徒も入学しだしたため、七不思議をどうするかも討論中だそうだ。
幽霊界も大変だとか不満を漏らされた。
『んでね、花子の横にいるのが千鶴ちゃんだよ。生徒たちからはテケテケって言われてるの』
上半身だけの女の子が両手で体を支えてお辞儀する。
『テケテケの千鶴です』
椅子を自分の血で濡らしている千鶴。
結構礼儀正しい奴だった。
圭一も魑魅もつられて頭を下げる。
『んでぇ、お兄ちゃんの横にいるのが三葉ちゃん。廊下でね、後ろを付いていく怪談を担当してるんだよ』
花子の言葉に三葉が恐る恐るお辞儀する。
『んで、人体模型の琉実ちゃん。左側は髪の毛生えるのに右が生えないってよく嘆いてるの』
『初めますて~』
頭を下げる人体模型相手に平身低頭の圭一。
自分がやっている行為への違和感に自然に首を捻っていた。
なぜ、人体模型相手に挨拶をしているのだろう?
『琉実ちゃんの隣は麗華ちゃん。音楽室でバイオリン弾いてるの』
花子に紹介された麗華は圭一にやんわりと笑みを見せる。
『んで、麗華ちゃんの隣は弥生ちゃん。こう見えてもここの一番の古株さんなんだよ』
弥生からの挨拶は無かった、圭一はよろしくとだけ小さく答えておく。
『でね、花子の横の初音ちゃんはこの教室の地縛霊さんなんだよ。そのせいでここから動けないから皆ここに集まることにしてるの』
『ほら、圭くん、自己紹介のとき41人しかいないはずなのに最後に初音ちゃんの自己紹介があって42人になってたでしょ』
ようやく暴走から立ち直ったらしい溢喜が圭一の首筋に腕を絡めてくる。
『んでね、花子は浮幽霊さんだからトイレと体育館担当なんだよ。夜中に来た生徒さんを脅かしたり、昼間に体育館で遊んだりするの』
なぜあえて驚かすのかと思っていると、溢喜が耳元で囁いた。
『あのね圭くん。私たち幽霊は自分たちの恨みとかで自分を保ってるんだけどね、長年この状態でいるのは結構難しいの。恨みが大きければ確かに長い間居続けられるんだけど、それよりももっと簡単に長く居続けたり、私はできないけどほら、ポルターガイストとかそういった物体を弄るようなこともできる方法があるの』
『それが生きている人からの想い』
溢喜の言葉を引き継ぐように花子が話しだす。
『人から【そこにあの霊がいる】。そう思わせることが出来れば想いの数だけ強力になるんだよ。だから花子たちは生徒さんを脅かすの。脅かすことで花子たちはもっと学校に居続けられるんだよ』
それで七不思議。
生徒から最も覚えられやすい学校霊たちの噂であり、広まりやすく忘れられにくい噂たち。
『昔はね、プールの第四コースの夏樹ちゃんとか屋上から飛び降り続ける穂実ちゃんとかいたんだけどね。いろいろあって成仏しちゃって』
前の七不思議からは幾度か変わってしまった七不思議が在るといいたいらしい。
それを知ったところで圭一にはまったく関係が無いことではあった。
何はともあれ、溢喜は初音が幽霊だと一度見た時に気付き、彼女と話し合うために学校に来ていただけだったらしい。
溢喜はもうしばらく話したいということで、圭一はひとまず安心して魑魅と二人で先に帰って寝ることにした。
なんにしろ、幽霊仲間ができるのはいいことだ。
……いいこと、なのか?




