見てはいけない女子会
暗い暗い闇があった。
周りに光は無く、境もない。
ただひたすらの暗闇。
「また来たね」
誰かの声。
地の底から響く聞き覚えの在る声。
目の前に現れる漆黒。
暗い闇に在ってなお暗いモノ。
その背中が、彼女の前にあった。
「また、やるかい?」
振り向いた闇。その瞳だけは黒でなく……
そいつの目こそが、自分の目であることを、切裂魑魅は知っていた。
「次は私と……」
黒きモノがニタリと笑う。
ゆっくりと、だが確実に近づき始める恐怖に、魑魅は後退る。
「どこを換える?」
駆け出した。
黒い闇から逃げ出した。
だが一向に離れることのない一定の距離。
そいつだけは近づいてくるというのに、どれだけ走ろうと魑魅は距離を離せない。
結局は、また捕ま――――
「魑魅っ! 魑魅っ!」
体を揺すられる感覚に目を覚ます。
目の前には闇を纏った黒い物体。
思わず夢の続きかと悲鳴を上げそうになる。
でも直ぐに暗闇に慣れた目が写しだす少年の顔。
「圭くん?」
「よかった、急に叫ぶからどうしたのかと思ったぞ」
眠ったままに叫んでいたのかと気付くとなんとなく恥ずかしくなって目を逸らす。
目の前の圭一はかなり焦ったような顔をして、でもどこか悩んでいるような、言いたいことを言えないでいるような表情をしていた。
「どうかしたの?」
「あ、いや、その……」
魑魅とその頭上を交互に見つつ、何かを口ごもる。
「その、実は俺、これから外に……」
魑魅はすぐに昨日のことを思い出した。
「溢喜さん?」
「あ、ああ。今日もついさっき外にでていってさ」
言いたいことを言えたのか、圭一は安堵の息を漏らし立ち上がる。
すでに私服に着替えていて、外に出る気満々さを全身から醸し出していた。
魑魅は眠たい頭を必死に動かし身体を起こす。
「私も、いい?」
この言葉は予定していなかったのか、圭一は一歩目を踏みだしたまま全身を止め、首だけを魑魅に向けた。
「今なんと?」
「一人だとあいつが来るの。待ってるくらいなら一緒に探させて」
少し困ったような顔をして、圭一は右手を差しだした。
「すまないな。迷惑かける」
魑魅は左右に首を振り、ベットから這い出る。
その瞬間、全身が震えていることにようやく気が付いた。
やはり、あの悪夢からは逃れられない。いや、そもそも圭一が隣ではなく少し離れた場所で寝ていたせいかもしれない。
魑魅はふと思いつき、明日からは隣で寝て貰おうと考えた。
そんな思いを知らない圭一は、右手に掴んだ魑魅の柔らかく小さな手を掴み彼女を立ち上がらせる。
圭一が狸寝入りをしていると、溢喜は魑魅と圭一の寝姿を確認してきた。
二人が寝入っていると確認し、さて、と呟き壁をすり抜け部屋を出て行ったのだ。
わざわざ圭一たちに隠れて向っているというのが溢喜の行動をさらに怪しくしていた。
すぐに追おうとした圭一だったが、ベットに気持ち良さそうに寝ている魑魅を残していくのも躊躇われた。
仕方が無いので溢喜の浮遊する方角だけを確認してから、一度魑魅を起こすことにする。
そうして魑魅を起こそうと手を伸ばした直後、魑魅は瞳をガバリと開き絶叫し、さらに再び寝入りこむ。
一瞬唖然としたものの、すぐさまヤバイと判断した。
急いで揺すり起こす。
あまりにも尋常じゃない様子だったので圭一は一瞬溢喜のことを忘れて必死に起こしていた。
後は先程の話通り起きた魑魅と二人揃って溢喜捜索に出かけることになった。
溢喜が浮遊していった方角を目指して走っていると、やがて見知った場所に着く。
「ここ……学校?」
「ここにいるの?」
「いや、わかんないけどさ、でも可能性高いんじゃないかな?」
言葉を返しながら中へと入っていく圭一。
魑魅も圭一を追うように敷地内へと入り込んだ。
そのまま二人辺りをキョロキョロと見回しながら下足場へ。
「なぁ、ここって警報とかあんのかな?」
「入り口は開いてる」
玄関は何故か開け放たれていた。
「歓迎?」
「おいおい、誰が歓迎するってんだ? そもそも溢喜はモノに触れないし、俺たちがつけてきてるなんて知らないだろ?」
不安が鎌首をもたげる。
それでも二人揃って校内へ。
下足場に入った途端、玄関の扉が音を立てて閉まりだす。
「う、嘘だろ?」
直ぐに玄関口に戻り扉を開けようと試みるが、なぜか鍵でも掛かっているようにビクともしない。
本当に鍵が掛かっているのかとも思ったが、鍵はかけられていないようだ。
二人は玄関からの脱出を諦め、校内探索に切り替える。
溢喜が見つかれば万々歳。
でも、別のそういったものが現れたとしたら……
圭一は横を歩く魑魅を見る。
彼女は溢喜探索をしようとした自分に巻き込まれたようなもの。
ここはなんとしても魑魅だけは安全に帰してやらねばなどという半ば使命感にも似た感情が湧き起こる圭一だった。
何かに導かれるように自分たちの教室に向かう圭一。
気が付いた時には目の前に1‐Bの教室があった。
ドアの窓から二人覗きこむようにして覗いてみると、月明かりに照らされる教室に、淡い光を放つ物体が八つ。
その中に見知った顔を見つけて圭一はついつい叫んでいた。
「溢喜!?」
その言葉だけで一斉に振り向く八つの物体。いや、幽霊たち。
その中にはもう一人見知った顔。三井初音の姿もあった……




