初めて見ました
『あっはーっ、楽しかったね~圭くん』
腹を抱えて空中で転げまわる溢喜を見ながら圭一は溜息を吐いた。
ボウリングを終えた來は昨日と同じで引っ張りまわすだけ引っ張りまわして笑顔で一人去っていく。
後に残された圭一たちは昨日と同じように顔を見合わせ、昨日と同じように帰ろうとして、ふとあることを思いついた圭一が足を止めた。
「なぁ在人。よかったらこれからCDショップいかないか?」
「え?」
「お前朝の登校の時言ってたろ。ほら、音楽歌えたら楽しいだろうな~って。持ち歌のためにも一つくらいCD買ってみないか?」
「それはいいですね。私もご一緒していいですか?」
誘いに反応したのは采香の方が先だった。
当然来れるようなら全員を誘ってみるつもりだったので圭一は頷いておく。
「どうする在人?」
「あ、うん。行くよ」
魑魅は? と聞こうとした圭一。
振り向いた瞬間首を縦に振った魑魅を見て、聞く必要はなさそうだと気付く。
「それで、この近辺にCDショップなんてありましたっけ?」
その瞬間、時が止まった。
『流石にこの辺りの土地は知らないよね』
「しまった。來と分かれたのは失敗だった。あいつなら知ってるかもしれないのに」
相談の結果、明日にでも聞くという結果に落ち着く。
今日のところは圭一自身が集めている音楽を聞かせてもらうというイベントがいつの間にやら約束させられていて、全員揃ってルルルハイツにやってくる。
「よろしかったのですか? 私までご一緒させていただいて」
「構わねぇよ。男の一人部屋だ、女の子の訪問はむしろ大歓迎」
ドアの鍵を開けてドアを開くと、何故か玄関口に三つ指付けていらっしゃいとか言ってくる溢喜がいた。
溢喜はいつの間にか先に部屋に入り込み、衣装を私服プラスエプロンという格好に変えて圭一たちを出迎えていた。
しかし溢喜を見ることのできる人物は圭一と魑魅だけ。
唖然とする圭一はドアを開いたまま固まり、魑魅は目を真ん丸に広げて驚いていた。
そんな二人に顔を向け、溢喜がにやにやと笑みを浮かべる。
『圭くん、お風呂にする? 食事にする? そ・れ・と・も~わ・た・し?』
笑顔で聞いてくる溢喜を無視して圭一は部屋に上がりこむ、溢喜を足蹴にしてさらに奥に向かうと、後ろの三人に向き直る。
「どうぞ、上がってくれ」
溢喜が喚くのを無視して部屋に向かうと、CDプレイヤーをダンボールから引っ張りだす。
別にこっちに越して来てから荷物を解き忘れていたわけじゃなかった。
あまり使わないと思ったものをダンボールに入れたまま押入れに突っ込んだのだ。
CDなどは殆ど聞かない圭一。
音楽を聴くときはもっぱらMP3だったりする。
持ち運びが楽なのと、沢山の曲が一度に聴けるのでパソコンと同時に大枚はたいて購入したものだった。
すでに3年以上は稼動しているので、内包された曲もかなりにのぼる。ただ、パソコンの方を実家に置いてきたので新しい曲の追加は残念ながら出来なくなっている。
ちなみにパソコンのその後はというと、父親に取られてしまい、エロサイト探索専用にされてしまっている。
で、MP3プレーヤーで聞いた方がいいとも思ったが、CDの方がアーティストとかを教えやすいという理由から。
CDに入っている奴はMP3にダウンロードしていないという事実もあるのだが……
「とりあえず、俺が持ってるCDはこんだけ。あとMP3も持ってるけどこっちは貸すことも出来ないし、聞くだけならできるけど」
「へ~、いろいろあるな~、音楽って凄い多いんだね」
「いや待てお前ら、いくら田舎で音楽に疎いったってさ、どれほど在るかも知らないってどこの生まれだよ? 異星人とか言わないよな」
「あ、ごめん、そういう意味じゃなくて、知らない音楽が沢山あるんだなって」
「ところで、そのMP3というものには何が入っているのですか?」
尋ねてきた采香に中に入っている曲を答えようとして、言葉の違和感に気付く。
「待て、今【というもの】とか言わなかったか!?」
「え? はい。初めて見ました……」
申し訳なさそうに答える采香。
圭一の中で田舎人の常識が少し書き換えられた瞬間だった。
確かに時代遅れではある。
今はスマホなどで音楽を聴く人が多いから、これを持ってる奴は少ないのは確かだが……
「圭くん……」
采香にMP3について説明していると、魑魅が袖を引っ張って来る。
「どうした?」
「それ、聞いていい?」
圭一の手の中にあるMP3を指して、魑魅は相変わらずのどこを見ているか分からない視線で話す。
実はこれ、コンタクトレンズのせいで見ている視線と黒目の位置が合っていないだけだったりする。このことに圭一が気付けたのは魑魅の実際の瞳を見ていたからだった。
魑魅にMP3を手渡し、CDプレーヤーに適当なCDを入れて残った二人に聞かせる。
それからしばらく、采香や在人と音楽を聴きながら話し合う圭一だった。
ちなみに皆から見えていない溢喜は、魑魅の耳元で「どんな歌聞いてる?」などとちょっかいかけていたが、魑魅は音楽に集中しているのか溢喜の言葉には一度も耳を貸さなかった。




