体育は無言で
教室に着くと、既に来ていた來が大声で挨拶をしてきた。
ちょうど教室への第一歩と踏みだした圭一たち三人が、あまりの大声に驚き仰け反った程だった。
來はそのままのテンションで圭一の前にやってくると、腕を掴み取り強引に教室に引っ張り込む。
さらに残りの二人の腕をひっぱり三人を一所に集めると、
「今日はボーリングでどう? これなら歌知らなくても皆楽しめるでしょっ」
こうと決めたら完全実行。
勢いで頷かされた三人はホームルームすら始まらないうちに放課後の行き先が決定してしまった。
來の勢いは留まることは無く、遅れてやってきた采香にまで被害を及ぼしさらに真後ろの席の男と魑魅の後ろの女生徒にまとめて誘おうとしたところで先生がやってきた。
ソレを好機と二人は断り、メンバーは昨日と同じ人数のままでホームルームへと突入した。
「えー、本日は四時間目に体育が入っています。こちらは体育教師の佐伯先生が担当となりますので体操服に着替えて校庭に向かってください。更衣室はありませんので教室が女子、体育館が男子の着替え場所です」
先生からの諸注意。まるで殺人ノートのアニメにでてくるネクラな探偵のような口調で言い終えると、教室内を見回し出欠ノートに全員出席ですねといいながら何かを書き込んでいく。
動作がいちいち薄気味悪い先生だ。
ホームルームが終わり、先生が授業の用意の為に教室を出て行くと、最前列の教壇前の二人が立ち上がる。
後ろの生徒がどうしたと聞いているのを見ていると、気分が悪くなったと教室から駆けだすように二人してでていった。
「ねえねえ」
後ろから身を乗りだし声を沈めて聞いてくる來。
「どうしたのかなあの二人」
「さぁ?」
圭一はわからないといった感じに返す。
その時の圭一は彼らの異変よりも気になる物体があったので來の言葉に反応する気力もなかった。
要するに、頭上で未だに歌い続ける溢喜がそろそろウザったくなってきたことを告げたい圭一だった。
ただ今の曲はネコ踏んじゃっただった。
そうしてそれが終わると静かになる。
どうやら彼女のレパートリーが済んでしまったらしい。
しばらくすると最初に歌っていた曲を歌いだした。
ループ……するのか。頭の痛い時間はまだまだ続きそうだった。
体育の時間。圭一はどれほど待ったことだろう。
別に運動好きって訳じゃない。
圭一が体育を心待ちにしていたのはたった一つ。
溢喜の音程の外れた下手な歌から少しの間といえ解放されるからである。
「今田君、い、一緒に行こう」
在人がバック片手に寄って来る。
圭一もバックを引っさげ立ち上がった。
周囲では男子生徒が足早に体育館へと向かっている。
圭一と在人も半ば駆け足気味に教室を飛び出した。
木造の廊下は走るたびにギュッギュッと音を立て、いつ底抜けしても不思議の無い感触を足元に伝えていた。
体育館に着くとチンパンジーかと思うくらいにがっしりとした体格の男が立っていた。
角刈り絶壁のその男は、緑のジャージ姿だったので、おそらく先生なのだろうと圭一たちは推測した。
男は生徒たちが体育館に到着すると体育倉庫を指差す。
どうやらあそこで着替えろということらしい。
圭一は在人と共に体育倉庫へと向かう。
在人は一番奥の角まで行くと圭一に手招きをする。
端っこで着替え始める在人は圭一や他の生徒たちに背中を見せた状態で素早く上半身の着替えを済ませ、まだ手を服に掛けた状態の圭一に向き直った。
「今田君、さっき居た男の人って……やっぱり体育の先生なのかな?」
「そうじゃないのか? 男子なのか女子用の体育教師かはわかんねぇけど」
答えながら上着を脱ぐ圭一は、バックから体操服を取りだし、頭上を見上げる。
すでに溢喜は圭一から離れてしまっていた。
いくら溢喜とはいえ男たちの着替えを覗く気はないようだ。
圭一だけの場合はもはや馴れたモノではあるが、さすがに他の男子生徒の着替えを見て喜ぶ趣味はない様だ。
着替えを終えた在人と圭一は他の生徒たちに紛れて運動場へと向かう。
体育館に出た途端に圭一の頭上に溢喜がやってきた。
定位置に憑くと先程と同じように歌を歌いだす。
さすがに頭が痛くなってきた圭一、何が気に入らないのか分からないが近いうちに機嫌を直す必要がありそうだと思った。
運動場に出ると、予想通りマウンテンゴリラのような大男が佐伯先生だった。
佐伯はトラックの真ん中で仁王立ちをして待っていて、男子が全員到着するのを待っていた。
女子は既にトラックに集合していて男子が揃うのを体育座りで待っていた。
先生自体人数が少ないため、男女いっぺんに佐伯が見るといった形態だ。
要するに男女合同という奴だ。
全員揃うと軽く手足を振って準備運動。
男子と女子の先頭に手招きをしつつ佐伯が走りだす。
男子の先頭、在人と女子の先頭相沢さんが顔を見合わせ首を捻りながらも佐伯について走りだす。
ちなみに順番は教室の机順を男子と女子に分けたもので、佐伯が何も言わないので自分たちで勝手に並んだ順番だった。




