プロローグ
「あ、あのね圭くん……」
病院の屋上で、今田圭一は生まれて初めて告白されていた。
相手は幼馴染の草川溢喜。溢れる喜びと書いて【いつき】という変わった名前の女の子だ。
既に一年以上、病院暮らしで伸びに伸びた髪はお尻の辺りにまで達している。
前髪は左右に分けていないと井戸から這い出てくる幽霊と同じような姿になってしまう程に長い。
今はその長い髪を左右に分けて纏めて縛っていた。
太い眉と細い体のせいで、気弱そうに見える女の子だった。
気恥ずかしそうに頬を染め、両手を後ろで組んでもじもじとしていた。
相手がどう言うにしろ、こんな二人きりの状況でこんな可愛い子が頬を赤らめて秘密の話なんてどうみても告白以外にありえないだろう。
心なし変に意識して自分の顔が熱いことに気付く。
必死に膨らむ期待感を圭一は持てる拙い演技力全てを使って隠そうとしていた。
少しだけ静寂が場を支配する。圭一は自分の心音が耳元で鳴っている様な気がした。
「わ、私ね……その……」
こくりと喉を鳴らして、溢喜は圭一の顔を力強く見上げた。
「わ、私っ、圭くんのこと好きなのっ! だ、だから……その……」
尻すぼみに声をなくしていく溢喜。
その口から漏れ出た言葉は誰が聞いてもきっと愛の告白と言うだろう。
もちろん圭一はこんな状況を嫌だと言うようなバカじゃない。
中学一年、コンビニでは春のパン祭りが開催された頃。
味気ない人生の終わりを告げる春一番が吹いたのだ。
よほどの女嫌いでもない限り、溢喜みたいな可愛らしい少女からの告白を、性に目覚め始めた少年が嫌がるはずが無かった。
「あ、その……俺……僕……も……」
答えた瞬間両手で右手を掴まれた。
「ほ、ほんと?」
「あ……うん」
嬉しそうに笑う少女の顔は、圭一にとって初めて見た朝日のように眩しかった。
あまりの嬉しさからだろう。溢喜は笑顔のまま涙を流す。
「よかった。勇気出して……」
「溢喜?」
絶えず微笑み続ける溢喜。
何故だろう? とても儚く見えたのは?
「私のこと、死んでも愛してくれる?」
「え? あ、うん」
当然、例え死んでも溢喜を大切にしよう。
そう思ったし、そう想い続ける気だった。
まさかこの言葉が、あんなことになるなんて――
「勇気出して、良かったよ……」
嬉しさに耐え切れなくなったのか、ついに泣きだす溢喜。
圭一は優しく抱きしめた。
彼女が落ち着いた頃、いつものように病室に送って別れた。
そうして次の日。
今日も病院で幼馴染の溢喜に会いに行こうと家を飛び出す直前だった。
焦燥した母親から彼女の死を知らされた――――




