表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/105

082 魔族召喚

 提示された候補は、財務・内政にラウム、医術・薬草学にフォラス、バシン、知識にプルソン、オロバス。脳みそ絞って思い出そうとするが、それらの名前について心当たりがない。

 ……いや、この世界のモンスター娘たちが俺の知っているモンスターと基本的な部分で変わらなかったことを考えると、おそらくこの悪魔たちも地球で知られている悪魔かもしれない。


「なあ、アルマ。悪魔にサタンやバアルとかいるか?」

「さすがに魔王の名前は知られているみたいですわね。その二人なら、今でもきっと魔王の地位にいると思いますわ」

「……じゃあ、ストラス、ダンタリオン、グラシャラボラスとかは?」


 俺の言葉にアルマは軽く目を見張った。


「よくご存知ですわね? あなたの先ほどの要望を考えて候補から外しましたが、ダンタリオンなら召喚方法を知っていますわ」


 やはり、同じか。

 ということは、さっき候補にあがった五体の悪魔について俺が知らないのは、単に俺が知らないだけだな。


「ちなみに、ダンタリオンってどんな悪魔だ?」

「名前を知っているならどのような悪魔か知っているでしょうに。確か、相手の心を読んでそれを劇場のように見せる悪趣味な力を持っていましたわ」

「学問についての知識は?」

「中級悪魔ですし、それなりに知識には秀でているとは思いますが、先ほど私が名前をあげたプルソンやオロバスのような知識の求道者という性格ではありませんわね」


 俺の知っているダンタリオンはソロモン七十ニ柱の悪魔で、読心能力のほか、学問や芸術の知識を召喚した人間に与え、さらには過去や未来についての知識もあるとかないとか。とにかく、そんな感じで万能感があった。というよりも、悪魔はどれもこれも複数の知識、技能に秀でていた。

 でも、どうやらそこまで万能の力を持っていないのかもしれない。


「プルソンは財宝の知識に詳しいと言っていたけど、どういう財宝だ?」

「魔界に数ある、様々な魔力を有した財宝についてですわ。彼女はそういった価値のある物、珍しい物が好きですから」

「できれば科学技術、自然科学についての知識があると助かるんだが」

「そういったことにはおそらく興味は持っていないと思いますわ。そういう知識を求めているのなら、オロバスも不向きですわね。彼はひたすら真理を追い求めていますから」


 ……詳しく聞いておいてよかった。召喚するなら知識に関係するどちらかだろうと思ったからなあ。

 それから残りの三人の悪魔について聞いたが、それらは俺が求めるものと一致するようだ。なおが、ラウムとバシンが女で、フォラスが男らしい。


「誰にしますの? あまり待たせないでくれます?」


 モンスター娘ということで女ばかりのグローパラスに、いきなり男の悪魔を連れて行くのはやめておいた方がいいかもしれない。そうなると、ラウムとバシンの二択となるが……。


「ラウムにする」


 医術、薬草学については、神聖魔法を使えるモンスター娘を探すという予定ができている。財務管理ができるというモンスター娘を探す方がきっと難しい。


「分かりましたわ。少々お待ちを……」


 俺がラウムと決めると、アルマは早速といった感じで詠唱を始めた。アルマの詠唱と共に、地面にいわゆる魔法陣が描かれていく。


「あとは、あなたが血を垂らしてラウムの名前を呼ぶだけですわ」


 あっという間に複雑な文様をした魔法陣ができあがる。


「……アルマってすごいんだな」


 いや、本当にすごい。俺なら、お手本を見ながらこの魔法陣を描きあげるのに一体何時間かかることか。


「上級魔族の私にかかれば当然ですわ!」


 そういえば上級魔族なんだよな、この外見からは信じられないが。

 妖精界では、ティターニアの魔力の影響が強く、その上昼間で太陽を突きつけられて弱っていた。そんな状況でも、結局アルマには逃げられてしまった。いや、逃げてくれたという表現の方がもしかしたら正しいのかもしれない。


「契約のために必要な対価は?」

「ラウムぐらいなら、あなたでも十分交渉できますわ。あとはご自分で何とかなさることですわ」


 そこまでは面倒みてくれないわけか。

 まあ、ここまでお膳立てされたからにはやるしかない。俺は神珠の剣をナイフの大きさにすると、左の人差し指の先を傷つけ、血を一滴魔法陣へとたらした。


「エロイムエッサイム! 我は求め訴えたり!」


 これはまあ、悪魔召喚のお約束だ。元はグリモワールだっけ?


「魔族ラウム! 我が求めにより来たれ!」


 そして、それっぽく締めくくる。一度はこういう召喚魔法らしき言葉を思い切り叫んでみたかったのでちょっとスッキリした。

 だが、何も起きない。

 こ、これは恥ずかしい。かなり恥ずかしいぞ。俺はバツの悪い感じでアルムを見ると肩をすくめられた。


「一度だけでは無理ですわ。召喚が成功するまで同じ言葉を繰り返しませんと。魔界とここを繋げるだけの魔力が必要ですから」

「魔力?」

「人間の場合は色々と準備するものが必要でしょうけど、あなたの魔力ならそこまでする必要ないでしょう。あとは魔法陣に魔力を流すようにして何度も呼びかけるのがいいと思われますわ」


 呼ばれて飛び出てというわけにはいかないのか。俺は魔力を魔法陣に向けて流すイメージを浮かべながら何度も先ほどの言葉を繰り返す。すると、ニ、三分後には俺の言葉に答えるかのように、魔法陣が青白く輝き、その輝きが一際激しくなったかと思うと、魔法陣の中心に何かが現れた。


「どうしよー! まさか私に指名が入るなんて! ええと、まずは制服に着替えないと……」


 そこにいたのは、下着姿でタキシードのような黒い服を抱えている少女だった。白い肌に繊細な刺繍がされた黒いブラジャーとパンツが目立っている。この時代にこんな下着があるのか……。それだけ見ると人間の少女、十代後半といった感じだが、背中に大きな黒い翼が生えている。烏天狗とかこういう翼だよね。

 まあ、そんな風にその少女を見ていると、その少女は恐る恐るといった感じで俺の方を見てきた。


「きゃー!!」


 甲高い悲鳴をあげて、自分の体を隠すようにその場にうずくまる。


「何で! まだ呼びかけが始まってからほんの少ししか経ってないじゃない! なんでもう地上にいるのよ!」

「あの……」

「こっち見ないで!」

「あ、はい」


 なんか涙目になっていたので、俺は後ろを向いた。

 そうやって俺を油断させて背後から……なんてことを考えているようにはとても見えなかった。悪魔だから騙すのはお手の物かもしれないが、まあその時はその時だ。


「も、もういいわよ」


 俺が魔法陣を見ると、その中央には先ほどの少女がタキシードを着てキリッとした感じで立っていた。肩まである漆黒の髪は全体的にややクセがありところどころ飛び跳ねている。だが、先ほどの狂乱はどこへやら、こちらを見る瞳は真紅に輝いていて、なかなかどうして迫力がある。


「君がラウム?」

「そうよ。さあ、私を召喚した者よ、汝が望むものは……」


 何か言おうとしていたラウムが目を見開いてかたまっている。

 その視線の先を追うと……ああ、アルマに気づいたのか。


「何で上級魔族がここにいるの!? しかも、あなたは、金色の暴風アルマ!」

「あら、私をご存知で?」

「あなたを知らない魔族なんていないわよ! 私の領地もあなたが通りすぎてどれだけ被害を受けたことか……」


 なんかガクガクと震え始めている。一体何をしたんだ、アルマは。


「あの……」


 俺が声をかえようとしたら、ラウムは俺をすごい形相で睨んできた。


「あなた一体何者よ!? 何でよりによってアルマと一緒にいるの!」

「そこの人間もどきに、私はちょっとした借りがありますの」


 アルマはすーっと俺の方にやって来ると、俺の腕を抱きかかえてきた。


「この殿方の望みは、あなたとの契約ですわ」


 俺の腕を離すとアルマは魔法陣の中に入り、ゆっくりとラウムに近づいていく。魔法陣って悪魔から身を守る防壁にもなるんだよね? まあ、アルマにとっては下位の相手だからそんなこと関係ないんだろうけど。

 それから、ラウムの前に仁王立ちになる。小学生高学年ぐらいの外見のアルマの方が背が低いが、その体から放たれる魔力にラウムはすっかり怯えている。


「私に恥をかかせないでいただけますわよね?」

「ひいいい……」


 あまりにラウムが怯えていたので、俺は魔法陣の中に入り、アルマとラウムの間に立つ。


「あら? 魔法陣の中は安全ではありませんわよ」

「こんなに怯えている子を放ってはおけないよ」


 ラウムは俺の背中に隠れて震えている。よほどアルマが怖いのか。


「俺は君の力が欲しくて召喚したんだ」

「……でも、私は他の悪魔と比べると、お金の管理が得意なこと以外は大したことができないわよ。だから、私を召喚する人がいるなんて思ってなかったし」


 そして、ラウムはシュンとなる。なんかもう子供みたいだな。

 俺はラウムの両肩に手を置くと、しっかりと宣言した。


「俺はそんな君が欲しい!」


 ラウムがビクッと震える。やばい、声が大きかったか、それとも変態と思われたか。


「……はい、よろしくお願いします」


 小さな声が俺の耳に届いた。

 そして、週に五日、俺の屋敷で財務官として働いてもらうことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ