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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその3 一章
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073 蜘蛛の糸 後編

「カフィ、脱出できそうか?」

「無理であります~。数本の足に糸が絡みついてどうにもこうにも……」


 ざっと見た感じ、八本の足のうち三本に糸が絡んでいるようだな。


「糸が絡みついている足を斬り落としたら脱出できたりしないだろうか」

「こ、怖いことを言わないでほしいであります!」

「冗談だよ、冗談」

「う~、目が本気だったであります……」


 泣きそうな顔になるカフィが可愛い。うん、カフィといると妙な性癖に目覚めそうで怖いな。


「リューイチ殿の怪力で何とかなりませんか? 私の糸をブチって腕の力だけでひきちぎったみたいに」

「さっきから試しているけどなかなか切れないんだよ。時間をかけたらいけそうな気はするけど……」


 カフィが暴れたせいで、右手と左手に別々の糸が絡みついている。粘着力がかなりのものでろくに動かせず、そのせいで神珠の剣を抜くこともできない。

 そして、奥の方から何かがやってくる気配がする。網に獲物がかかったら、その振動を感知するんだったっけ。


「あら、想定外のものが引っかかったわね」


 随分と色っぽい声が響いた。

 そこにいたのはアラクネに間違いないだろう。カフィと同じく、下半身が蜘蛛、腰から上が人間という姿だ。カフィの蜘蛛部分が灰色なのに対して、アラクネは真紅の美しい蜘蛛だ。腹から尻にかけての蜘蛛の胴体がカフィよりも若干太めな気がする。

 そして、人間部分はまさに妖艶といった表現が正しいだろう。紫色の長い髪はつややかで、赤色の瞳はこちらを値踏みするように俺たちをまっすぐ見ている。そして、その唇は真紅でそこからのぞくピンク色の舌がなまめかしい。人間でいうと二十代前半から中頃といった感じで、今がまさに絶頂といった感じの美貌だ。

 その中で、俺が特に注目したのはその服だ。胸元があいた真紅のドレスで、ご丁寧に蜘蛛の巣のような刺繍が施されている。服装に関してはかなり適当な印象が強いモンスター娘の中において、こういう見栄えのいい服は際立って見える。


「まさか蜘蛛仲間が引っかかるとはねえ……。ヘテロポーダかしら。こんな森の奥にまで来るような蜘蛛じゃないはずだけど」

「私はリューイチ殿の付き添いであります。できれば、糸を何とかしてほしいであります」


 そのカフィの訴えは無視され、アラクネは俺に向かい合う。


「人間の男を捕まえられるなんて今日は運がいい日ね。ああ、心配しなくても食べたりしないわよ。子作りに協力してもらえれば、ちゃんと帰してあげるから。私と仲間全員の子供ができるまでは逃げてもらっちゃ困るけど」


 仲間全員……ということは、少なくともこのアラクネを含めて三人以上のアラクネがいるってことかな。


「俺は忙しい身だから、それは困るな」

「……あら? 随分と落ち着いているようだけど……ん? なんか強い魔力を感じる。あなた、本当に人間?」

「たぶん違うよ」


 そして、俺はカフィの方に顔を寄せて小声で話しかける。


「カフィ、自由に動く足で、俺の剣を抜いて俺に持たせてくれ」

「了解であります」


 アラクネはさっきの俺の答えについて考えこんでいるようだ。


「その魔力、ひょっとして魔族?」

「魔族じゃない。元は人間だったけど、今は神の力が入っていると言えばいいのかな?」

「神? さすがにそれは盛りすぎじゃない?」

「まあ、一部の力を除いては神ってのは自分でも大げさだと思うけど」


 アラクネと会話をしていたら、俺の左手に神珠の剣が渡された。アラクネに対して死角にあたる場所にある左手の方に渡すあたりはきちんと考えているな。

 ……今は左手もうまく動かせない。とりあえず左手についた糸を何とかしたい。この神珠の剣は俺の意思でその形状を変えることができて、魔法がまだうまく扱えない俺でも魔力をある程度自由な形で発現させることができる。

 そこで、俺は神珠の剣をセスタスへと変えた。拳を覆う打撃用の武器だ。剣の柄の部分を握るようにして魔力を込めると、刀身だった部分が光り輝き、俺の左手の拳から肘のあたりまでクリスタルのような輝きのある金属に覆われる。そして、その変形の過程で俺の左手に絡みついていた糸があっさりと切れていた。


「おお……、本当にできるとは思わなかった」


 無理だったらショーテルのような極端な曲刀で糸を何とか切ろうとしたかな。


「その武器は一体!? 私の糸が簡単に……」

「驚くのはまだ早い」


 俺は神珠の剣を再び剣の姿に戻し、右手に絡みついていた糸を斬る。これで、俺はもう自由に動ける。


「さすがリューイチ殿! 私についた糸も斬ってほしいであります」


 これがアニメだったら、次の瞬間いくつも剣閃が走ってかっこよくカフィを解放するんだろうけど、俺がそれを真似したらカフィが細切れになるのは間違いない。器用に糸だけ斬るなんて無理無理。


「よいしょ」


 カフィの足についた糸を一つずつ斬っていく。まあ、実際はこんなものかな。アラクネが何か妨害をしてくると思ったが、どうやらそのつもりはないようだ。


「おとなしく見てるんだな。てっきり邪魔されるかと」

「力量の差が分かったから、やりあうだけ無駄よ。そもそも、今の世の中を生きるモンスターは無意味な戦いはしないものなの」

「そうなのか?」

「少なくとも、私たちアラクネはそうね」


 バトルマニアのカフィと違って、獲物が網に引っかかるのを待つ受動的なタイプだからだろうか。


「よし、これで最後だな」

「やっと自由になれたであります」

「蜘蛛のくせに蜘蛛の網に引っかかる間抜けぶりはグローパラスでのいい話のネタになったよ」

「それはひどいであります~」


 まあ、アラクネの糸の強さを実感できたのはよかったかもしれない。

 さて、これからアラクネとの話し合いだな。




 それから、俺はアラクネにグローパラスのことやここに来た理由について全部話した。なお、彼女の名前はレダというそうだ。


「へえ、面白いことをしているのね」

「そちらにとっても悪い話じゃないと思う。娼館に勤めてくれれば人間の精を得られる。実際、懐妊したモンスター娘もいるわけだし」

「確かに……」


 それからアラクネは少し考えこむと、予想外のことを言ってきた。


「ねえ、その進化魔法ってやつで、私の糸を進化させることができる?」

「進化そのものはたぶんできると思う。ただ、どんな進化をさせるかによるかな。ただ、先に確認したいんだけど、俺はアラクネの糸で服を作ってもらいたいと言っていることは理解しているよね」


 まさか糸の進化を希望するとは思わなかったな。さっき確認したのは、今レダが着ているドレスはレダの糸を使ったものということだ。見た目だけで質がいいと分かる一品だ。

 アラクネの糸で作られた服は非常に質が高いということもリサーチ済みで、人間の間ではかなりの高値で取引をされる。市場に出回ることがめったにないから余計に希少価値があるようだ。そのアラクネの糸を求めているのに、進化によって糸の質が変わってしまったら当初の目的が大きく狂ってしまうことになる。


「私たちは十種類近くの糸を使い分けているんだけど、糸の質そのものを変えてくれと言っているわけじゃないから安心して」


 俺が懸念していることをきちんと理解してくれているようだな。それなら大丈夫か。


「服を作るために使う糸は巣を作るときに使う二種類の糸で、保温性に優れた糸と肌触りがいい糸の二種類があるんだけど、どちらも白色なの。私の服は赤と黒の糸を使っているけど、糸を染めるのが大変で大変で……。だから、糸の色を自由にできたら嬉しいんだけど」

「なるほど……」


 そして、それはこちらにもメリットがある。最初から糸に自由に色をつけられたら染物屋を探す必要がなくなる。


「具体的な提案があると助かるよ。いつもはもっと曖昧なオーダーだから、解決するまでに試行錯誤する必要があったから」


 しかも、進化魔法は一発で発動してくれた。さっき話していた二種類の糸を、これまでの白色と透明のほかに、黄、赤、青など十二色の糸を出せるようになったようだ。相変わらず進化魔法が発動する基準はよく分からないが、今回みたいに一発でうまくいくと気持ちいいな。


「これは便利ね!」


 かなり気に入ったようで何より。


「仲間にも同じことをやってくれる?」

「かまわないけど、何人いるんだ?」

「三人よ」


 そして、その三人にもレダと同じ話をして同じ進化魔法をかけた。

 それから話し合いをして、全員がグローパラスに移住することになった。やはり子供を残すことができるというのが大きいらしい。




 こうして、グローパラスに衣服革命が起きることになる。とはいえ、三人のみで全てこだわりの手作業であるから、大量生産できるわけではないが。それでも、服という生活にとって必要不可欠なものを自給できるようになった。また、アラクネの糸を使った服は貴重なものであり、当然糸そのものも貴重なものだ。これをどう扱うかも考えないといけないな。

 さて、次はどんなモンスター娘を勧誘するべきか悩んでいた頃に思いもよらない来客が訪れた。

 ニコラウス・フォン・クローゼル。

 この国の大臣にして、俺のよき理解者だ。

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