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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその3 一章
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070 ペナンガランの集落

 俺は腹のあたりに力を込めて、気を確かに持とうとする。それだけ目の前のモンスター娘の外見のインパクトは大きい。一体何ていうモンスター娘だ?


「はじめまして、俺はリューイチといいます。差し支えなければ、あなたが一体何というモンスターか教えて下さい」


 俺がそう言うと、そのモンスター娘は俺の方を不思議そうな表情で見てきた。一体何だ?


「あの……何か?」

「私たちのことを知らないんですよね? それで、この姿を見て声を上げたり気絶しない人間は珍しいからちょっと驚きました」


 あー、なるほど。


「普段からモンスターに囲まれて生活をしていますから」

「なるほど、そうですか」


 まあ、こんなショッキングな姿をしたモンスター娘は初めて見たけどね。いや、スケルトンやゾンビとかはやはり恐怖を感じたりするのかな? グールは外見だけなら普通の人間とほとんど変わらなかったけど。


「私はペナンガランというモンスターです」

「……へ?」


 マジで!? 俺の知っているペナンガランはサツマイモだったんだけど、何がどうしてこうなった。サツマイモを擬人化するとこうなるのか? そんな馬鹿な。考えられるのは、国民的妖怪漫画家が、本当の姿で描くとショッキングだからオリジナルのデザインにしたとかだろうか。


「あの、何か?」


 まずい、俺が変な声を上げたからちょっと不審そうな表情になっている。まさかサツマイモと思っていました、なんて言えるわけがない。


「いえ、実は我々がここにいるのは、まさにペナンガランというモンスターに用があったからでして。こんな奇遇なことがあるのだろうかと、つい驚きの声をあげてしまいました」

「そうでしたか。あの、一体どのようなご用件でしょうか?」

「モンスターの助産婦を探しているのです」


 その言葉に納得したようで、それから俺たちはペナンガランの集落へと案内されることになった。なお、目の前にいるペナンガランはチャンティという名前で、さらさらしているロングの黒髪と、大きくて若干たれ目の感じの瞳が印象的だ。

 だが、そのあまりにインパクトのある首から下が全てを台無しにしている。

 それにしても、すごいな。臓器が全部揃っているようだ。蛍のように発光しているわけだが、特に心臓はドクドクと脈を打ちながら光量が大きくなったり小さくなったりしているのが実にシュールだ。何よりもすごいのは、剥き出しの臓器が内臓標本のように形を保っていることだ。普通なら、重力の影響を受けて腸が考えるも恐ろしい状況になっていそうなものだが。


「あの、そんなにじっと見られると照れてしまいます」


 チャンティさんが顔を赤くしてうつむく。心なしか臓器の発光が強くなった気がする。


「あ、失礼でしたか」

「いえ、そのようなことはありませんが……」

「つかぬことを伺いますが、内臓がそのように露出していたら、ちょっとしたことで傷ついたりしませんか?」


 感染症の危険性も高いと思うが、感染症という概念をこの世界の住人がどこまで理解しているか分からないから質問するのはやめておく。


「モンスターですから、こう見えて丈夫なんです」


 そりゃそうか。これで内臓がそのまま弱点だったら生きていくのも大変だもんなあ。

 そんなやりとりをしているうちに、ティナが目を覚ましたようだ。チャンティさんが気を使って一度その場を離れる。


「ティナ、大丈夫か?」

「……は、はい」


 ティナの顔色が悪い。まあ、気持ちは分かる。男の俺でも何の心構えもなしにいきなりあれを見たらかなりくるものがあった。ティナだけでなく、ピュロエイスもいまいち調子がよくなさそうだ。


「どうする? 二人は先に戻ってもいいぞ」

「え……私は行くの強制?」


 プレゴーンが情けない声をあげる。俺はプレゴーンの頭を撫でて、その後肩を軽く叩いた。


「今度、ブラッシング……丁寧にやってくれたら頑張れる」

「分かった、約束する」

「えへへー」


 ちょろいな。まあ、ブラッシングは心をこめてやってあげよう。

 そして、ティナとピュロエイスもついてきてくれるようだ。もうどんな光景を見ても驚かないように、覚悟を決めてペナンガランの集落へと向かうことにした。




「あれ、普通だ……」


 村というほどの規模ではないが、森の一角に小屋がいくつかあって、そこでペナンガランたちは生活をしているとのことだ。

 俺は今のチャンティさんと同じ姿のペナンガランがそこらじゅうをふよふよと浮いているショッキングな絵面を覚悟していたが、目につくのは普通の人間の女性の姿だ。


「ここが私の住んでいる小屋です」


 チャンティさんに続いて小屋の中に入り、それを見て思わず息を呑む。

 それは、椅子に座っている人間の女性だった。ただし、首はなく、右肩から左肩にかけて大きな切り傷のような穴がある。いや、もう、詳しく描写する気にならないが、それがチャンティさんの胴体であり、臓器が抜かれたものであることは想像に難くない。


「よっこらしょ……」


 そして、チャンティさんは自分の胴体の上に移動したと思ったら、ちょっと椅子に座りますよといった感じのかけ声で自分の胴体に向かって降りた。すると、どういう仕組みになっているのか、剥き出しの臓器は胴体の切り傷のような穴にすっと吸い込まれていき、次の瞬間にはどこから見ても人間としか思えない姿をしたチャンティさんが、首を軽く回していた。

 え? そんなにあっさりと収納できるの? 骨とかが邪魔しない? いや、そもそも首を抜くときに臓器をあれだけ綺麗に抜けるってのがおかしい。ひょっとして骨が存在しないのだろうか。いや、それだと体をどうやって支えているんだ。

 色々疑問に思うことがあるが、質問するのはさすがに失礼というものだろう。


「それがペナンガランの普段の姿ですか?」

「はい」


 俺はモンスターの気配、魔力を感じ取れるから目の前にいるチャンティさんがモンスターであることはすぐに分かるが、普通の人間ならまず分からないだろうな。ラミアが見せた人化の術と同じぐらい精度が高い。


「先程の姿がペナンガラン本来の姿ということですよね」

「はい」

「失礼なことを聞くようですが、森では本来の姿でいましたが、その理由は?」


 手足のある今の姿の方が生活はしやすいはずだ。見た感じ、小屋の中にある家具などは人間が持つものと変わらないし、そもそも椅子があること自体今の人間の姿でいることが前提だと思う。


「私たちは夜に本来の姿になって食事をとらないといけないんです。人間と同じ食事でもある程度なんとかなるのですが、人間を含めた動物の血をほんの少量とらないと生きていくことができません」


 そういえば、ペナンガランは吸血妖怪って扱いだったっけ。


「もしかして、吸血と本来の姿に何か関係があるのでしょうか」

「本来の姿に戻らないと、うまく血を吸うことができないんです。正確に言えば、血そのものではなくて、血に含まれた魔力を私たちは栄養にしているのですが、人間の姿のままだとそれをうまく吸収できないようなのです」


 うーん、吸血といっても、エナジードレインに近いのかな?


「私たちとしても、本来の姿だと人間の前に出ることはためらわれますし、空を飛べるので足はともかく、手がないと不便なこともあります」


 そう言えば、抜け首の伝承だと、日が昇るまでに元の体に戻らないと死んでしまうとかいうのがあったような。


「あの、本来の姿に戻るのは夜のみですか?」

「はい。本来の姿だと、太陽の光がちょっと熱いので」


 ちょっと熱い程度ですむのか。少し安心した。でも、どうやら本来の姿に不便さを感じているようではある。

 そこで、俺は自分の進化魔法について話してみた。これから助産婦のことを頼むわけだし、もし今の姿に悩みを抱いているなら力を貸してあげたい。そもそも、モンスター娘の悩みを期せずして聞いてしまった以上、俺は自分がこの世界に来た理由のために何かをしなければならないと思う。




 助産婦を確保するために複数のベナンガランに声をかけることになるので、集落にいる彼女たち全員に事情を話した。助産婦は彼女たちの仕事であるので、進化魔法のようなすごいものを持ちださなくてもかまわないのにといった感じのことは言われたが、これが俺の仕事だと言ったらそれ以上何も言ってこなかった。まあ、お節介なのは自覚している。

 そして、この集落にいるベナンガランを集めて進化魔法を試すことになった。小屋の中では狭いので、外に出ている。試す相手はチャンティさんだ。

 周りを見ると、ベナンガランが十数人いた。皆、興味津々といった様子でこちらを見ている。彼女たちの外見は、皆人間で言うと二十代前半といったところだろうか。モンスター娘らしく、誰もが整った顔立ちをしている。


「さてと……」


 俺はしばし黙考する。一番最初に考えたのは、人間の姿のままで食事をとれるようにすることだが、うまく魔法が発動しなかった。ほとんど人間の姿と変わらないままでは無理ということだろうか。

 ならば、臓器をぶら下げたショッキングな外見を改善して、さらに手を使えるようにすれば大体の問題は解決するはず。

 ……よし、これを試してみよう。


「とりあえず、これはどうでしょうか?」


 うまく進化魔法が発動した。これなら多くの問題が解決するはず。


「あの、どうなったのでしょうか?」


 チャンティさんは落ち着かない様子で俺にきいてきた。俺の魔法によって何かが変わったことは分かるようだが、どう変わったか分からないので落ち着かないらしい。


「チャンティさん、首のあたりに力を込めて下さい」

「はい……」


 すると、チャンティさんの首がポロっととれた。周囲から悲鳴が漏れる。


「前の時と同じようにすれば、空を飛べるはずです」

「あ、本当ですね」


 俺の目の前でチャンティさんが首だけで浮いていた。今までのように臓器をぶら下げてはいない。


「デュラハンをパク……、もとい、参考にしました。うまくいったなら、胴体部分も動かせるはずです」

「……動きます。初めてのことなので、うまく動かせませんが」


 チャンティさんの胴体がすくっと立ち上がって、頭の脇に歩いてきた。


「この状態で首の上に頭を置けば、外見上は人間と変わりません。しかも、胴体も動かせるので、手がないことによる不便さも感じないでしょう」


 これはかなりうまくいったのではなかろうか。

 俺は自信満々で周囲を見回したが、どうにも反応が鈍い。


「首だけ飛ぶって、なんか気持ち悪くありませんか?」


 えええええ!? それを言うかな、あなたたちが。しかし、彼女たちの美意識だと、首だけ飛ぶというのは美しくないらしい。こればかりは種族の感性だろう。

 うーん、どうしよう。

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