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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその3 一章
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069 出産を控えて

 俺は妊娠をしたブラック・ローチ四人、リング・ローチ二人、ワーラット二人がいるゴキブリたちの集落に来ていた。まだゴキブリたちの大半は地下に住んでいるが、俺は地上に彼女たちのための住居を建造することを王都に頼んでいる。スカラベの住居を優先しているために全員分の住居がないため、今は妊娠をした八人が優先的に住居を使っている。そして、俺は一人ひとりに話を聞きにきているわけだ。

 今俺の目の前にいるのは妊娠したブラック・ローチの一人だ。ショートヘアでまだ幼さを残した感じのローナとは異なり、ロングヘアでどこか落ち着いた雰囲気を感じさせる。

 ゴキブリの集落に来るとなると、普通の人間だと先入観から汚さを身構えてしまうかもしれないが、彼女からは異臭を感じられず、この部屋からは微かな香の香りまでする。

 これは、俺が清潔さをとにかく指導した成果でもある。まだ下水道にいることが多いために限界はあるものの、食事をとったら念入りに歯を磨いた上で風呂に入ることを徹底させている。それにより、下水道の中にいるとき以外は、もしかしたらヘタな人間よりも余程清潔かもしれない。

 人間が彼女たちとあったとき、もしこれまでの生活を変えていなかったら、その身から放たれる異臭や、体の所々がゴミや汚物で汚れている姿を見て眉をひそめたことだろう。やはりゴキブリは知性のあるモンスターでもゴキブリにすぎないと。そうやって先入観を強固なものにされると厄介なのだ。

 しかし、先入観とは真逆なものが現れたら、それは劇的な効果をもたらす。不潔と思っていたゴキブリが、見た目は非常に清潔であり、さらにモンスター娘の例にもれずどの個体も外見は可愛かったり美人だったりする。それは固定観念の破壊、とまではいかないだろうが、今まで自分が抱いていた考えを見直すきっかけにはなるに違いない。

 これらは彼女たちゴキブリに対する考え方のみならず、モンスター娘全体への考え方に影響を与えると俺は考えている。こうした地道な積み重ねが、今の俺たちには必要だと思う。


「体調はどうだい?」

「悪くないですね。こうして、落ち着いた環境で過ごすことができるので、前より体調がよく感じるぐらいです」

「それはよかった」


 なんとなくゴキブリは清潔でない環境の方が過ごしやすいのかと思っていた。だが、これまで色々ヒアリングをした結果、清潔でない環境で体を壊すことがないだけであって、清潔な環境で暮らすことを知ると、その環境を好むようになっていることが分かった。一度贅沢を知ったら戻ることができないという話があるので、それについては若干の危機を抱いていないわけではないが、人間との関係を構築していくことを考えると、清潔な環境を好むならその方がいいとは思っている。


「何か不安に思うこと、欲しいものがあったら言ってみてくれ。なるべく対応できるようにするから」

「……やっぱり、初めての産卵なので、色々と不安ですけど、何が不安かと言われたら漠然としていてうまく言えません」

「それは、産卵経験を持つ仲間が少ないから?」

「そうですね。でも、誰もが初めてを迎えるわけですから、産卵の時にはただ私が頑張るしかないと思っています。それに、ここでは食事が十分すぎるほどあるから恵まれていると思っていますし」


 その後、他のゴキブリたちとワーラットの一人ひとりに話を聞いたが、皆同じようなことを語った。

 初めての産卵、ないし出産への不安はあるが、こればかりは仕方ないといった感じだ。ワーラットに関しては出産経験が豊富な仲間が何人かいたため比較的落ち着いている印象だったが、流産や死産という経験もあるらしい。


 話を聞いていて感じたのは、人間の場合は産婆や助産婦が存在することだ。貴族や王族の出産ともなると、ラーナ神に仕える高位の司祭が付き従って、回復魔法などを使って苦痛を和らげたりするらしい。豊穣の女神は多産も司り、出産においては力を貸すのだとか。

 なら、ラーナ神殿に行って手伝ってもらうことも考えたが、モンスター娘はなるべくモンスター娘たちだけで様々な出来事を解決すべきだと思う。まあ、俺というイレギュラー的存在が力を貸しているのは目を瞑ろう。

 ……ただ、初めての出産だから今回は力を借りるのがいいかもしれない。なるべく安全を確保した上で経験を積むことが今は必要だろう。




「……以上が現在懐妊しているモンスター娘たちの状況です。私の考えとしては、彼女たちは彼女たちの力のみで産卵、出産を行うべきですが、経験者が少ない彼女たちは不安を感じているので、今回はラーナ神に仕える貴女方の力をお借りしたいと考えています」


 思い立ったら即行動。俺は、王都のラーナ神殿を訪問していた。ラーナ神に直接指名された者として俺は覚えられていて、この神殿の責任者の司祭長の元へと案内された。以前神殿に来た時にも挨拶をしているし、グローパラスのことも知っているので話が速いのが助かる。

 相手が人間、モンスター、動物問わず、新たな生命の誕生を助け、祝福するのがラーナ神の教えでもあり、俺の要請は快く受け入れてもらえた。出産予定時期の三日ほど前からベテラン二人を派遣してもらうことになったので心強いと言える。出産がいつ始まるか分からないので、大きな部屋に妊婦を全員集める必要があるそうだから、帰ったらすぐ手配をしておこう。


「私たちは出産に立ち会う経験は多いですが、妊婦の変化に注意をはらい、赤ちゃんを直接とりあげる役目を担う助産婦ではありません。いつもならば私たちの方で助産婦の手配もするのですが、モンスターが相手となると難しいでしょう」


 ……あー、そりゃそうだよね。

 これに関しては俺たちの方で何とかすると伝えて、神殿を後にした。彼女たちにも立場があるから、助産婦の手配まで頼むわけにはいかないだろう。

 モンスター娘に助産婦という存在があるのかどうかというと、専門知識を有するわけではなく、仲間の出産の手伝いをすることで自然と知識を身に付けるものだそうだ。そして、グローパラスのモンスター娘たちにはそうした経験が乏しい。




「……うーん、助産婦じゃなくても、出産に立ち会った経験が多いモンスター娘ねえ」

「母上なら仲間の出産に何度も立ち会っているはずだよ」


 俺の呟きに答えたのは、俺の執務室に遊びに来たハーピーのルキアだ。何かいつも誰からしらモンスター娘が遊びに来ているような気がする。少しは静かに仕事をさせてほしいものだ。

 それはそれとして、ルキアの母は北部の山に住むハーピーの長だったよな。


「さすがに長には頼めない。何日かかるかも分からないしな」

「母上以外だと無理かなあ。うちの群れって若いハーピーが多いし」


 そういうルキアは最若年だがな。

 ふむ、グローパラスにはいない以上、こうして知り合いのモンスター娘に頼むって方法しかないかな。そうなると、長生きしていて色々知ってそうなモンスター娘といえば……。


「ノエル、何かいいモンスター娘を紹介してくれないか」

「ふむ、儂の顔の広さを頼りにしたのは正しい判断なのじゃ」


 俺は湖の乙女ヴィヴィアンのノエルの館に来ていた。長生きしている上に暇さえあれば本を読んで知識を蓄えている御仁だ。ノエルなら、何かしら力になってくれるだろうと思ってやって来たわけだ。転移魔法の中継地点になっている点も非常に便利だしね。


「この森の南東の方に、助産婦としての技術を持つモンスターの一族がおるな。今のお主たちにおあつらえ向きじゃろ」


 え? マジでそんな都合のいいモンスター娘がいるのか。


「本当か? モンスター娘の出産についても大丈夫なんだろうか」

「正体を隠して人間相手に商売をしている者もおるようじゃが、モンスターや動物相手でも十分に役割を果たしておるぞ」

「それはありがたい。で、そのモンスター娘とは?」

「ペナンガランじゃ」




 ノエルにペナンガランが住む場所を聞いて、俺はティナ、プレゴーン、ピュロエイスというメンバーで早速森の南東部へと足を踏み入れた。森の中はソラウスのスピードを活かすことができないので、いつの間にか日が暮れてしまった。今は俺が光の魔法を使って周囲を照らしている。このあたりは、木が密集していないのでソラウスで走ることもできるが、暗い中スピードを出すのは危険だろう。

 なお、プレゴーンの足は八本から四本に戻っている。スレイプニルとは彼女たち馬の姿をしたモンスター娘にとっては憧れの存在らしく、俺の魔法によってその姿になるのはズルしたみたいで気になるらしく、妖精界での戦いが終わった後に早々に戻したのだ。


「ペナンガランってどんなモンスターなのですか?」


 三人とも初めて聞く名前らしい。ノエルはなぜかニヤニヤ笑いながら教えてくれなかったのだが、ノエルには悪いが俺は知っている。

 妖怪漫画の第一人者が描いた漫画で見たことがある。日本の南方に住む外国の妖怪で、吸血妖怪だったな。姿は細長いサツマイモみたいな感じで、翼もないのに空を飛んでいたのが印象的だ。他にも南方妖怪がニ体いたが名前が覚えづらくて、ペナンガランしか名前を思い出せない。


「俺の知っている限りだと、空を飛ぶ毛に覆われた太いミミズで生物の生き血を吸うってやつだが……」


 俺の言葉に三人は「こわーい」と言った様子を見せた。ミミズと言ったのが悪かったのだろうか。


「まあ、モンスターということは今は外見が人間っぽくなっているはずだし、そんなに怖がることはないんじゃないかな」

「リューイチさん、何かが来ます」


 その時、ティナが警告の声を上げた。彼女の大地魔法の感知に引っかかったわけではないようで、左の方を指さしている。見てみると、何か光る物体がゆっくりとこちらに向かってきていた。

 ウィルオーウィスプがここにもいるのかな? だが、あの光は炎のようにゆらゆらしているわけではなく、ただボーっと光っている。それに、ウィルオーウィスプよりも大きそうだ。


「……え?」


 そして、その姿が視認できるようになって、俺たちは凍りついた。

 空を飛んでいたものは、人間の女性の生首だった。しかも、生首といっても頭だけではない。首から下には臓器をそのままぶら下げていた。心臓、胃、肺、腸などが剥き出した。しかも、その内臓が黄緑色の、まるで蛍のような色の輝きを放っている。


「あら、こんばんは」


 その生首は、非常に魅力的な笑顔を浮かべ、その姿からは考えられないような美しい声で俺たちに挨拶をしてきた。なんというフレンドリーさ。


「……こ、こんばんは」


 俺はかろうじて挨拶を返すことができた。声が微かに震えていたのは見逃してほしい。叫び出さなかっただけでも我ながら立派だと思う。いつの間にか、俺の手をプレゴーンが強く握っている。俺はプレゴーンに乗っているので、俺の手を握るには腕を無理して曲げないといけないのに、その無理をしてまでぎゅーっと握りしめている。

 あ、ティナが挨拶を返さないのは珍しいな。そう思ってティナの方を見たら、彼女はピュロエイスに乗ったまま気を失っていた。

 ペナンガランについて色々と書きたいことがあるので、活動報告の方で雑談を載せます。あくまで雑談なので本編にはまったく関係ありませんが、妖怪やモンスター好きならばぜひ。

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