064 スコルの処遇
スコルを捕縛して丸三日が経った。
ノーライフクイーン、アルマの襲撃の可能性を考えて厳戒態勢が続いていたが、妖精界の異常現象がなくなったことでティターニアであるオリヴィアは休息を取ることができ、オリヴィアが完全に本調子になった今朝になってようやく厳戒態勢が解除されることとなった。
「妖精界の中であればノーライフクイーンといえども好き勝手はさせません」
オリヴィアは胸を張って宣言した。
妖精界においては、創造主であるオリヴィアの力が最大限に発揮できる。だからこそ、アルマはオリヴィアの注意を別に引きつけていた。
そう、妖精界の異常現象の原因は、アルマにあった。彼女の存在が明らかになったときに原因が何にあるかは予想はできたことだが。
アルマは各所に巧妙に隠されて設置した特殊な魔法陣を使って妖精界の魔力のバランスを崩していたらしい。モンスターとは異なり、魔力そのものが生命を宿したと言われる魔族。その魔族の中でも屈指の力を持つ種族による魔法陣はオリヴィアにとっても未知のものであり、発見が遅れたようだ。今ではその魔法陣の解析も始まっているそうだ。
一方で、スコルに対する事情聴取も同時に進められた。
当初はスコルが暴れることに対する警戒心や恐怖心があったものの、特に暴れるようなことはなかった。食事として炎を要求されたぐらいで、魔法で生み出された炎を美味しそうに食べると、聞かれたことには素直に答える。
「つまり、走っているものをみると追いかけたくなる。ただ、それだけだと」
「うん! それに、馬車で運んでいた太陽はとてもおいしかったし!」
オリヴィアが創った太陽は、太陽の馬車に運ばれるものではなかったが、ソールが創る太陽と同じく、地上を焼くことなく妖精界全体に光と熱を届けるもので、その味は格別だったそうだ。
そして、オリヴィアは太陽を創り続けることをやめて、ソールを雇った。それがさらにスコルを太陽に固執させた。そう、太陽の馬車が登場したからだ。
太陽の馬車を狙ったスコルの理由は単純なものだった。太陽の馬車はかなりの速度で妖精界の空を駆け回っていたそうだから、それを見たスコルの狩猟本能がとても刺激されたこと、そしてそれによって入手した太陽が美味だったこと、その二つが合わさってスコルは太陽に執着したらしい。
だが、そもそも太陽を狙う理由は別にあったようだ。そこに至るまで紆余曲折があり、スコルが妖精界に来た事情を聞き出すまで三日かかった。だが、そのおかげでようやく大体のところが分かった。
スコルは、当然ながら妖精界とは別の場所で生まれた。
火山が盛んに活動している島でスコルは生まれたらしい。スコルは種族名で、彼女はザザと呼ばれていたそうだ。
その島では火山は常に噴煙をあげ、火口からは時折溶岩が流れ出ていた。スコルたちはその溶岩を主食としていて、ザザも空腹になると火口にやってきて溶岩をなめていたらしい。
「溶岩ウマー」
穏やかな暮らしがずっと続いていたが、ある日、火口から炎に包まれた鳥が現れて、いずこかへと飛び去った。いわゆるフェニックスというやつだろうか? その鳥についてはザザは何も知らないそうで残念だ。
ザザはその鳥が空を飛ぶ様子を見て、思わず追いかけた。彼女の狩猟本能をいたく刺激したらしい。その後空腹になるまで追いかけ続けたが、ついに追いつくことはできなかった。あきらめて島に帰ろうとしたが、島からあまりにも離れてしまったため、迷子になってしまったらしい。どうやら帰巣本能はうまく働いていないようだ。
「ここどこ?」
その後島を求めて闇雲に走り回ったが、当然戻ることができるわけもなく、ついには空腹が極まって動くのも困難になった。
そこに現れたのがアルマだったそうだ。アルマは闇の炎を魔法で生み出したが、それはザザには合わなかった。空腹を抑えることはできたが、腹の調子が悪くなるらしい。炎にも相性があるのだろうか。
「この炎、ちょっとくどくておなかがもたれる……」
そして、ザザが連れて来られたのがこの妖精界だったそうだ。アルマと出会った場所がたまたまこの妖精界の近くだったらしい。どういう経緯でアルマが妖精界の太陽を狙うことにしたかは不明だが、ザザの食事として妖精界の太陽を選び、その太陽はザザにとって食事として十分なものだった。
その後、ソールが創る太陽に変わったが、先に述べた通りザザは太陽を食べ続けることになり、オリヴィアがほとほと困っていた所に俺たちが来たことになる。
アルマが妖精界の太陽を狙ったことについて、オリヴィアの推測は、ノーライフクイーンなどヴァンパイアという種族にとって太陽は大きな弱点であるから、ザザに太陽を食べさせることでその地域の支配を始めるのが目的ではないかということだった。
しかし、この世界における太陽は天空高くにあるもので、太陽の場所によって運ばれるものではない。確認はしていないが、おそらくこの世界は丸い惑星であり、太陽は恒星の一つにすぎないだろう。さすがにザザが手を出せるとは思えない。
そもそも、妖精界のような一つの閉じた世界をわざわざ支配するようなことをするだろうか。
まあ、そのことについては、アルマを問い詰めなければ分からないだろうな。
差し当たって今問題となるのは、ザザの今後だ。
本人が意図していなかったとはいえ、これだけの事件を引き起こしてしまった以上、このまま妖精界に置いておくわけにはいかないだろうな。
グローパラスに連れて行ってもいいが、食事はどうしようか。炎をある程度用意できるのは、クレアのほかには、炎の魔法を得意とするギルタブルルのムニラぐらいだろうか。
その二人にはやることが他にあるし、うまくザザの食事の時間を捻出することができるかどうか……。
「ザザ、いくよー!」
「早くー!」
その時、楽しそうな声が聞こえてきた。
ザザはウィルオーウィスプのプロミィと遊んでいる。プロミィは炎をいかに長くザザに捕まらないように操るかに熱中し、ザザは炎を追いかけ回すことを楽しんでいる。どちらも遊びでやっているから、非常に相性がよさそうだ。
そうか、プロミィがいたな。
俺は、二人の勝負が一段落するまで待ってプロミィに声をかけた。
「なあ、プロミィ」
「ん、なあに?」
「プロミィのウィルオーウィスプ仲間ってさ、何人ぐらいいるんだ?」
「私を含めて九人だよ」
そこそこいるな。ウィルオーウィスプ村、いや、規模的にウィルオーウィスプ寮やメゾン・ウィルオーウィスプといった方が近いかな。どんな所か知らないが、燃えにくい場所……岩場に穴がいくつかあって、そこからちっちゃなウィルオーウィスプたちが一斉に顔を出す魅惑の場所……。
「おーい、リューイチ、ぼーっとしないでよー」
「……は!」
いかんいかん、つい妄想してしまった。異世界は想像力を刺激される場面が多くて困る。
「ザザと仲良くやってるようだな」
「うん! 気が合うみたい!」
「プロミィの炎はちょこまか動いて捕まえがいがあるかも」
ザザが話に入ってきた。これはちょうどいいな。
「なあ、プロミィ、お前たちが住んでいる場所にザザも連れて行ってほしいんだけど、どうかな」
「どういうこと?」
「ザザのこれからの住処を考えているんだけどさ、食事がある場所じゃないと意味ないだろ。で、食事を安定して供給できるとなるといいところがないんだ。そこでウィルオーウィスプの出番というわけだ。プロミィの仲間にも、お前と同じように俺が進化させる。九人もいれば、食事について心配はないだろう」
プロミィとザザは目をぱちくりとさせていたが、やがて話の内容を理解したのかきゃいきゃい騒ぎ出す。
「これからもプロミィと一緒にいられるの?」
「ザザと一緒! 一緒!」
思ったより仲良くなっていたらしい。これならうまくやっていけそうかな。
「ただ、プロミィの友達にとっては突然の話になるから、事前に話し合いをする必要があるけど」
「あー、大丈夫大丈夫。私が言うのもなんだけど、ウィルオーウィスプって皆適当に生きているからさ。ザザが来て遊びの種類が増えたら喜ぶって」
脳天気だなあ……。まあ、その脳天気さは嫌いじゃない。やはり、妖精ならそういうノリのよさがないとね。
よし、とりあえずザザの今後についてどうするか道筋ができた。そのことを含めてオリヴィアと話をしないとな。
そして、転移魔法を報酬として教えてもらわねば。




