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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
三章 いざ妖精界へ
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057 黒い狼

「よし、目指すは城だ。向こうに進めばいいようだから、プロミィ、悪いけど明るめの光にして先導してくれ」

「任せてよ! 暗闇の中、人間を導くのがウィルオーウィスプだからね!」

「……くれぐれも、変な場所に案内するなよ」

「や、やだなあ、そういう場合じゃないってことぐらい分かるよー」


 声が裏返っていたな。釘を刺しておいて正解だったか。もっとも、プロミィにしてもここは初めての場所だから悪戯をしようにもうまくできなかっただろうが。


 そして、俺たちは黙々と歩いた。草原を歩いて行くと、そこそこ横幅の広い道路にあたった。城があると言われた方向に向かってまっすぐ伸びているから、たぶんこの道を歩けば城に着くだろう。

 歩きながら周囲の風景を見ていて感じるのは、やはり緑が多いこと。草原が広がっていて、どこも様々な種類の花が咲き乱れている。また、もっと遠くの方を見ると、森と思われる場所もある。草原や森が、妖精が住む場所として定番なんだろうな。たぶん、川や湖もどこかにあるに違いない。




 昼が一気に夜になるという異常事態があったばかりだが、この平和な光景に気が緩んでいたのかもしれない。

 気づいたとき、それはすぐ近くにいた。


「……!?」


 俺は大きな気配に気づいて視線をそこに向けた。

 そこにいたのは黒い狼。いわゆるモンスター娘ではない。動物の狼だ。大きさはたぶん普通の狼と変わらないと思う。狼の一般的な大きさは知らないが、犬で言えば柴犬やシベリアンハスキーといった感じだ。

 しかし、その瞳は金色に輝き、体全体はまるで陽炎のようにゆらゆらと揺らいでいる。その揺らぎの正体が、その狼が宿す魔力が溢れ出しているものと気づき、こめかみを冷や汗がつたう。


「クレア、プロミィ、ゆっくりと俺の背後に回れ」


 俺は視線と小さな顎の動きで狼の存在を二人に伝える。


「あれはやばい。正体が分からないけど、魔力の量が半端ない」


 クレアはすぐに溢れる魔力に気づいたのか、真剣な表情でゆっくりと俺の後ろに下がる。


「ねえ、光るのやめた方がいいかな?」

「そのままでいい。明るさを変えて相手を刺激するのは得策じゃない」


 いつもと違って張り詰めた雰囲気の俺たちを見て、プロミィも慌てて移動する。最初慌てた様子で動いて、俺の「ゆっくりと」という言葉を思い出したのかすぐにゆっくりとなったあたり、プロミィもあの狼を見てかなり緊張しているようだ。

 一体あれは何だ。俺がこの世界に来てから、あそこまで大きな威圧感を持ったものは、大地母神ラーナを除いて出会ったことはない。やはり、あの太陽を食べる狼と関係があるのだろうか。狼娘ではなく動物の姿であるのはなぜ? 動物に化けることができるのか、それともその姿が本性なのか。


 俺は、あの狼の金色の瞳から目を離さずにいた。目を逸したら、その次の瞬間襲いかかってくるかもしれない。腰に神珠の剣が確かにあることを重さで確認し、あの黒い狼の一挙手一投足を見逃さないようにする。


 短い時間だったかもしれない。だが、長い時間が経ったように感じられた。

 そんな睨み合いの果て、その狼は目を細めると俺から目を逸らした。いつしか、その狼から放たれていた魔力は鳴りを潜め、狼は何事もなかったかのように軽快に走り始めると、そのまま走り去っていった。


「ふう……」


 俺は深い溜息をついて緊張を解く。


「あれ、何だったの……?」


 クレアは、狼が走り去った方向を見て呆然とした感じで俺に尋ねたが、俺にもあれが何か分からない。モンスター娘やモンスターの類ではないかもしれない。そのぐらいしか分からなかった。


「ねえ、あの狼が走って行った方向って、あたしたちが行こうとしている方向なんだけど」


 プロミィの言葉にはっとなるい。

 さて、どうする。普通なら、君子危うきに近寄らずだが……。


「とりあえず、行ってみる。今度は集中して歩くことにする。あいつの気配を感じたら近づかないようにすればいい」


 当初の目的通り行動することにする。あのやばい狼がもしかしたら城の方に行ったかもしれない。それなら、なおのこと城へ向かわねばなるまい。

 クレアとプロミィをどうするか迷ったが、ヘタに離れるよりも、近くにいた方が安心できるな。

 そして、また城を目指して俺たちを歩き始めた。




 周囲の気配を探りながら歩くのは気が張って疲れる。歩くスピードも遅くなるので城に一体いつになったら着くのだろうか。

 だが、その慎重さは実を結ぶ。この先に何かがいることに俺は気づいた。


「二人とも、下がってくれ。この先に何かいる」

「またさっきのやつ?」

「……いや、さっきの狼のような大きな気配じゃない」


 相変わらず周囲の風景は草原だ。俺たちはその草原の中に作られた道を歩いていた。そして、今俺が感じている気配は、俺たちの行く先にある十字路のような場所の中央から感じる。


「二人とも、俺から離れるなよ」


 それから少し歩くと、何か声が聞こえてきた。


「体が熱いのだー! うがー! ざわざわするのにゃらー!!」


 女の子の声だ。ここは妖精界だから、おそらく妖精の声だろう。

 声の主は……あれか、十字路に突っ立っているあいつ。狼娘? いや、あの時遠目で見た狼娘は、外見はなんていうかな、ビキニの少女に毛皮のニーソックス、肘まである手袋を着せたような感じだった。

 だが、目の前にいるのはビキニの少女に犬の尻尾がついているだけといった感じだ。毛皮成分が少ない気がする。特徴的なのは褐色の肌と、ぼさぼさのボブカットの黒髪の頂点にある大きな犬の耳。うん、狼よりも犬って感じだな。そして、その瞳は真紅に燃えている。闇の中、赤く輝いているから見る人によっては怖く感じるかもしれないな。


「夜は長いのら!! ふっふんふー! ふぉー!!」


 やたらテンション高いな。

 だが、その少女から感じる気配は結構な強さを感じる。こいつは一体何だ?


「ふぅ……ふぅ……煮えたぎってきたのら!!」


 !? その少女の口から炎がぶわっと噴き出た。まるでドラゴンのブレスだ。

 黒い犬、赤い瞳、口から炎……まさか……。


「ねえ、そこのお兄ちゃん、ボクと遊んでよー」


 その少女は俺に向かって手を振ってきた。さっきから酔っ払っているような支離滅裂さだったが、俺のことはしっかり認識していたようだ。そして、ゆっくりとした動作で俺の方を向いて体を少し沈める。

 あ、これは……。


「クレア! プロミィ! 道から退避しろ!」

「う、うん!」

「わかったよ!」


 二人が横によけると、その少女は俺の方に向かってすごい勢いで走ってきた。

 やべ、二人に注意がいってたからすぐには……


「ぐはっ!?」


 俺は少女にそのまま跳ね飛ばされる形になる。浮遊感を感じ、天地が逆さまになって俺の視線の先に草原が、そして地面が見えて、その地面が近づいてきて……


「……ちっ!」


 地面にぶつかる直前、右手を地面について、そのまま腕の力だけで自分の体を支えて地面に倒れこみながら受け身を取り、転がりながら即座に立ち上がる。危なかった、普通だったら右手が折れていただろうな。


「よかったあ、お兄ちゃんって身軽なんらー、ボク、嬉しいよー」


 少女は再び俺の方を向いた。てか、結構遠くまで走り抜けたんだな。思ったよりも距離が離れている。


「また行くろー!」


 少女は、体を少し沈める。


「……!」


 今度はしっかりと少女を見る。地面を蹴って俺の方にまっすぐ進んでいく少女の進路が簡単に予想できる。このままだとさっきの二の舞いだ。

 そこで、俺はすぐ横にステップする。少女の予想進路からこれで外れる。だが、少女が少しでも俺の方に向けて曲がれば俺に直撃する。


「リューイチ! よけて!」


 クレアは当然少女が俺の方へ向かってくると思ったのだろう。だが、俺の予想が正しければ……。


「あー! ずるいにょ!」


 少女は進路を変えずに突き進む。俺の横をすごい勢いで走り抜けていったため、ヒュオンッという音と共に風を感じる。


「まっすぐしか走れない。お前は、ブラックドッグだな」


 他にもヘルハウンドやキャペルスウェイトという名前も持つ、黒い犬の姿をしたイギリスの妖精だ。うん、やっぱ狼じゃなくて犬だったか。その妖精が一体なんでこんな場所で興奮して暴走しているのか。

 ブラックドッグは俺の方を燃えるような赤い瞳で見ながら、口から煙草の煙のように炎を吐いている。とりあえず、一度落ち着いてもらいたいけど、どうすればいいかなあ。

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