045 色
うーん、ただ単純に鱗の色を変えるだけの進化ってできるのかな? 今までの進化は大抵の場合もっと複雑なことをやっていたからどうにもピンとこない。
スライムで保護色はやったけど、そういうのとは違う。生物の体色ときて俺が最初に思いつくといったら……やっぱ警告色かな。毒を持っている生物が派手な色をしているのは、その派手な色で捕食者に危険を知らせているってやつ。そして、その警告色で真っ先に思いつくのは……。
「これなんかどうだ?」
アメリアの鱗が黄色と黒の縞模様になる。スズメバチや踏切などで日本人にはおなじみの色だ。交通標識でも、警戒標識は黄色の背景に黒の絵が描かれる。
「……なんとなくやりたいことは分かったけど、私が求めているのはこういう派手さじゃないんだよね」
……うん、やっぱりそうだよね。
しかし、そうなると俺が一から考えなければいけなくなるわけだが……。
「黄緑色はどうよ。確か蛇でこの色で人気があるやつがいたはず。テレビで見たことがある」
「テレビって何? この色、悪くはないけど、ちょっと地味かなあ」
「じゃあ、これだ、タマムシ。緑のメタリックカラーに、赤の筋を入れてみた」
「うーん、赤の筋は微妙かなあ。緑だけだとちょっと寂しい気がする」
「よし、ホログラムだ。昔集めたシールだと、ホロシールが断トツにえらい。持っているだけでヒーローだ」
「ホログラム? シール? なんかあなたが言っている言葉の意味が全然分からないんだけど。で、なんか角度によって違う色が見えて綺麗だけど、ちょっと目立ちすぎるわね、これは」
この調子でどんどんダメ出しをくらっていった。
まあ、俺のセンスがないのは仕方ないが、アメリアも「実際に見てみないと分からないし」ということで、色の希望を言ってくれない。
これはあれだな。女性の服選びに付き合って地獄を見るのに似ている。いや、そういうシチュエーションはフィクションの中でしか見たことないけど。たぶんリア充はやっているんだろうな。
「蛇女だっけ? 俺が知っている蛇だと、綺麗な色をしている種類ってそれほど多くなかった気がするけど……」
この世界の蛇がどうか知らないが、この世界は地球と驚くほど似ているから、たぶん俺の言っていることも的外れではないだろう。
「確かに地味な色の蛇女も多いけど、綺麗な鱗をしている種類もそれなりにいるのよ。そういう奴らは得意な顔をして私たちを見るからさ」
アメリアは何か思い出したのか、額に青筋を浮かべてそうな感じでぷりぷり怒っている。
「怒って喧嘩とかになったりしないのか?」
「さすがに蛇女相手に喧嘩なんて、弱い者いじめすぎてプライドが許さないわ」
まあ、かたや神話に登場する怪物で、かたや大きくなっただけのモンスター。その実力に大きな違いがあるのは当たり前か。
「外見は変わらないっぽいのになあ」
「それは、人間の上半身と蛇の下半身という点しか見てないからよ。よく見たら、蛇女は人間部分も薄く鱗で覆われているわ。脱皮するときは、私たちは下半身のみだけど、蛇女は全身脱皮するわね。ほかにも、私たちの舌は人間のそれとほとんど同じだけど、蛇女は舌の先が二つに分かれているわね」
なるほど、蛇女は全身に蛇の特徴がにじみ出るということか。蛇をモチーフとしたモンスターは多いけれども、この世界に一体どれだけいるのか、そしてモンスター娘化した場合はどのような姿になっているか、色々気になるな。
「はいはい、今は私の進化に集中してね」
「分かった分かった」
サンディはとっくに飽きて近くで居眠りをしている。体を丸めてイモムシの胴体部分の上に顎を乗せてすやすやと眠っている姿は愛らしく、それを見て俺はくじけずに何度も挑戦する気力を奮い起こす。
こういう時に他の女性の意見があればよかったのだが、クレアとティナは魔法学院に行っていて留守であり、モンスター娘は俺たちの様子を見て君子危うきに近寄らずとばかり近づいてこない。くそ、無駄に勘がいいな。
いっそのことアメリアに自由に色を決めてもらえばいいと思い、自由に体色を変えられるように進化できないものか試してみたが、残念ながらその進化はできなかった。保護色はかなり自由に色が変わるのに、それとどう違うのだろうか。
そんなこんなで、何十回、ヘタしたら百回を超える試行錯誤のはて、ようやくアメリアが満足したものができた。
「こ、これで、どうだ。俺の好きなモルフォ蝶、濃い青から淡い水色はメタリックに輝き、縁は黒で輪郭をはっきりさせているって感じで綺麗だろ」
これまでのアメリアの反応では、青系統の反応がよかった。途中から服を選ぶ気持ちになっていたから色の組み合わせばかり考えていたけど、原点回帰して生物から拝借することにしてみた。
「これ、素敵じゃない! 気に入ったわ!」
「……それはよかった、本当に」
時間がかかったが、ようやく解放される。なんかもうどっと疲れた。
「じゃあ、次は私たちの村に来て、他のラミアにも同じことをやってね」
「……え?」
「全員好みが違うから大変かも。でも、全員一緒にやれば、それぞれの好みはすぐに見つかるかもね」
いや、さすがにそれはめんどくさすぎる。これは断わらねば。
「そのかわり、私たちの何人かはここに移住するから。モンスター娘を色々募集しているって話を聞いているから大丈夫でしょ?」
……ラミアがグローパラスに来てくれればメリットは大きい。やはり、見た目にインパクトがあるモンスター娘は貴重だ。ラミアとなればこの世界でもきっと知名度は高いだろうし。
「……分かった」
まあ、それからのことはあまり思い出したくない。
まず、ラミアの村に行くのに、ラミアの移動速度が速いことからアメリアに騎乗することになったわけだが、これが非常に大変だった。今から考えれば鐙のようなものを無理にでもつけるべきだったが、結局俺はアメリアにずっとしがみつく羽目になった。乗っている蛇の部分がくねくねと動くため油断すると振り落とされかねなかったからだ。
「それにしても、リューイチはおっぱいが好きねえ、エッチ」
振り落とされまいと必死にしがみついたら、そのしがみつき先がたわわな胸だったことが何度もあったせいで、その都度アメリアにからかわれた。こっちはそれどころじゃなかったんだが。今から考えたら、人間の同行者がいないから、俺が本気で走ればよかった気がする。
そして、ハーピーの集落から少し先にラミアの集落はあった。そして、そこに暮らす三十人ほどのラミアたちの全員の体色を変えるのに丸三日かかった。とにかく注文が細かい上に、他のラミアの体色を見て「あ、やっぱりそっちがいいかも」と希望を変えるから、全員が納得するまでに時間がかかったのだ。
まあ、おかげでグローパラスにラミアが加わることになったから俺の苦労も報われたけど。
ラミアは雑食性だが特に動物の血を好み、長年の研究とやらで血を使った料理を発展させていた。主にソーセージの種類が豊富だが、スープや、穀物と血を炒めたものなどもある。これで、モンスター娘屋台の種類がようやく増える。とはいえ、まだまだ少ないからもっとモンスター娘を探さないといけないが。
また、ラミアはその姿から、ただそこにいるだけで見る人の注目を集めるから園はますます王都の評判となったようだ。
こうしてハーピー、アルラウネ、ラミアと有名どころを順調に増やすことができたわけだが、ここでとにかく感じたのは移動の大変さだ。俺はなるべく園にいたいのだが、モンスター娘を探してあちこち巡ったら、移動日数だけで月の半分以上を占めることになりかねない。
これからは馬を使うことを考えなければならないだろうか。いや、単独で動けば移動日数は減らせるけど、モンスター娘を移動させるときはやはり日数がかかることになる。
何か根本的に移動手段を変えることができないと、今後も大変だ。
となると、次は便利な移動手段を何とかして探さないといけないな。
これで一章が終了です。
一章は「ストーリーその2」の目的「移動手段を確保」を提示するためにありました。