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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその2 一章 スカウトの日々
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040 手羽先

 うまくいくと思ったんだけどなあ。

 翼を持ったモンスター、時には神。そうした存在は世界各地の神話や伝承に存在する。そして、そういった存在の中では翼と腕が独立している天使のような姿のものが多いだけに自信があった。

 それが無理となると、やはり次の手段として考えられるのは、今の翼はそのまま残して新たに腕を二本生やす進化だな。つまり、手を足と考えると四本足から六本足への進化だろうか。

 ……足の本数が増えることって進化なのかな? 哺乳類は四本足なのに対して、昆虫が六本足だったり、軟体動物のタコが八本でイカが十本、いや貝は一本ってことになるのだろうか。ムカデはどうしよう? あれ? 足の数って進化と関係あるのかないのかという根本的な疑問が。


 分からない。まったく分からない。

 だが、腕が生えれば便利になることは間違いない。

 とりあえず試してみれば……って、あれ……うーん……。


「どうしたの?」


 ハーピーのルキアが黙り込んだ俺を不思議そうな表情で見る。

 ダメだ、やっぱり魔法が発動する手応えがない。不可能な進化を思い浮かべても進化魔法は発動しない。つまり、新たに腕を生やすのは無理ということか。

 腕が無理なら触手でいいじゃない。イカの触腕とかでもいいかな。

 ……いやいやいや。違う、そうじゃない。方向性を見誤ったらダメだ。

 ルキアが何を求めているかと言ったら、器用に物を掴むことができる手だ。腕がまるまる人間のようになっていなくてもいい。

 ならば……。


「次を試してみるぞ」

「よし、こい!」


 ノリがいいな。まあ、明るい気持ちでいてくれる方がこちらとしては助かる。

 そして、今度は進化がうまくいった。


「これは……手があるよ!」


 翼が腕から進化したものなら、翼の先の方は元々手であった部分のはず。ならばその部分を手に戻すことができるはずという俺の考えはうまくいった。進化というよりも退化かもしれないが。

 今のルキアには、翼の先に人間の手ができている。風切羽は手首の手前辺りでなくなっている。その姿は、両腕を真横に広げている人間の腕に風切羽がついているといった感じだ。

 ……どこかで見たことあるな。

 そうだ、キングオブロックだ。あの白いステージ衣装を彷彿とさせる。まあ、白い翼ではなくて茶色だけど。


「どうだ? これならいけるんじゃないかな」

「物を掴める! まだうまく力を入れられないけど」

「手の方は大丈夫だな。問題は飛べるかどうかだけど……」


 元の姿では、翼が結構大きかったが、今回の進化で横幅が短くなったのが気になる。本来は今手ができたところからも風切羽が生えていたが、それがなくなっている。特に、横向きに生えていた風切羽がなくなったことがどう影響するか……。


「うー、無理ー、飛べないよー」


 予感は当たった。やはり、風切羽は飛ぶにあたって必要なものということか。今回手の部分の風切羽が根こそぎなくなったのは何が原因だったのか。

 うーん、元通りになると羽がわさわさあって見づらい。まず骨格がどうなっているのか知りたいな。でも、レントゲンとかあるわけないし……。


 って、待てよ。手羽先、手羽先って字面的に俺が知りたい場所じゃないか?

 俺は手羽先をうまく食べるのが苦手で、食べるたびに悪戦苦闘していたから形は結構覚えている。えっと、人間の腕の骨みたいに二本の骨が上下に組み合わさっていて、そこからクイッと曲がって、曲がった所から短い爪みたいな短い部位と、腕部分よりかは短いがそれなりに長い部位と分かれていたな。

 人間の腕の骨と似ている部分がたぶん腕に当たるんじゃないかな? ということは、曲がる箇所はたぶん手首だろうか。そして、そこから二つに分かれた部位は指になるのかなあ。なんか片方は指と思えないほど長いんだけど。


「手にすると羽がなくなるからまずい。でも、手を作ることが目的なのに手にしないのは意味がないし……」


 ぶつぶつ呟きながら考える。声に出すことで何か思いつくということがたまにあるからだが、どうにも解決策がすぐに思い浮かばない。


「完全に手にするからダメなんじゃない?」


 ……!

 そのクレアの言葉にぴんと来るものがあった。


「クレア、それってどういうことだ?」

「え? だからさ、よく分からないけど翼の先の方を全部手にしたから羽がなくなったんだよね。それなら、一部分だけとかできない?」


 なるほど、そのテがあったか。手羽先の短い指みたいなところを指にすればいいかな、いや、一本だけだと無理があるか。なら二本、いや、三本を指にすることが可能ならいけるんじゃなかろうか。


「クレア、今の発言は助かった、ありがとう」

「う、うまくいったら褒めてよ」


 ちょっと顔が赤くなっているあたりが可愛いな。まあ、面と向かって礼を言われるというのは意外と照れるものだけど。


「ルキア、次には期待してくれよ」

「うん!」


 ……ああ、思い出した。始祖鳥の想像図って、確か二本か三本、翼の途中に指みたいなのがあったっけ。鳥のように飛べたかどうかは微妙っぽいが、モンスターなら多少の無茶は通してくれることを期待するしかないな。そもそも、物理的に空を飛べるのがおかしい奴らばかりなわけだし。


「なんか指が三本できたけど……」


 三本のうち二本はハーピーの足の指、つまりは鳥の足の指のような外見で、人間の指よりも若干長くて指の先には鋭い爪がある。そしてもう一本は外見は似ているが長さは半分もない。おそらく親指だろうか。


「どうだ? 指が三本あれば物を掴んだりできるから便利になるはずだけど」

「あ、確かにそうかも」

「それより、飛べるかどうかが心配だ。滑空しかできなくなっていたら失敗ってことになるからな」


 俺的には失敗の可能性を覚悟していたが、ルキアは力強い羽ばたきで空を飛んでいた。


「前と変わらない感じで飛べるよ!」


 よし! なんとかうまくいった。久しぶりに苦戦したけど、なんとか要望通りの進化ができたな。

 指の方は、鋭い爪があると不便なことが多そうなので、普段は足の指の中に収納されていて、必要な時に爪を出すことができるようにした。我ながらいたれりつくせりだと思う。




 それからはトントン拍子で事が進んだ。

 ルキアに頼んで、ここのハーピーの長であるルキアの母との接触に成功したからだ。この岩場にルキアの母、ルキア、そして大人のハーピーたちを交えて交渉をした結果、全員にルキアにした進化と同じことをすることを条件に、グローパラスとの交流を持つことが決まった。

 ここのハーピーから何人かをグローパラスに派遣してもらうことも決まり、その中にはルキアも含まれていた。


 グローパラスでやってもらうことは簡単で、ふれあい広場に定期的に顔を出してもらうことと、あとは自由にグローパラスの園内を飛び回ってもらうことだ。ハーピーが飛んでいるということ自体が、人間にとっては珍しいことで注目を集めることになる。

 ルキアを見た時は気づかなったが、ハーピーは尾羽が個体によってかなり差異があるようだ。ルキアは十代半ばに見えたが、年齢は十歳でまだ子供らしい。子供のうちは尾羽が短くて、大人へとなるときに尾羽は急成長して長くなるとか。ふれあい広場では、そうした尾羽の美しさを鑑賞できることができる。


 また、娼館に興味を覚えたハーピーもいて、産卵期を迎えたら娼館に勤めてみたいと言い出すハーピーもいた。産卵期を迎えた全員が娼館に来たらメーレン村の男たちに恨まれそうだが、一部なら問題はないだろう。


 そして、一番の目玉はハーピーの無精卵による卵料理だ。二、三日に一回産むようで、園内では大体一日に三個の卵が確保できる。一個の卵から十人前ぐらいの卵料理が作れるので、昼と夜でそれぞれ十五人限定や二十人限定といった卵料理を出せるようになった。

 ハーピーの卵は市場に出せばそれなりの値段で売れるそうだが、園内では他の料理とほぼ変わらない値段で出す。味がいいらしく大人気で、ハーピーの卵料理を食べに来る客も出そうな勢いだ。

 こうしてハーピーは、グローパラスでなくてはならない存在になった。

 手羽先の唐揚げって日本で生まれた料理なんですね。外国にもありそうだと思いましたが、軽く調べてみたらそうでもなさそうで。そして、手羽先レシピを試してみた外国人の評判がいいようで。

 ということは、手羽先料理を広めれば異世界で一儲けできるかも?

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