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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその2 一章 スカウトの日々
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039 急募:モンスター娘

「新しいモンスターを早急に雇う必要がある」


 俺は屋敷の会議室でそう切り出した。

 園長の俺のほか、副園長のクレアとティナ、ハイ・スライムのソニア、ギルタブルルのムニラ、ケンタウロスのリースが頭脳担当として出席している。スライムのニュン、バブル・スライムのネルとニル、サンドワームのサンディも暇なのか同じ部屋でたむろっている。

 なお、ケンタウロスのリースは、近くのケンタウロス集落の若手のホープということで、社会勉強も兼ねてグローパラスに常勤している。外見は、いわゆるケンタウロスそのもので特筆すべきことはあまりない。金髪のポニーテールをたなびかせてグラウンドを走る姿は凛々しいが、その凛々しさとは相反する人形のような小さく丸い顔が印象的だ。


「私たちだけじゃ不満なのか?」


 不満気な声をあげるネル。これまでコミュニケーションに飢えていたせいか、ふれあい広場で積極的に交流をしようとしているが、口下手でうまく会話が続かないらしい。その初々しさが人気ということだが、本人はそのことを知らない。

 なお、ふれあい広場にいるときは、当然毒を体の内部に移動させている。

 また、ふれあい広場は家族連れを想定した非常に健全な空間なので、外見年齢が普通のスライムよりも高いバブルスライムであるネルとニルには水着を着用させている。スライムにも着用させようか迷ったが、なるべく自然の姿のままで交流することが望ましいので、特に問題がない限りは今のままでいいだろう。


「それなりにうまく回っているけど、やっぱり圧倒的にモンスターの種類が少ないんだよ。客と直接触れ合う可能性のあるのが十二、三種類ぐらいだからね。少なくともその倍はほしいかな」

「倍でも足りないと思うけど」


 クレアが厳しいことを言うが、確かにそうだ。本音を言えば、三倍はほしい。


「あと、外見が人間に近いモンスターが多いのも気になるかな。この場にいるのはいかにもモンスターって感じの外見をしているけどさ」


 自然界に存在する動物が元になっているようなモンスター娘たちは、基本的に人間に近い外観をしている。ヘテロポーダは下半身がクモで特徴的だが、園内では例外的な存在だ。


「そういうわけで、俺とクレアは明日から北部の山岳地帯へ出発し、ハーピーと交渉しようと思う。十日以上留守することになるが、その間は副園長のティナを中心に運営することになる。ソニア、ムニラ、リースはティナの補佐を頼む」


 すでにクレアとティナには了承を取っていたので、特に問題なく事は進んだ。大臣にも園を離れる許可は取ってあるし、モンスター娘との交流を広げることは当初の目的にも合致している。

 本当はティナも一緒に行きたかったようだが、人間の代表者が一人いないとまずい。現状人間で任せられるのはクレアとティナしかいないし、モンスター図鑑のことを考えるとクレアを優先することにどうしてもなる。

 もう少し園の運営がうまく回るようになれば、副園長やその代理を任せられるような人間を入れなければならないかもしれない。いや、本音を言えば、モンスター娘に副園長を任せられるようになればそれが一番だが。

 そのことについてはモンスター娘の種類が増えてから考えることにしよう。




 まず、徒歩で五日、道に沿って北上してメーレンという村に入る。相変わらず、徒歩で一日ほどの距離ごとに宿場村が設置されているのが便利だ。

 馬で移動すればもう少し日数を縮められるが、馬の世話を考えると結果的に不便さが増してしまう。ケンタウロスが協力を申し出てくれたが、園内の方に力を入れてくれた方が助かるので、結局は徒歩が一番となる。

 この村の近辺では、ハーピーによる若い男の拉致事件が年に数回起きている。とはいえ、短くて一週間、長くても一月以内には解放され、その際に土産として渡される無精卵を全部売ればそれなりの値段になるため、村人からはある程度容認されているようだ。もっとも、村の女としては面白くないようだが。


「この村の男のほとんどは、一度はハーピーにさらわれているんじゃないか」

「年頃になると、ハーピーの集落がある岩場の近くに通ったもんだ」

「そうそう。俺をさらってくれー、みたいにな」

「ハーピーが筆下ろしの相手ってやつも多いだろ」

「ジョニーのやつは、結婚してからもハーピーにさらわれようと岩場に通っていたのが奥さんにバレて半殺しにされたなあ」

「あれはジョニーのやつが悪い」

「それにしても、随分とハーピーについて聞くんだな。ははあ、お前さんもハーピーにさらわれたいクチか。分かる、分かるぞ!」

「あんな可愛い子を連れてなんたる贅沢な!」


 色々無駄な情報を入手したが、ハーピーの集落の大まかな場所を知ることができた。なんかあることないこと噂されそうだし、さっさと行くか。


「リューイチ、実はハーピー目当て?」


 クレアがジト目で俺に問いかける。

 違う、違うんだ。確かにハーピーには会いたい。モンスター娘の中でもメジャーなやつだからこの目で見たいと思うのは自然なことだ。


 そんなクレアの無言の視線に耐えながら、メーレン村を出て山を目指す。

 ゲームだと、岩肌が露出した険しい山道を歩いているところをハーピーに襲われるというイメージがなんとなくあった。

 だが、今俺たちが歩いているところは緑が豊かな山だ。平地の森を歩いて行くと山道へ続いている道があり、あとはひたすらその山道を登っていく。高い樹木に囲まれて薄暗い山道は、鳥や獣の鳴き声が絶えず響いている。


「これは、奥に行けば色々なモンスターがいそうだな」

「目的を見失わないように」

「……はい」


 後ろ髪引かれる思いだが、まずはハーピーだな。村人の話だと、ある程度進むと生い茂った木々が少なくなって、大きめの岩が転がっている開けた場所に出るって言ってたな。


「ねえ、あれじゃないかな」


 クレアが指をさした方を見ると、確かに開けた場所があるな。まだ先を見ると再び木々が生い茂っているけど。

 とりあえず、そこで休憩を取ることにする。小さな岩もあるから、腰掛けて休むのにちょうどいい。


「ふう、山道は歩き慣れていないからちょっときついかも」

「ここでハーピーを待つのがいいかもしれないな」


 村人の話だと、ハーピーがこの見晴らしのいい場所で食料となる小動物を狩るらしい。

 気長に待つかと思って大きな岩に寝そべったら、上空から一羽の大きな鳥が舞い降りてきた。

 いや、鳥じゃない。

 太ももから上半身は十代半ばの少女で、膝から下は鳥の脚。両腕は腕のかわりに茶色の翼が生えていて、体の大きさは小柄なクレアよりも若干小さい。髪の毛は翼と同じ茶色のボブカットで、頭の頂点には三、四本まとまってアホ毛のように髪の毛が跳ねている。

 全裸ではなく、布はぼろいがワンピースのような薄い衣服を纏っている。衣服が薄いから体のラインがよく分かるな。うーん、胸はあまりない。

 これは間違いない。


「ハーピーか」

「あ、人間の男! でも、今は産卵期の仲間がいないんだよねえ」


 産卵期? なるほど、定期的にさらうというのは、産卵期になったハーピーがいるときってことかな。

 とりあえず、俺とクレアはハーピーに名乗って話をすることにした。そのハーピーは運がいいことにここのハーピーの長の娘で、ルキアというらしい。


「ルキアの母上と話がしたい」

「えー、でも、人間はずるいからダマされないようにしなさいって言われてるし、どうしよう」


 その言葉は正しいからぐうの音も出ないな。とはいえ、簡単にあきらめるわけにはいかない。ならば……。


「俺は特殊な魔法が使えるんだ。モンスターの体のつくりや性質を変えることができる。何か困っていることがあったら、それを改善できるかもしれない。気に入らなかったら元に戻せるからその点は安心してくれ」


 ……毎回思うが、我ながら胡散臭いよなあ。怪しい宗教の勧誘ってこんな感じだったりするような気がする。


「え? 本当!? すごい!」


 そして、疑うことを知らないモンスター娘が多すぎる。いや、人間がだましだまされることに慣れすぎているだけか?


「ねえねえ、あたしたちってさ、脚で物を掴むのは得意なんだけど、手はご覧のとおり翼だからないんだよね」


 まあ、腕が翼に進化したのが鳥類だから、それは仕方ない。確か恐竜から進化したとか今は言われているんだっけ? 映画で有名になったラプトルにも風切羽がついていたとか。飛行能力はなかったみたいだけど。


「生活に不便を感じることはあまりないんだけどさ、服は着づらいし、人間が書いた本ってやつを読むのも大変なんだよね」

「え? 人間の言葉を読めるの?」

「母様は博識だからな。あたしだけじゃなくて、結構多くの仲間が勉強して覚えたよ。暇な時間が多いし」


 読み書きができるということは正直驚いた。ハーピーが雁首並べて文字の勉強をしている姿を想像したらなんかシュールだな。


「それでさ、人間の手みたいなのがほしいかも。物を器用に掴むことができれば便利だと思うんだ」


 なるほどねえ。

 モンスター娘のハーピーの中でも、この世界のハーピーは手が完全に翼になっているタイプだから確かに不便だろうな。翼が背中から生えていて、腕は普通に人間というタイプのハーピーだったら苦労はなかっただろうけど。

 まあ、そうなると話は簡単だ。そのタイプにしてしまえばいい。


「お安いご用だ。ちょっと体が熱くなると思うが、すぐに変化は終わるから我慢してくれよ」

「わ!? 本当だ! 熱くなってきた!!」


 そして、ルキアは俺の想定通りの姿になった。

 先ほどと同じような大きな翼は背中から生え、腕は完全に人間のそれとなっている。変化の過程で服が消し飛んでしまったが、まあそれはご愛嬌。決して俺の意思ではない。

 羞恥心はあまりないようだから問題はないだろう。それを気にするよりも、自分の腕を眺めて目を輝かせている。


「うわ、すごい!」

「どうよ」

「ちょっと皆に見せてくる!」

「あ、母上を呼んでくれると嬉しいんだけど」

「任せてよ……って、あれ?」


 急にルキアが焦り始めた。「あれ? あれ?」とうろたえている。


「どうした?」

「えっとさ、背中の翼動かせないんだけど」

「え?」

「あ、ちょっと待って、変な感じだけど動かせはするかも」


 背中の翼がゆっくりと動き始めたかと思うと、やがてばっさばっさと大きな鳥の羽ばたきのように音を立て始めた。


「お、いい感じじゃん」

「でも、動いているだけよね。なんか飛び立てるような感じじゃないんだけど」


 クレアの観察は正しく、ただ翼が動いているだけという感じだ。

 それからルキアは「そいや!」「ふりゃあ!」と叫びながら何度もジャンプしたが、力強い羽ばたきとは裏腹に、飛ぶどころか体が浮くことすらなかった。


「あれえ?」


 そもそも、ルキアがいくら小さいとはいっても、それでも体格的に鳥のそれではない。骨の中が空洞かどうかは知らないけど、そもそもハーピーは物理的に飛ぶことができないような気がする。大抵のモンスターはそうらしいし。昆虫とか人間大になったら自分の体重を支えきれないって話を聞いたことがある。

 物理法則が地球と異世界では異なる可能性があるが、そういった根源的なものが違ったらそもそも異世界が地球の姿に似ていることもなくなる気がする。おそらく生物の形もかなり異質になるだろう。そう考えると、基本的な物理法則は地球に準じると考えた方が自然だ。

 それでもモンスターが存在して、たとえばハーピーが空を飛べるのは、もはや魔法的な何かで物理法則を無視しているとしか思えない。そして、おそらく腕が翼になっていることそのものに意味があるのだろう。


「ひとまず元に戻す。たぶん、腕と翼を分離してもうまくいかない」

「残念……」


 元に戻った翼を見てちょっとしょんぼりしている。

 うーむ、どうすればうまくいくかなあ。

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