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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその1 一章 本物のモンスター娘
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004 力を合わせよう

 進化魔法がどの程度融通が利くか見極めるために、メタル化をもう少し頑張ってみた。

 金属の硬さ、重さ、身体に占める割合、流動性などなど、どのぐらい自由に設定できるのかを色々試してみた。

 ニュンだけでなく、他の普通のスライムたちにも協力してもらった。

 彼女たちも、ニュンと同じ悩みを抱えているようだったので渡りに船といったところか。


 その結果、彼女たちにはメタル化は文字通り荷が重いということが分かった。身体能力がメタル化という変化についていけないようだ。

 ならば身体能力も同時に向上させればと思ったのだが、メタル化だけで精一杯のようなのだ。

 試しに、身体能力の向上を試してみると、それだけだとうまくいく。

 たとえば、素早さなら通常の三倍ぐらいには引き上げられた。それによって敵からすぐ逃げられることが可能となるわけだが、身のこなしに頭の処理がついていけないらしく、転んだりぶつかったりを繰り返すだけで彼女たちには不評だった。慣れたら十分武器になるはずなのに、もったいない。


 メタル化と身体能力向上を共存できれば楽なのだが、それができないのは単に俺の力不足なのか、それともスライムの限界なのか。

 同時に進化させるのではなく、一度メタル化した上で、さらにメタル化によって増えた自重を支える筋力、いや、ゼリー力なのかスライム力なのかそれは置いておいて、改めて進化させればいいかもと考えてみたが、それもできなかった。


 これがゲームだったらなあ。

 たとえば、進化ポイント、略してEPというのがあったとして、現在のEPが百、メタル化の基本値が八十で、硬度を増すとさらに○○ポイント必要、体積を減らすと○○ポイント減らせる、みたいな方式だったら分かりやすいのになあ。

 EPが設定されているのが俺なら俺が原因で、設定されているのがスライムならスライムが原因と一目瞭然だし、ポイント計算をしっかりすればより効率的に進化させられる。

 なんて考えても無意味か。実際そうではないわけで。

 普通のスライムだけではなく、ここにいるというバブルスライムや、ハイ・スライムの協力を得られたら進化能力の把握が進みそうだが、どちらも俺を警戒しているのか姿を見せてくれない。

 いや、正確には普通のスライムのものではない視線をずっと感じてはいる。

 ただ、どこからその視線を感じているのかよく分からない。害はないようなので気にしないことにする。


 さて、これからどうするか。

 幸い、連続して進化能力を使っているが、特に疲労感は感じない。魔力なのか神力なのか分からないが、そういったものの容量が大きいのだろうか。

 それなら、まだいくつか試してみよう。

 とはいえ、メタル化をあきらめざるをえない以上、別の方向性の進化を考えなければいけない。

 メタルがダメで強さを感じるって何がいいかな。


 そもそも、スライムってこう弱いものか?

 日本の場合国民的RPGの影響が大きくてスライム=最初の雑魚モンスターというイメージが強いけど、スライムってTRPGとかだとわりとやっかいだよな。殴ったり切ったりとかは効果が少ないし、体液が酸性で武器や防具が腐食するし、手に負えないほど巨大なやつがいたり、ダンジョン歩いていて突然頭上から降ってきたら何もできないままやられるかもしれないし。

 あれ? こいつら強いよね?

 なんでニュンたちは自分が弱いって言ってるんだろう。

 少なくとも、あのぷるるんな体なら、物理的な攻撃はある程度防げるだろ。


「今日はいい天気だねー、あはははははは!」

「そうだねー、ここは森の中だからよく分からないけどー!」

「あ、そっか! あははははは!」


 能天気なスライムたちの声が聞こえてくる。

 ……頭が残念すぎるのが根本的にいけないのかもしれない。戦闘自体好きではないというか戦闘そのものを怖がっている感じだし。

 ならば、攻撃性を強化すれば……いやいや、あの無邪気な姿が見られなくなるのは世界的な損失だ。世界が許しても俺が許さん。

 それなら、襲われにくくするという発想もありだな。

 強そうにする……どうやって? 単純に考えれば大きくすれば……。

 

 あ!!


 そうだよ、大きいやつがいたじゃないか。キングスライム。複数のスライムが合体して巨大になるスライムの切り札的存在。単に大きいだけじゃない。実際に強くなる。


「なあ、お前たちに王様的存在はいないのか? キングスライムとか」

「王様? 女王様ならいるよ。クイーンスライム」


 なるほど、女しかいないなら必然的にクイーンか。


「どんなスライムなんだ?」

「わたしたちより大きくて、強くて、頭がいいスライムだよ! 会ったことないけど」


 ダメだ、ニュンの説明じゃ知りたいことがまったく分からない。

 他のスライムたちに話を聞いても同じ答えだ。会ったこともないのに存在は知っているのか。どうやって知ったのか情報伝達の経路が気になる。


「スライムたちが何人も合体してクイーンになるのか?」

「わたしたち、合体なんてできないよ。女王様は強いから女王様なんだよ」


 よく分からないが、合体はしないらしい、残念。

 でも、合体してパワーアップという進化はありかもしれない。

 複数の個体が集まって、ひとつの個体に……って、あれか、群体ってやつだな。高校のとき生物で勉強した記憶がある。ボルボックスだっけ? 確か単細胞生物と多細胞生物の中間とかなんとか。

 ここでスライムが単細胞生物なのか多細胞生物なのかという疑問が浮かんだ。さすがに多細胞生物だろう、きっと。

 で、群体ってやつが問題だ。

 記憶は曖昧だけど、確かユードリナってのもいたよな。あれはボルボックスと微妙に違うんだったはず。ユードリナはどの細胞も同じ役割しか持ってないけど、ボルボックスは細胞が役割分担しているとかだったな。


 たぶん、ボルボックスみたいな群体にすると、合体したあとに自分の意思がなくなるスライムが出てきそうな気がする。

 合体と合体解除が自由にできるなら問題ないと思うけど、それってスライムたち的にどうなんだろ。

 ものは試しにやってみるか?


「それでは整列!」

『は~い!!』


 一列に並んだスライムたちが元気に返事をする。

 とりあえず、元ネタと同じ八人にしてみた。この子たちをひとつの大きなスライムへとすることができれば成功のはず……。

 ニュンを中心に合体のイメージを浮かべる。

 一、二、三、……と少しずつ大きくなるイメージはつかめてきた。

 でも、ダメだ。四人以上のイメージを構築できない。この感覚は、メタル化の試行錯誤で何度も感じたものだ。

 不可能な進化。

 俺の力、もしくはスライムの限界で、四人以上による合体は不可能ということだろうか。

 なら、三人で実行してみよう。


「全員は無理みたいだ。とりあえず、ニュンと両脇の子で合体するぞ」

『は~い!!』

『え~!?』


 合体に選ばれた三人以外からは不満の声があがったが、現状やれる範囲でやらねば。

 さて、大きくなあれ。

 そんな願いを込めて進化を発動する。対象となった三人のスライムたちが光り始め、三つのシルエットはやがて一つに溶け合っていく。


「やったか!?」


 思わず俺は興奮して叫んでしまった。

 このいかにもな台詞のせいでケチがついたとは思いたくないが、そこに出現したのは想定したものとは違った。

 俺の想定では、人間の大人ぐらいなら四、五人まとめて体にとりこめるぐらいの大きなスライムが一人誕生するはずだった。元の三人の体積からはありえないなんてツッコミはなしだ。

 実際、大きさに関しては想定の半分ぐらいはあった。悪くない。

 しかし、その大きさは、モンスター娘ではなくモンスターとしてのスライム。つまり、人間の姿を模していない半透明の青色のゼリーのようなものだ。

 そして、そこからニュンたち三人の太ももから上の部分が生えている。

 人間の大人を二、三人のみこめそうな大きさの不定形のスライムに、ニュンたち三人が太ももまで沈んでいるといった感じだ。


「あれえ?」


 おかしいな。合体には違いないんだろうけど、俺の知っている合体とは違う。


「なあ、そこから体を全部引き抜けるか?」


 田植えの稲みたいな感じだったので、引っこ抜けそうな気がした。

 その場合、不定形のスライム部分は一体何だということになりそうだが……。


『抜けなーい! わたしたちの体の一部みたい!』


 あー……なるほど、合体は成功といえば成功だったのか。

 おそらくだけど、三人の体がひっつきすぎないような余裕を持たせるために、あれだけ大きな不定形のスライム部分ができあがったのかな。

 でも、足がなくなったわけだよなあ、動けるのだろうか。


『動けるよー! わたしたち、動ける!』


 おお、不定形スライム部分がうねうねとうねりながら移動している。

 結構速いな。

 いや、確実に速い。遅そうなくせに、百メートルを十二、三秒ぐらいで走りそうだ。少なくとも、百メートル走十五秒台とクラスの平均タイムよりも遅かった俺よりは速い。

 あっという間に目の前に木々が迫る。左右によけないといけないな。

 と思ったところで、ニュンたちがぴたっと止まってしまった。


「あれ? どうした?」


 すると、三人は言い争いを始めた。


「右によければいいって!」

「いや、左だって!」

「それより走ったところを戻ればいいと思う!」


 こ、これは……。


「おい、ひょっとして、三人が別々に体を動かしているのか?」

『そうだよ!』


 その後聞き取りをしたところ、三人の太ももから上の部分はそのスライム自身にしか動かせないが、不定形スライム部分は共有している上に主導権が誰かにあるというわけでもなく、別々の方向へ動こうとするとうまく動かなくなるようだ。

 誰か一人のみが動かすと、移動速度はかなり落ちることも判明した。さっきの速さは、三人が協力しあったからこそできたようだ。

 これでは、ピンチのときに一人でもパニックになったらそれでおしまいだ。


「……これもダメだな」

『残念~』


 うーん、うまくいかないもんだなあ。

 そろそろバシッと決めたいところだが、どうしたものか。

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