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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
三章 浄化プロジェクト
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031 旅は道連れ

「ごはんー、ごはんー」


 小型化したサンドワームが俺のリュックをぽんぽんと叩きながら、俺を上目遣いで何かを訴えかけるかのように見つめてくる。リュックに保存食があることは匂いで分かるのかな。

 とりあえず、元々はそういう目的で余分に持ってきているわけだし、肉と魚の燻製をいくつか並べる。


「おおお……」


 サンドワームは目を輝かせると、一心不乱に食べ始めた。とはいえ、体が小さくなると共に口も小さくなっているので、少しずつかじりながら食べている。


「ところで、リューイチ」

「お聞きしたいことがあるんですが」


 クレアとティナが俺に何か話があるらしい。いや、何を言いたいかは分かる。


「いやあ、サンドワームも小さくなれば可愛いもんだな」

「ごまかすな」


 クレアが軽くチョップしてきた。まあ、さすがにごまかせないよな……。

 ただ、何を話すべきか難しい。全部話したところでどこまで信じてもらえるか。いや、この二人のことだから嘘だと疑いはしないだろうけど、話の内容を理解するのは難しいだろう。

 俺が異世界から来たという話をすれば色々と面倒なことになりそうな気はする。特にクレアは好奇心が旺盛だ。いつかは話すときがくるかもしれないが、今は面倒なことになりそうなものは隠しておいた方がいいだろう。

 色々と考えた結果、俺はリディアス神の啓示を受けて進化魔法という力を授かったということにした。すると、二人に予想外の方向で驚かれた。リディアス神は古代種、人間、さらにはエルフやドワーフなどの亜人を創造した後、この世界に一切の干渉を行っていないらしい。働けよ、リディアス。

 だから、リディアス神への信仰は人間にあるものの、リディアス神の神聖魔法というものは存在しない。リディアス神に仕える司祭や神官は、同時に今いる神々の主神であるアークに仕えることで神聖魔法を使えるようにしているとか。


「リディアス神が直接人間に語りかけた伝承が残っているのは、人間がこの世に創造されてからごく短い期間だけです。本当なら信じられない話ですが……」

「モンスターの体を作り変えるなんて、それこそ神の力に近いものでないと考えられないわ。そして、その力を他人に与えることができるなんて神以外にできるとは思えない。神が自身の名前を騙るとも思えないし……」


 とりあえず、俺の力はリディアス神の使える力に制限を加えたものという推測がされた。不可能な進化がこれまで多くあったとはいえ、可能ならば即座にイメージを現実化する力。これは神聖魔法の枠を超え、古代種の力そのものである古代種魔法しかありえないらしい。


「このことが公になったら大変よ。特に、リディアス神の神殿に知られたら、リューイチ、あなた生き神様にされかねないわね」

「それは嫌だな……」

「リューイチさんのその力のことは私たち三人の秘密にした方がいいですね。なんかそういう秘密の共有っていいですよね」


 ティナがなんか夢見がちな表情で言っている。秘密の共有というのは何か心をくすぐるものがあるけどね。


「とりあえず、王都に戻って落ち着いたら、今まで出会ったモンスターや、その、進化魔法とやらをどんな風に使ったか教えなさいよね」

「そのうちな」




 話がひと段落したところで、サンドワームが食事を終えた。


「けぷ。おなか一杯になったのはものすごく久しぶりかもー」


 満面の笑みを浮かべるサンドワーム。これは可愛い。クレアとティナもそんなサンドワームを微笑ましそうに眺めている。

 だが、いつまでもこの場にとどまっているわけにはいかない。


「さて、遺跡を目指すか」

「うう……、サンドワームちゃんとここでお別れですか……」

「あんなに怖かったのが、ちっちゃくなったらこんなに可愛いなんて反則よね」


 気になる点はある。

 小さくなったことで飢えを満たすことは容易になっただろう。しかし、体が小さくなったということは、それだけ外敵から襲われやすくなったといえる。前の大きさなら、おそらくこの周辺では敵なしというか食物連鎖の頂点に君臨していたはずだが、この大きさだと危ないかもしれない。

 もっとも、サンドワームは砂の中を移動するモンスターだから、襲われること自体考えに入れなくてもいいのかもしれない。


「なあ、元の大きさに戻りたいなら言ってくれ」

「え? こんなに可愛いのに元に戻しちゃうんですか!?」

「そうよ! このままでいいじゃない!」

「いや、二人には聞いてないから」


 俺がサンドワームなら、やっぱり大きい方が安心感があると思うんだよな。


「おなかがすくのはもう嫌! 今のままがいいー」


 なるほど、それはそうかもしれない。小さくなった利点を重視するわけだな。これは緊急避難的だったとはいえ、進化させたことは結果的によかったな。

 うん、これで安心して先に進める。

 そして、遺跡に向かって歩き出した瞬間、背中に重みを感じた。


「おい……」

「しゅっぱーつ!」


 サンドワームが俺の背中に飛び乗ってきた。小さくなったとはいえ、全長は俺の身長の倍近くあるから、余った胴体の部分は砂地につけている形だ。重心が後ろにいき、バランスが悪いことこの上ない。


「お前とはここでお別れなの!」

「やー!」


 俺に懐いたのか、それとも食事にありつきやすいかもといった打算があるのか、サンドワームはどうしても離れようとしなかった。


「一緒に行きたいー」


 あろうことか、サンドワームはクレアとティナの服をつまみながら訴えかける。当然のことながら、二人はサンドワームの味方をすることになる。いかん、このサンドワーム、なかなかのやり手だ。

 俺も粘ったが、結局断りきれるはずもなく、サンドワームを連れていくことになった。


「そうなると、名前が必要だな。なあ、お前の名前は?」

「ないー」


 集団生活をしているわけでもなさそうだから、個を判別する名前は必要なかったりするのかな?


「リューイチが決めてー」


 これはまた責任重大な仕事をおしつけられた。

 うーん、こういうのは変に凝らない方がいいんだよな。サンドワーム……サンとかはどうだろうか。いや、サンだけだとちょっと寂しいかな。サンドを崩して、そうだなサンディ。うん、女の子っぽい感じになったかな。


「サンディなんてどうだ?」

「サンディ……サンディ! 私、サンディ!」


 サンドワーム改めサンディは、太陽のような笑みを浮かべてはしゃいでいた。クレアとティナも気に入ったようだ。


「問題は移動だな。芋虫部分が長いから、普通に歩くのは大変そうだ」


 元々地上を歩くことを考えていないわけだからなあ。

 結局、リュックの中に芋虫部分を収納することになった。体がやわらかいので、リュックの中におさまるように体を折りたたむのは難しくないようだ。

 結果として、俺が背負うリュックから、上半身の人間の子供の部分(全裸)だけが出ている形だ。

 ……なんだろう、色々とまずいような気がする。現に、クレアとティナがこちらを見る目つきが「うわぁ……」って感じになっている。


「ねえ、ティナ、街中で今のリューイチを見かけたらどうする?」

「衛兵に連絡します」

「私は問答無用で火球をぶつけるかな」

「それはダメ! 子供に当たったらどうするの!」


 なんか好き勝手言っているなあ。一方で当のサンディは楽ができることもあってなんかテンションが上がっている。


「リューイチ、しゅっぱーつ!」

「はいはい」


 こうしてなし崩し的に連れが増えた。

 そこに、ギルタブルルのムニラが再度登場する。


「上から見てたけどさ、あんた、すごいねえ」

「繁殖以外で困っていることがあったら相談に乗ってやってもいいぞ」

「繁殖に付き合ってくれるだけでいいのに……。でもまあ、サンドワームがいつもおなかをすかせているのは見ていてかわいそうだったから、あんたには感謝していいかもね」


 ムニラはサンディの頭を撫でながらそんなことを言った。意外にいいやつなのかもしれない。


「そうだ、俺たちはスカラベに用事があるんだ。遺跡の近くで見かけたという話を聞いてここまで来たわけだが、スカラベが住んでいる場所を知っていれば教えてほしいんだけど」

「お安い御用よ。私に今聞いてみて正解だったね。スカラベは数が少ないから、適当に探していたら大変だったかもね」


 うわ、そうだったのか、危ないところだった。


「糞が必要とかで、ガゼルがたくさん生息している場所の近くに居座るのよね。ここからだとちょっと歩くからね」




 そして、ムニラに案内されて四、五時間ほど歩いたところにある遺跡に俺たちはたどり着いた。


「私は帰るからね。人間の男を今度紹介してね」

「遺跡のどこらへんにスカラベがいるか教えてほしいんだけど」

「ここで待ってたらすぐに会えるわよ。忙しく動き回っているみたいだから」


 そういうことなら、遺跡の入口近くで待つことにするか。幸い、日差しを避けられるのに充分なスペースがある。


「あ、いたよー」


 え?

 サンディが俺の首をくいっと動かすと、俺の目にそいつが飛び込んできた。

 そこには、褐色肌の少女がいた。髪の色は黒に近い緑色で、背中には髪の色と同じ色の甲虫の硬い前羽とやわらかい後ろ羽がかぶさるようについていた。さらに、これもまた髪の色と同じ色の部分鎧みたいなものを、胸や肘から手、腰、膝から足へと纏っている。

 あれがスカラベか。

 さて、ここからは彼女たちとの交渉だな。

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