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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
三章 浄化プロジェクト
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030 砂漠の危険なモンスター

 さっきのモンスター娘の去り際の台詞が気になる。

 「警告はしたからね」という言い方は、「警告をしたわけだから何が起こっても自己責任だからね」と解釈するのが自然だと思う。「番人として仕事はしたから、いざという時には私がサボっていなかったと証言してよね」という解釈はさすがに無理があるだろうし。


「二人とも、よく警戒してくれ」


 俺の声が真剣だったためか、二人も真剣な表情で頷く。


「私の魔法では空中の様子が分からないので、リューイチさんは空を監視していただくと助かります」

「分かった」


 周囲を警戒しながら遺跡群を目指す。全体的に平坦で遠くまで見渡せるのだが、岩が所々に転がっていて、死角となる場所がいくつかあるのが精神衛生上よろしくない。もっとも、そういう場所はティナの魔法がフォローしてくれるから安心ではあるが。


「リューイチ、心配しすぎじゃない?」

「嫌な予感がするんだ。こればかりは、勘としか言いようがないけど」


 グラッ……

 ん? 今、地面が揺れたような……。


「こ、これは!?」


 地面が揺れたような感覚を覚えた瞬間、ティナが動揺を隠せない声で叫んだ。


「どうした?」

「急に、地下の方で何か巨大なものが動き始めました」


 ……!

 それが何かピンと来た瞬間、今度こそはっきりと地面が揺れているのを感じる。ただでさえ歩きづらい砂地でこれは、もはやうまく歩けないほどだ。

 だが、そんなことを考えている余裕は俺たちにはない。俺は急いで周囲に視線を走らせる。……よし、あそこだ。


「ちょ、ちょっと、何なのよ!?」

「何か巨大な長いものが地下からすごい速度で上がってきます!?」


 そのティナの台詞が終わらないうちに、俺は二人を両脇に抱えて思い切りジャンプした。今の自分が怪力でよかった。


「クレア! 後ろの地面に向かって炎の魔法! 派手に! 急いで!」

「え!? う、うん!!」


 ジャンプが終わり地面に足をつけたら、すぐさま前に向けて大きくジャンプをする。


「えーい!」


 クレアは俺の急な注文にもかかわらず、火球を今しがたジャンプしてきた方向へ向けて放った。それは地面に着弾し、小さな爆発をする。


 その瞬間!

 火球が爆発したところの砂地が陥没したかと思うと、そこから巨大な長虫が飛び出してきた。いや、ただの長虫ではない。胴の太さは直径三メートルほどの円で、長さは見えているだけで十メートルはある。ただし、頭に当たる部分は巨大な人間の女性の上半身だ。腕も二本ついている。

 これは、村人が恐れているモンスターのサンドワームってやつだな……!

 やばい、ものすごくやばい。なぜか分からないが、あのサンドワームは理性を失っているのかもしれない。目は焦点がさだまらず、「グォォォォォ!」という叫び声と思われるものを放っている。

 俺たちは離れた場所の岩に飛び移っている。サンドワームの視力は弱いらしいのでおそらく気づかれることはないだろう。

 サンドワームは少しの間キョロキョロと周囲を見回すと、あきらめたのか砂の中へと潜って姿を消した。このままどこかへ行ってくれるといいんだが。


「ティナ、どうだ?」

「ダメです、今潜ったところに潜んでいます」


 くそ、やはり、そうか。


「リューイチ、あれってサンドワームだよね」

「ああ、間違いないな。おそらく、獲物が上を通るのを待っていたんだな。視覚ではなくて、地面を歩く振動音を聞き取って獲物を捕食するって話だ」


 だから、大きくジャンプすることで、位置をなるべく特定されないようにした。そして、爆発する火球をデコイにしたわけだ。

 今足場にしている岩は、なんとか三人で立っていられるだけのスペースはあるものの、三人で密着しないと滑り落ちる危険性がある程度の広さだ。クレアとティナは多少ためらいながらも、俺にしがみついている。

 ……ティナの胸が幸せな感触を俺の腕に……。

 って、そんなことを考えている余裕はない。泣いているクレアさんもいるんですよ!


「現状がかなりやばいのは分かるよな」

「はい」

「残念ながら」


 ここから引き返すのも遺跡群を目指すのも、サンドワームに気づかれずに進むのは不可能だろう。二人を抱えて連続ジャンプで進むのはさすがに厳しい。途中で休憩を挟まないと無理だ。そして、そのタイミングで襲われたらやばい。


「二人とも、杖を使って飛行魔法もどきができるようなことを言っていたけど、それで脱出はできるか? あ、俺のことは考えなくていい。自分の体重を支えることだけ考えてくれ」

「無理。あれは長時間使えないから、途中で魔力が尽きて落下するわね」

「私も無理です」


 他の何か手段はないのだろうか。

 必死に考えていたら、空から先ほどの遺跡の番人を名乗っていたモンスター娘が舞い降りてきた。確かムニラって名前だっけ。


「ほら、警告したのに、言わんこっちゃない。そろそろあの子がおなかをすかせる頃だと思っていたのよ」


 ふふーんといった感じの笑みを浮かべて俺を見る。


「あんなのがいるなら先に教えてくれよ」

「そんなことをしたらあの子に悪いじゃない。砂漠はエサが少ないから、あの子はほとんど寝て過ごしているのよ」


 やっぱり俺たちはサンドワームのエサ候補か。この世界のモンスターは、繁殖以外で人間を襲うことをほとんどしないらしい。だが、そんなモンスターが人間を食料とみなして襲ってくるほど、砂漠は苛酷な環境ということか。


「それにしても、よくあの子の最初の攻撃をかわせたね。私としては、ありがたいけど」

「ん? ありがたいってどういうことだ?」

「私なら、あなたたち三人を一人ずつ安全地帯まで運ぶことができるわ。最初の攻撃が終わるまで待ったから、あの子への私的な義理は果たしたしね」


 俺たちを運べるだけの力はあるということか。それだけ聞けば願ってもない話なのだろうが……。


「で、条件は?」

「話が早いね。じゃあこっちも単刀直入に言うけど、あんたは私の巣に来て、そうだね、半年ぐらいは一緒に暮らしなさい」


 対象は俺。まあ、そんな感じの取引だろうなとは思った。ここまで足を運ぶ人間はそうはいないだろうからな。村人の話だと、トレジャーハンター的なものはいるようだが、遺跡の数も多いらしいから、そう滅多なことでは人間を見つけることができないのだろう。

 ……くそ、どうする。俺だけならともかく、クレアとティナがいるのに危ないことはできない。二人の安全を確保できるなら……。


「何勝手なこと言ってるの、ギルタブルルのムニラ」

「そうです! そんな横暴なことは許されません!」


 俺が考え込むと、クレアとティナが猛然とムニラに食ってかかった。


「ちょっと、私はこの男と話してるの! 私は滅多に男に出会えないんだから、結構必死なのよ!」

「リューイチは今人間とモンスターのために大きなことをやろうとしているの! 時間を無駄にしている余裕なんてないのよ!」

「子供を作りたいという気持ちは分かりますが、今はあきらめてください」


 なんか俺を放置して言い合いを始めた。

 最終的に、疲れ果てたムニラは「また来る、よく考えた方がいいわよ」と言い残して飛び去った。あきらめが早くて助かった。




 しかし、状況が好転したわけではない。ティナに魔法を使ってもらったが、サンドワームはさっきの位置から動いていないらしい。これは完全に俺たちが動くのを待っているな。

 試しに、できるだけ遠くにクレアに火球を放ってもらった。結果、爆発して数秒後にはサンドワームがその地点から地面に出現した。かなり反応が速い。


 ……まずいな、本当に手の打ちようがない。俺の進化魔法でどうにかならないものか。この際、二人の前で使うことになるのは仕方ない。

 しかし、相手を進化させたところでますます俺たちに不利になるだけだ。たとえば獲物を取りやすくするために視力をよくする、とかもう俺たちをエサにしてくださいと言っているようなものだ。

 より獲物を取りやすくする進化。より外敵から身を守りやすくする進化。より効率的に繁殖ができるようにする進化。どれも今の状況では使えない。

 どうすればいいんだ……。


「あそこまで体が大きくなければ、リューイチのリュックの中にある食料で満足するだろうけど、あの巨体じゃ無理よね……」


 忘れてた、そういえばこういう事態のために食料を余分に持ってきたんだっけ。だが、クレアの言うとおり、いくらモンスターが小食とはいえ俺の持ってきた量では足りないだろう。サンドワームは空腹らしいし。無駄にでかい体しているから空腹になるんだよ。


 ……あ。

 ……ああ!

 そうだ。進化ってのは、より生き残りやすくなるための進化もある。外敵から身を守るための進化もその一環だけど、たとえば体を大きくするのは、外敵から身を守るのに適した進化だ。大型化する生物っているし。

 ただ、大型化だけじゃない。小型化だって進化だ。酸素濃度が減ったことで小型化した昆虫なんかはいい例だ。また、恐竜が絶滅した頃に、小さな哺乳類が生き残ることができたのは、必要なエサの量が少なくてすんだのが一因だ。

 そう、これだ。体が小さければ必要なエサの量が少なくなる。

 うまくいくかどうかは賭けになるが、試してみる価値はある。


「二人とも、俺が何とかする。万が一のときは、ムニラを呼んで脱出しろ。王都から男を連れてくることを約束すれば動いてくれるだろう」

「ちょっと待ってよ、まさかあれと戦う気じゃないでしょうね」

「そのまさかだ」

「無茶ですよ! 死ににいくようなものです!」


 当然ながら二人は俺を止めた。だが、このままではジリ貧だ。


「俺に策がある。それに、死ぬつもりは毛頭ない」

「でも……!」


 俺は二人を振り切って大きくジャンプした。

 地面に足がついた瞬間、また大きくジャンプする。ジャンプしている最中に、さっきまで自分がいた場所にサンドワームが出現したのを見て背中を汗がつたう。

 サンドワームが体を出しているときは、ジャンプではなく走ることにする。そうやって走る振動がサンドワームに伝われば、クレアとティナが標的になることはないだろう。

 走っていると、サンドワームは砂に潜ることなく、そのまま俺に襲いかかってくる。グオォォォォォという野太い声が怖い。上半身は美女なのになんて詐欺だ!

 俺は自分が完全にターゲットにされたことを確信すると、ジャンプを繰り返しながらサンドワームの攻撃をかわす。二人への攻撃の心配もなくなったし、いよいよ進化魔法の発動を試みる。

 必要な食事の摂取量を減らすための進化、小さくなれ、小さくなれ……!

 攻撃を見切ることが優先なのでなかなか集中できない。

 しかし、大切なのは俺の思いだ。今のままではサンドワームは永遠に飢えたままだろう。それはあんまりではないだろうか。その俺の思いに答えるかのように、俺の中で大きな力が生まれる。


 ドオォォォォォン!


 ……! サンドワームが体を地面に叩きつけたことで、地面が大きく揺れ、俺はその場に倒れてしまった。進化魔法の発動に集中したせいで反応が遅れた。

 そんな俺に向かって勢いよく襲いかかるサンドワーム。

 やばいやばいやばい、これやばい。こんな時にもかかわらず、いや、こんな時だからこそか、時間がゆっくり進んだように見える。サンドワームが大きく口を開ける。その大きさは、俺を丸呑みにするのには充分な大きさだ。

 大丈夫、心が落ち着いている、あとは発動させるだけだ。

 ……間に合え!


 ポス……


 軽い手ごたえが俺の胸に飛び込む。

 それは、人間部分の大きさが小学生ぐらいになったサンドワームだ。全長で三メートルほどか。


「おなかすーいーたーぞー」


 か細い声でサンドワームが訴える。そして、声とは対照的に、腹から大きな音が鳴り響く。

 あ、ひょっとしてあのグオォォォって声、腹の音だったのか?

 とりあえず、危機は脱したようだ。

 いや、今回はマジでヤバかった。すぐには体に力が入らず、クレアとティナがこちらに駆け寄ってくるまでその場にサンドワームと一緒に倒れ付すのであった。

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