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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
三章 浄化プロジェクト
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027 大臣の考え

 俺は城へと戻ると、モンスター娘たちから受けた要望について協議するための資料を作っている大臣のもとに連れてこられた。俺みたいな流れ者が個人で大臣に面会できるとは思っていなかったので、大臣に話がある俺としてはラッキーだ。


「俺みたいな怪しいのを簡単に通してよろしいんですか?」


 まあ、扉の前には衛兵が二人いるし、武器携帯のチェックは入城する前にしっかりされているけどね。


「そんなことをおぬしは心配しておらんだろう。余計な会話はいらんよ。何か話したいのならさっさと話しなさい。そういう顔をしている」


 まいったな、顔を見ただけでそんなことが分かるのか。俺ってそんなに顔に出るのだろうか。


「あれから彼女たちと色々話しました。やはり、繁殖のための男性は必要だと思います。逆に言えば、それさえ何とかなれば良好な関係を保てるでしょう」

「ふむ……。しかし、それは飢えた狼の中に子羊を放り込むようなもの。その相手に選ばれたものの安全が保証されない限りはやはり賛成できん」

「それについては大丈夫ですよ。仮に男性の提供の場が整ったなら、彼女たちはそのような便利な場所がなくなるような愚かな真似はしません」


 まあ、どれだけ男性の数を確保できるかが問題だが。


「身の安全はもちろんのこと、健康にも細心の注意を払います。そのために、彼女たち専用の浴場がぜひ必要なのですが」

「ふむ、しかし浴場は簡単には作ることはできんぞ」

「体を清潔に保つことが何よりも大切です。この国は公衆浴場の数が多いですし、その考え方には同意してもらえると思います」

「それはそうだが……」


 乗り気ではないな。金もかかるし、モンスター娘専用となれば王都の中に置くわけにはいかないから土地の確保も必要になる。


「この際だから俺の考えを先に言います。これを機会に、人間との関係を持つモンスターたちの集落を作りましょう」

「な……!?」


 俺の突然の発言に、さすがに大臣は驚愕の表情を浮かべた。

 逸りすぎという不安もあるが、王都が困難な状況に置かれている今のうちに一気に話を進めておいた方がいいだろう。


「モンスターは人間に敵対しているわけではありません。生活圏がかぶることで衝突が生じることはあります。今回のウンディーネの件がまさにそれです。しかし、これから人間は成長を続け、ますます生活圏が広がるでしょう。それによるモンスターとの軋轢を少しでも緩和するために、今のうちにモンスターと交流をする必要があると考えます」


 ゴミ問題を語るときに、王都が外へ広がることによる土地の確保について話していた。人口の増大については重大な課題としていることは間違いない。


「今は今回の問題に対して関わりのあるモンスターとの交流にとどまるでしょう。しかし、将来的にはモンスターへの門戸を開くべきだと俺は考えます。そのためには……」


 思わず熱が入ってきたところで、大臣は俺をどうどうと抑えるように、両肩を軽く叩いてきた。


「若い、若いな、リューイチくん。君には君の理想となる将来像がしっかりと描かれているようだ。その前のめりな熱弁はわしは嫌いではないが、もう少し物事を慎重に考えることを忘れてはいけない」


 静かに、諭すように話す大臣の声に、俺の熱は急に冷めていく。

 やばいな、急ぎすぎたか。


「君のその意見は過激だ。異端と言える。モンスターとの協力関係から一足飛びに集落を作る話までもっていくのは時期尚早だ。それではまるで、モンスターの集落を人間の都市の近くに作ることが目的としているかのようだ」

「……え?」

「そもそもの発端であるウンディーネの襲撃。それも最初からその目的のための狂言。君はモンスターと何かつながりがあるのかな?」


 まずい、話が急速にまずい方向へ向かっている。

 とんでもない誤解を生み出してしまった。これは一体どうすれば……。

 俺が目を白黒させて焦っていると、大臣は急に笑い出した。笑いをこらえきれず思わずといった感じで、肩を震わせている。


「いや、すまんな。君の表情の変化があまりにも分かりやすくて、ははは」

「……え?」

「本当にそんな陰謀を抱いていたなら、もっとうまく立ち回るだろう。今の君はあまりにもまっすぐすぎる」

「は、はあ……」


 大臣にからかわれた? しかし、次に大臣が見せた表情は真剣なものだった。


「君がモンスターと共謀しているのではないかという意見は一部にある。ウンディーネとの間を取り持って、なし崩しにわしらに意見を言える場を設けようとしているとな」

「それは……」


 確かに、ウンディーネと直接会話をしていなければ、俺が国の中枢を担う人たちと直接話すようなことはありえなかった。


「わしもその疑いを持っている」

「え? ええ!?」


 そうなの? しかも、俺を目の前にして言うか普通?


「だが、君が提案したモンスターとの協力関係。これは実に面白い考えだとわしは思う。今回の件で、もしかしたらゴミ問題がある程度解決するかもしれない。人間だけではなしえないことを可能にするものをモンスターは秘めている。ならば、モンスターを何も考えずに忌避することは実に愚かしいことだ」


 ……今度は大臣が饒舌になっている。これはこれでまずい。モンスターを利用するという考えでは非常に困る。


「……本当に君は分かりやすいな。モンスターを一方的に利用するようなことは考えていないよ」

「え!?」


 やばい、表情に出ていたか?


「下水道で君はモンスターに言っていたな。『お互い得になることをしよう』と。それが一番大切なんだよ。一方的な関係は常に緊張をはらみ、いつか取り返しのつかない事態を招く。そのような未来への不安をわしは無責任に生み出すことはできない」

「大臣……」

「実はな、君がモンスターと親しげに話しているのを見て、心底驚いたものだ。自分の古臭い価値観があっさり壊されて、年甲斐もなく心が躍りもした。未知の世界が、そしてあらゆる可能性が目の前に大きく広がったのではないかと」


 この大臣、俺なんかよりずっとロマンチストかもしれない。目をきらきらさせているよ。いや、そういう表現が本当に適切なものとは思わなかった。目に力が入っているというか。


「君がこれまで出会ったモンスターの話を聞いていると、モンスターが人間に対して敵意を持っていないということ以上に、おそらく君にはモンスターを惹きつける何かがあるのかもしれない。そういう意味でも君は貴重な人材だ。だから、不用意な発言は避けるように」


 それはさっきの俺の気の早かった熱弁のことだな。確かに、俺は地位も身分も何もないのだから、余計に発言には気をつけなければ。


「まずは最初の一歩だ。君には、三日後のウンディーネとの交渉に、下水道にいたモンスターを何人か連れてきてほしい。人間とモンスターの協力に説得力を持たせるために必要だ」

「分かりました」

「それと一つ朗報がある。君は排泄物について、固形物と水分の分離について話していたな。それは何とかなりそうだ」

「本当ですか!?」


 大臣はにやりと笑うと、明日の朝に早速実験をすると言った。そんなに短期間で可能なのだろうか?




 翌朝、俺たちは王都の外、下水道のメンテナンスをするための下水道への進入口にいた。

 そこにいるのは大臣のほか、ドワーフ、会議室にいた官僚らしき人物が三人、そして騎士と衛兵が数人ずつだ。

 全員が集まったことを確認すると、技術工であるドワーフはこの下水道の設計図を手に俺たちに説明を始めた。


「この下水道は傾斜が緩やかだ。本来の設計では、水量が少なくなったときのことを考え、所々に若干深い穴を設け、そこに固形物を沈澱させるようになっている。固形物が詰まる前に沈めておき、汚水の流れを阻害しないようにするわけだ。もっとも水量が十分にあるときは固形物は押し流せるのでその穴は不要となる。そのため、普段は穴にフタがされている」


 そう言って別の絵を見せる。あれだ、側溝とそのフタのようだ。いや、マンホールかな。


「三本ある下水道のうち、この下水道は今は水門をしめている。汚水の流れがないから、今のうちにフタを一つ取る作業にうつる。その後水門を開け、翌日にその穴に固形物が沈澱しているか確かめたい。本来はすべてのフタを取って数日様子を見るべきだが、時間がないためこのような作業になる」


 それから作業自体は短時間で終わった。フタを一つ開けるだけだから当然だ。とはいえ、汚水が流れていた水路には汚物がこびりついていて、それはもう見るに耐えない惨状であり、フタを開ける役目の衛兵たちはかなり損な役回りだったと言えるだろう。

 フタの大きさは大体一メートル四方の四角形だ。マンホールのフタがなぜ丸いのか。とある世界的に有名な会社の入社試験であったとか見たことがあるな。確かフタが落ちないようにするためとかだっけ?

 フタを開けたら、深さ六十センチぐらいの穴があった。小さなプールといった感じだな。だが、これからは水量を若干落として、流れを抑えることでこうした穴に固形物が落ちるようにするようだ。


 その後、翌日に確認したら、固形物が沈んでいるのが確認されたらしい。こうした穴は特に流れが緩やかな場所にいくつも設置されていて、あまりたまらないように一日おきごとに水の流れを止めて固形物を回収する作業が必要になる。

 これだけでも大変だが、その固形物の処理をどうするか。一万人を超える人間が毎日出す排泄物の量はかなりのものだ。埋めて処理をすれば問題ないと思うが、ゴミの問題と同じで少しでも減らす手段を考えなければいけないかもしれない。心当たりはあるが、ウンディーネとの交渉には間に合わないからとりあえず保留する。

 それから俺は下水道のモンスターとの交渉のほか、クレアとティナに相談を持ちかけたりして過ごし、お偉いさんたちはほぼ寝ずに様々な議論をかわしていたようだ。本当は俺も混ざりたかったが、それは残念ながら許されなかった。


 そして、ウンディーネとの交渉が始まる。

 人間の1日の大便の排泄量は0.2kgとのことです。1万人いたら、1日2tですよ、2t。えらい量です。

 土にしっかり埋めれば(10cmぐらいがいいようです)1週間で分解されるとはいえ、その労力も大変なことになるのは想像にかたくありません。

 現代の下水処理場って偉大ですね。

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