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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
二章 異世界の人間たち
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020 魔法

「はあ……」


 あれから王都に戻り、ティナから『魔法理論・初級』と『魔法実践・初級』という本を借りて宿の部屋に戻ってきた。これからやることの多さを考えると自然とため息が出てくる。

 なお、クレアは一年生のときに使った本がどこに置いてあるか分からなかったらしい。


「すみません、クレアちゃん、整理整頓が苦手で……」

「そ、そんなことないし!」


 今日の夕飯時に二人と一階で待ち合わせをしているので、それまではこの本を読むことに専念しようか。 

 『魔法理論・初級』から読むべきだろうな。あまり厚くはないし、読むのはそう大変ではないだろう。

 実際、初級と書いてあるだけあって、小難しい言い回しもなく、さらにティナが大事なところに下線を引いていたり、メモ書きがいくつもされていたりするので、魔法素人の俺にも分かりやすかった。これはティナに感謝しないとな。


 まず、魔法は大きく分けて二種類ある。古代種のみが使える魔法と、それ以外の魔法だ。

 古代種とは、竜や天使、魔族といった人間よりも以前にこの世界に誕生した強大な種族を指し、神々もそれに含まれるらしい。彼らは自分たちの特性に応じた魔法を、手続きなしに直接発動させることができる。

 これらの魔法は特殊であるため、古代種魔法と呼ばれ、他の魔法とは区別されている。

 どうやら、俺が使う進化魔法はこれに類するものらしい。一応神に準じる種になっているらしいからな。そして、俺の特性というものが進化なのだろう。


 それ以外の魔法とは、適性があり、さらに正しい手続きを踏めば、どの種族でも使えることができる魔法だ。

 さらに、その魔法は大きく分けてやはり二種類あり、一つは神に仕える者が使うことができるようになる神聖魔法だ。神ごとにある程度バリエーションがあるらしいが、いわゆるプリーストが使う回復や防御の魔法だな。

 そして、古代種魔法にも神聖魔法にも属さない魔法が、一般的に魔法と呼ばれるもので、魔法学院で学ぶのもそれらしい。

 当然、種類や数が圧倒的に多い。神聖魔法のような回復や防御の魔法もあるが、それらに関してはやはり神聖魔法の方が強力なものがそろっているようだ。


 俺がこの世界に来たときに「ひょっとしたら使えるかも」と期待して魔法を使おうとしたが無理だった。その理由は、どうやら「正しい手続き」ができていなかったからのようだ。

 俺はよくあるパターンはこれだろうという漠然とした考えで、魔法の形を思い浮かべる、世界に漂うマナっぽい力を利用する、何かしら発声する、祈る、叫ぶ、などなどを試していた。

 しかし、正しい手続きは、自分がその正しい手続きをどのようにやるかを理解して初めて可能なものらしい。


「魔法は術者の魔力を使って発動されるが、魔力を具体的な現象としては発動させるためには、世界と己をつなぎ、さらに己と世界をつながなければならない」


 ……音読してみたが、わけわからんぞ、おい。

 早くも壁に突き当たったかと思ったが、『魔法実践・初級』を読むことで解決した。


「まず集中しよう。そして、世界の中に自分がいることを意識しよう。何かを感じることができたら、それでもう大丈夫。あなたには魔法を使う適性がある」


 ……教科書とは思えないくだけた文章だな。たぶん、どんな人間相手にも分からせるための苦肉の策なんだろう。

 この感覚は分かる。魔力の流れを感じるとき、世界と自分が重なっているような感覚を覚える。たぶん、そのことだと思う。


「次に、自分が魔法を発動させる中心地を定めよう。自分の体から、その中心地へ向けて魔力を通すように意識すれば大丈夫!」


 これだ。

 俺はこの段階ができていなかった。点のイメージではなく、線のイメージを明確にする必要があったらしい。あれだな、電線、いや、導線だ。俺が乾電池で、線のイメージが導線。そして、発動させる中心地が豆電球といった感じか。


 そして、あとは魔法の発動だが、術者の力量に大きく影響するらしい。

 たとえば、明かりを灯すという基本的な魔法は、明かりを置く基準点の設置をすればいいだけなので多くの術者が使える。

 しかし、相手の目潰しをするような一瞬の閃光を生み出すためには、そのための線のイメージが複雑化するため難易度が高くなるようだ。


「まずは基本からだよな」


 天井の一点を定め、俺とその一点を結ぶイメージをする。

 すると、うまく表現できないが、俺とその場所とのつながりができた感覚を覚える。さらに、その一点に対して野球ボールぐらいの大きさの光をイメージする。


「おお!?」


 天井が光った! いや、光球が天井に生まれた!

 あまり明るくはないが、十分に明かりとなる光だ。一度成功したら、あとは意識しないでもその光球はその場にとどまる。

 基本魔法ということだが、それでも嬉しかった。

 進化魔法はどうも大雑把すぎて実感がわかなかったが、これは本当に「魔法」を使うという実感がわく。


 こうして俺は魔法が使えるようになった。

 これから色々と試してみたいが、部屋の中でするのは明らかにまずいだろう。火の魔法を試したら火事になるだろうし。

 外出したときに特訓することにするか。




「私が調べたところ、グリーン・モスキートという名前はなかったけど、蚊のようなモンスターの目撃例はあったみたい」


 宿屋の一階でクレア、ティナと夕食を取りながら、今後の方針の決定会議だ。


「川漁師から何度か報告が上がっているそうよ。あの赤い幼虫の目撃例もあって、魚が減ったのはモンスターのせいに違いないから何とかしてくれって」

「どこでそういうの調べたんだ?」

「クレアちゃんのお兄さんは、常任警備隊で仕事してるんですよ」


 常任警備隊って、門を守ったり街中の治安を守るために兵舎に詰めている兵士たちだよな。そういえば、モンスターや盗賊などについての相談は兵士の仕事ってエドガーが言っていたっけ。


「最初から聞いておけばよかったんじゃ」

「予断をもって調査したくなかったのよ。ただ、想像していたのと状況がかなり違ってきたから、一度聞いておいた方がいいと思って」

「クレアちゃん、モンスターについて他に何か分かったことある?」

「……食事しながらあまり言いたくないけど、ゴキブリやハエ、ネズミのモンスターの目撃例があるみたい」


 害虫、害獣だなあ。それって衛生状態がまずいってことでは。


「私は下水道について調べたんですけど、三年前に完成したようですね」

「あー、そう言えば多くのトイレが水洗になったのってそのぐらいの時期よね。街もあれからだいぶ綺麗になって私としては大歓迎だけど」

「問題は、下水道がどこへと繋がっているかだけど、普通に考えて川だよな」


 当然汚水の処理なんかされてないだろう。

 小学生のころ、社会科見学で下水処理場に行ったけど、汚水の処理ができるようになったのってわりと近年だったような。中世でも何らかの処理がされていたかもしれないが、残念ながらそんなことを調べたことないからさっぱり分からない。


「リューイチは随分下水道を気にしているけど、何で?」

「汚物やゴミの処理ってのは都市生活において永遠の課題なんだよ。特に、都市が大きくなって人が多くなればなるほどそれらの問題が加速度的に大きくなる」


 都市を作る有名なゲームでも、ゴミの処理は大問題だからなあ。地球でも、処理しきれないものは結局埋めたり一箇所に集めるしかないわけで。


「一番問題になるのってどんなものがありますか?」

「病気」


 俺は即答する。


「ネズミってのが大問題だ。おそらく、モンスターだけじゃなくて、動物のネズミもいるだろうし。ペストなんか流行ったら……」


 ペストが存在するかどうか分からないし、魔法がある世界だから、地球の中世のような悲惨な大流行にはならないと思いたいが、危険な病気が蔓延する可能性はあると思う。


「ネズミと病気が何か関係あるの?」

「ネズミに噛まれた人が病気になったという話は聞いたことがあるかも」

「噛まれなければ大丈夫なら気にすることないんじゃない?」


 ……まあ、そういう認識だろうな。説明しようにも、病原菌から説明しないといけないし、そもそも病気の原因が地球と同じとは限らないんだよな。精霊力のバランスの歪みが病気をもたらすファンタジー世界だってあるし。


「今から色々考えても仕方ないか。そもそも、下水道については俺たちが手を出すような問題じゃないし」


 ここは王都だから、そういう問題は国王や大臣が考えるべきだよな。


「モンスター調査は次はどうする?」

「三日後の午後、東の草原を調査してみたいかな。本当はウンディーネがいる可能性がある川の上流に行きたいけど、それは少なくとも一週間ぐらい休暇が取れないと無理なのよね」


 まあ、上流に行くまでに最低でも二、三日必要だろうしな。


「分かった。そのときは俺もまた付き合おう」

「よろしくね」

「ところで二人とも、実は明かりをつける魔法は成功したぞ」

『え!?』


 それから魔法について色々と話をしてもらった。

 次は自分の得意分野を見つけるのがいいというアドバイスをもらった。高度な魔法になるほど魔法を具現化するイメージが難しくなるから、自分がイメージしやすいものを探すのがいいらしい。なお、クレアは炎と幻覚、ティナは大地の魔法が得意分野だそうだ。

 俺は何が得意分野になるだろうか。

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