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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
二章 異世界の人間たち
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015 宿と酒場にある仕事

 王都の門では、荷物の検査と税の徴収が行われていた。

 税の徴収は、主に商人に対するもののようだ。都市に持ち込む商品に応じて税金がかけられるから、俺みたいな普通の旅人には関係ない。

 ただし、レーテ村であらかじめ聞いていたように、都市に滞在する税金を徴収されることとなった。とりあえず、半月の滞在許可書に銀貨六枚を払う。

 都市内で警備隊に声をかけられ、市民でない者に対しては滞在許可書の有無を確認されることがあるそうなので、肌身離さず持っておく必要があるそうだ。なくした場合は再発行するしかなく、その場合は当然銀貨を払わなければならない。


 また、都市内では武器の携帯が禁じられていて、今持っている剣は預けておくことになった。しかも、預かる費用として銅貨四枚を請求されてしまった。滞在許可書に記された期間中なら、一度払えば何度でも預けることができるのが救いか。

 それにしても、中世ファンタジーといったら、都市内でもフル装備した冒険者たちが闊歩しているというイメージがあったから、武器の携帯禁止には驚いた。

 もっとも、ちょっと考えれば、どこの馬の骨とも分からない人間が武器を持ち歩くのは治安上よくないよね。貴族なら持ち歩いていいらしく、そこらへんは江戸時代の士農工商を少し思い出した。


 レーテ村を出たときには銀貨三十枚あったが、これで銀貨十八枚と銅貨二枚になってしまった。

 物価の相場が正直分からないが、王都ともなれば物価が高くなるだろうし、今の所持金では心もとない。とりあえずは、アメジストを換金する手段を見つけたいところだが、俺の時計でもうすぐ夕方の六時になる。六時になると鐘が鳴って、酒場などをのぞけば商店が閉まるから今日はもう無理だな。

 なお、商店が閉まる合図の鐘が鳴る時刻は、リッツ村とラルグ、どちらも俺の時計で六時だった。このことから、この世界もおそらく一日が二十四時間であることが分かった。

 色々とやりたいことはあるが、早く宿屋を探さないといけないな。


 とまあ、ごちゃごちゃ考えながら王都に入ったわけだけど、門を抜けてすぐ色々な考えが吹っ飛んだ。

 さすが王都。

 今までとは規模が違う。人の数も違う。

 もちろん、東京や大阪のような地球の大都市とは比べられないが、それでもたとえば日本の首都圏のヘタな街よりずっと活気がある。仕事がもうすぐ終わる時間でこれだから、昼間なんかすごいんだろうな。

 そして、宿屋も分かりやすい。門から大きな道をまっすぐ歩いていったら、その道の両脇に建ち並んでいるのが宿屋だ。

 思ったより多いな。まあ、商人や旅人の数が多いから、このぐらいの数が必要になるんだろうな。


 で、どこがいいか。

 あまりに大きなところは値段が高いだろうし、かといって小さなところは設備面で不安がある。

 となると、中規模ぐらいが手ごろだろう。

 あとは、一階の酒場の雰囲気がパッと見た感じいいところを選ぶだけだ。

 そして俺が選択したのは『麦と太陽亭』だ。麦というからには、ビールに自信があるに違いないと勝手に思ったからだ。

 そういえば、食品の名前にしても、道具などの名前にしても、地球とほぼ同じなんだよな。これは、脳内で勝手に理解されるこの世界の言葉を、俺が知っているものに置き換えていると解釈している。とりあえずは、そう考えるしかない。




「すみませーん」


 いかにも店主でございといった、筋骨たくましい親父に話しかける。


「いらっしゃい! 兄ちゃん一人なら、ここが空いているぜ」


 親父はニカッという擬音が聞こえそうなほどのいい笑顔を浮かべると、カウンター席を勧めてきた。


「先に部屋をとりたいんだけど」

「大部屋は銀貨一枚、四人部屋は銀貨二枚、個室は銀貨四枚だ。四人部屋と個室はかなり狭いが、その分値段は安めだぜ。今はどこにも空きがあるな……ええと、四人部屋は三人入っている。四人部屋と個室に長期間宿泊する予定なら、十日以上で三割引、一月で半額とお得になっている。もちろん、全部料金は先払いだ」


 慣れた口調で一気に話すと、さあどうすると俺を見る。

 んー、王都にはしばらく居座るつもりだから長期滞在したいところだけど、先立つものがないんだよな。


「とりあえず、四人部屋に三日泊まるよ」


 親父に銀貨六枚渡す。


「毎度! 二階の部屋番号五だ。宿帳のここに名前を書いてくれ。あ、俺はここの店主のエドガーだ、よろしくな」


 それからエールと軽い食事を頼む。食事の必要がないとはいえ、飲食をしないと不自然だから、夜は食事を取るようにする。

 一日に一回は食事をしないと正直味気ないし、食事を取らない日々を送ると精神的にまいりそうな気がする。

 それに、こうした場で会話をしてこの世界のことを知らないとな。


「へえ、リューイチは武者修行なのか。見かけによらないな」

「よく言われるよ。で、たとえばさ、モンスターや盗賊が出て困っているとかの悩み事を解決する仕事とかってあったりしない?」


 要は、ファンタジーでおなじみの冒険者が存在するかどうかだ。


「そういうのは基本的に兵士の仕事だな。ただし、国が常時雇っている兵士はそれほど多くないから、傭兵が募集されることがある」


 正直がっかりしたのは否定できない。

 うーん、酒場に冒険者が集まるとか、冒険者ギルドとかそういうファンタジーを期待していたんだけどなあ。


「おっと、がっかりするのは早いぞ。兵士は国境や主要都市の警備で忙しいから、傭兵の募集は少なくない。兵舎に行けば仕事を紹介してくれるぞ。なんだかんだで治安はまだまだ悪いからな」


 ああ、なるほど。酒場ではなくて、国としてやっているわけか。


「武者修行からは離れるが、うちのような酒場では、何でも屋みたいな仕事の依頼があったりするぞ」


 お! 退治クエストばかりが冒険者の仕事じゃない。

 やはり酒場は冒険者的な仕事が……!


「あそこの掲示板に貼ってある。ちょっと見てみな」


 ああ、あの貼られている紙みたいなものは仕事の依頼なのか。

 どれどれ、どんな冒険が待っているんだろうか。


『引越しの手伝いを求む』

『迷子のペットを探して下さい』

『街道整備労働者急募! あなたの献身が王国の礎となる』

『水運搬人募集。明るく楽しい職場です』


 ……なんというか、俺の想像していた依頼と違う。てか、仕事の紹介がメインでハローワークみたいだな。


「はは、期待外れって顔をしてるな。でも、仕事が見つかりやすいってことで評判はわりといいぜ」


 王都に滞在することになったら金を稼ぐ手段を考えないといけなくなるから、これはこれで有用なのかもしれないな。

 だが、異世界に来てまでハローワークってのはちょっと冗談きつい。




 酒場でちょっと話をしても大したことは分からないか。

 俺は五号室に入ると、空いていた一番端のベッドに腰掛ける。

 うん、狭い。ベッドがほとんど隙間なく四つ並べられていて、空いたスペースは荷物を置いたらあとは通り道の役にしか立たない。

 これは、大部屋よりも体を自由に動かせないな。ただベッドで眠るためだけの部屋という感じだ。

 同室には旅人らしい年齢がバラバラの三人の男がベッドの上に座って荷物の整理をしている。

 俺は三人に軽く会釈をすると、ベッドに仰向けになる。

 明日からやらなければいけないことが多すぎる。


・アメジストの換金

・王都の地理の把握

・本などによる知識の収集

・魔法についての調査

・金を稼ぐ手段の模索


 とりあえずはこんなものか。

 そして地味に厄介なのがこの世界における一般常識やタブーだ。生活をすることで覚えるものだから、おそらく本で得られる知識ではない。少なくとも、本を作ることそのものが大変な時代と思われるこの世界では、一般常識などについて扱った本はないだろう。

 そして、一般常識を知らないことによるトラブルってのは厄介だ。ましてや知らずにタブーに触れてしまったらと考えると頭が痛い。

 これについては、常に周囲を観察して、他者の行動を真似るようにする必要があるな、めんどくさい……。


 とにかく、最初にやることは金を増やすためのアメジスト換金だな。

 エドガーに腕のいい宝石細工人がいる店について聞いたから、明日は朝一で行ってみるか。

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