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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
二章 異世界の人間たち
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014 そして、王都へ

 レーテ村での収穫は、大雑把に周辺の地理が分かったことだ。

 ここは大きな大陸で、その中央南部をダーナ王国が支配している。そのダーナ王国のほぼ中央に王都ルーンベルクがあり、レーテ村はそのルーンベルクから東に伸びる大きな道の近くに存在する。

 その道を王都から進むと、徒歩一日の場所にラルグという都市、さらに徒歩一日の場所にリッツ村がある。そして、そのリッツ村から、東にのびる大きな道ではなく、北東にのびる道を進めば、徒歩一日の場所にレーテ村がある。

 レーテ村から南東にのびる道を進めば大きな道と合流して、東にのびる道を進めば徒歩一日の場所にまた別の村がある。

 なお、俺は東の道から来たと思われているようだ。ただ、王都を目指す場合は早い段階で大きな道に出ることが多いため、俺のようにレーテ村を通るのは珍しいらしい。


 また、俺が最初にいた森は、川や湖があり気候も温暖な場所にあるため、動物だけでなくモンスターが多数生息していることで有名らしい。そのため、森の浅いところでしか木材や動物、木の実やキノコなどの食材を入手できないとか。

 森がモンスターの住処になることが多いため、木材の入手が困難になり、都市部では木材ではなく石造りによる建物がメインになっているという話はなかなか興味深かった。木材は燃料として必要になるので、建築に使う余裕がないらしい。


 そういった話を色々聞いてみるだけでもなかなか面白い。地球とは様々な点が異なる世界だから、中世ヨーロッパのような世界観に見えても発展の仕方が当然異なるわけだ。

 それにもかかわらず、外側から見ただけでは地球と大して変わらないような文化や政治形態を持っているから、余計に不思議に感じられる。


 いかんいかん、ついつい考え事をしてしまうな。

 レーテ村では、村人たちから使い古しの鍋、火打石、服、革袋、長靴などをもらうことができた。あれだ、俺は信じられないほど軽装だったらしい。

 目指すは西、王都ルーンブルク。

 まずはレーテ村から南西に向かいリッツ村を目指そう。




 そして、何事もなくリッツ村に着いた俺は、レーテ村との違いに驚いていた。

 ダーナ王国の東の大動脈に位置する村は、人や物の流れの通り道であるため、商人や旅人の数が村人よりも多い印象だ。

 酒場兼宿屋も一軒だけではなく、村の産業の中核となっているようだ。


 レーテ村で村や街の配置を聞いたときに思ったが、徒歩一日の距離ごとに村や街が置かれていることに意味があるようだ。

 話を聞くと、昔はもっと村や街の距離は離れていたが、道の整備と同時に、徒歩一日で進める距離ごとに宿を置き、人を派遣し、村や街をつくりあげ、今はこうして商人や旅人が安全に休める場所になっている。

 ここリッツ村のように大きな道にある村や街には、国から衛兵が派遣され、賊やモンスターの脅威に対抗しているようだ。


 そう、モンスターも脅威になっているようだ。

 俺としては、モンスターではなくモンスター娘となると、人間に対して積極的に危害を加えるようなことはないのではと無意識に思っていた。

 村や街なら家畜や食物が盗まれ、男がさらわれたり、旅人や商人なら旅の途中で身ぐるみをはがされたりとの被害がある。

 それはモンスター娘から受ける被害としては想像できる。

 だが、中には人間を殺めるモンスター娘もいるようだ。具体的に、どのモンスター娘がどのように被害を与えているかという情報は直接見聞きした人がいないようでよく分からなかったが、そういう種がいることは強く信じられているようだ。

 それだけでなく、どう見ても害意のないモンスター娘、たとえばスライムのようなものに対しても恐れを抱いているようだった。


「俺の村に伝わる話だと、一匹のオーガのせいで村人の半数以上が殺されたっていうんだ。恐ろしい話だ」

「俺のところだと、ゴブリンの集団に狙われて大変だった話があるな。ただ、外見は女というより、醜い爺らしいけど」

「オークが女をさらうって話は聞いたな」

「あれ? オークがさらうのって男じゃねえか? お、俺もちょっとさらわれてみたいかも、いやいやいや」

「女同士、そういうのもあるのか!」

「モンスターのすすり泣きが聞こえた家からは必ず死人が出るってのもあるな。きっとそのモンスターの仕業だ、おっかねえ」

「モンスターは王国の衛兵たちに任せておけば問題ないって。それがやつらの仕事なんだろ?」

「昔は討伐隊が全滅したって話も聞いたことがあるな」

「そういや、最近はそんな話を聞かないな」

「むしろ、討伐隊から死人が出たって話すらほとんど聞かねえ」

「それはあれだ、衛兵が強くなったんだろ」

「俺が聞いたのは、モンスター娘のところに婿入りして半数以上帰ってこなかったうらやましい、いや、情けない討伐隊の話だな」

「それはけしからんな。色々な意味で」


 酒場で何気なくモンスター娘について近くで飲んでいる旅人に話しかけたら、あれよあれよとその場で飲んでいる連中が話に加わってきて収拾がつかなくなる。

 結局のところ、確かなことが分からないから、こうして憶測で皆が好きに言い合っているようだ。やはり、確かな情報が一元化されるというシステムがないことで情報が錯綜しやすいようだ。そもそも、情報の信頼性からして相当怪しい。


 結局、よく分からないことが分かった、それだけだ。

 リッツ村では一番安い大部屋に泊まり、ラルグという都市を目指す。




「それにしても、大したもんだなあ……」


 俺は歩きながら道の様子を見ていた。

 道幅はたぶん五メートルちょっとはある。そして、その道は石で大雑把ではあるが舗装されていた。

 確か中世ヨーロッパでは、道は舗装などされておらず、雨が降るとぬかるんで大変だったという話を聞いたことがある。

 それに対して、この道の歩きやすさはどうだろうか。

 もっとも、こういう道の整備は紀元前の古代ローマ帝国ですでに行われていたわけで、驚くことではないのかもしれない。

 こうやって舗装されている道はこの世界に来て初めてだから、全部の道が整備されているわけではないようだ。やはり、主要な道だからきちんと整備したんだろうな。


 そして訪れたラルグという街は、想像していたものとは違った。

 街というだけあって村とは規模が何もかも違う、と思っていたがそんなことはなかったのだ。

 街を囲む壁は村よりもさらに頑丈に見えたし、人口もおそらく千人近いが、俺が思い描く街のイメージとは違っていた。村がおそらく百人から二百人といった規模だから、それと比べたら確かに人口は多いけれど。


 まあ、王都がすぐ近くにあるから、逆に発展しづらいのかもしれない。リッツ村と同じく、旅館業がメインのようだし。

 ただ、旅館だけではなく、衣服を売っている店、武具を売っている店、雑貨を売っている店など、商店にバリエーションがあった。

 そして雑貨屋でいいものを見つけた。

 それは、本やメモ帳、羽ペン、インクなどだ。


「おお……活版印刷の技術はあるということか」


 技術自体があることは予想できたが、この規模の街の雑貨屋にも置かれるレベルで普及しているってことは嬉しい誤算だ。

 そして、今は本が必要だ。ぱらぱらと見ると、日本語ではない見たことのない言語、つまりは当たり前だが異世界の言語が並んでいるが、それがすらすらと読めるのがどうにも気持ち悪い。

 表現が難しいが、たとえば地球にいた頃、英語とかを聞くと脳内で日本語に翻訳するステップがあったわけだけど、そのステップを必要としないで、異世界の言語のまま意味を理解できるわけだ。

 会話もそうだけど、この世界に来てからモンスター娘や人間に対して使っている言語は、おそらくこの世界の言語。これもまた、自分では初めての言語と分かるのに違和感なく会話できることがやはり気持ち悪い。

 この感覚にはいい加減慣れないといけないな。


 話が逸れた。

 そして、本が高い。

 どうやらフィクション、娯楽本の類のようだが、銀貨二枚だ。大部屋一泊より高いじゃないか。

 これが歴史や地理について書かれた本なら買ったが、フィクションならとりあえずスルーしておくか。いつかは読んでみたいものだが。


 そして、何より嬉しいのがメモ帳だ。そんなに質の良くない紙百枚で銅貨六枚。高いのか安いのか微妙なところだが、ペンやインクと一緒に購入した。

 当然、日記代わりにするためだ。

 ここで起こった出来事はこまめにメモしておくことにする。特に、モンスター娘の出会いや、彼女たちに進化魔法をかけた場合はどのような進化になったかを、忘れないようにメモしておくことはきっと必要になる。

 長期間の保存に耐えるものではなさそうだが、そのうち長期間保存できる手段を探すことにしよう。

 まずは、日が明るいうちにこれまで起こった出来事を忘れないうちに書き留めるようにしておかないとな。




 そんなこんなで、旅は特にトラブルもなく、俺は王都の目の前に立っていた。

 ラルグとは違い、圧倒的に高い壁。王都の最初の外壁だな。その規模も大きい。目に見える範囲ではまだ王都の横幅が終わっていないからだ。

 俺は胸の高鳴りを感じながら、都市へ入る許可を求める人たちの列に並ぶ。

 さて、王都では何が待っているんだろうか……!

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