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102 エピローグ

「これで、バース王国でやることは終わったな」


 当初の最大の目的であるレオとフロージア第一王女の婚約の儀が盛り上がっているのを遠目で眺めつつ、俺はここでの成果に満足していた。

 マーメイドとの間を取り持ったことは、俺の想像以上にバース国王カルロ四世が喜んだ。国の基幹産業を救ったことになるからある程度の報酬は予想していたが、名誉騎士の称号を賜ることになるとは思わなかった。特に功績のあった平民を準貴族階級に取り立てるための一つの方法らしい。

 本当は男爵位と領地を与えたかったらしいが、ダーナ王国で特別市民どまりの俺に対して、ダーナ王国に先んじて貴族位を与えるのは政治的にまずいから断念したとか何とか。まあ、俺としても貴族位を与えられても困るけどね。


「リューイチ殿を抱えているダーナ王国がうらやましい限りだ。我が国にもモンスターを研究している学者はいるが、安全な場所から指示だけを出すような者が多くてな。戦う能力がないから仕方ないのは分かるが、本人が現場に出ないから大事なことは何一つ分からないようだ」


 そのとき、国王はこんなことを言っていた。今回のマーメイド騒動で自国の学者がまったく頼りにならなかったことは、国王にとっては由々しき問題のようだ。今後はモンスターに関わる専門の部署を設けるらしい。そのことがモンスターたちにとってプラスになることを願う。


 で、名誉騎士の称号を得たことで、バース王国への出入りはほぼ自由となった。面倒な入国手続が不要となるのは大きい。さらに、国王は俺に金銭を与えようとしていたが、そのかわりにバース国内においてモンスターを自由に勧誘する許可を得ることに成功した。

 モンスターに関しては、モンスターの自由意志によるところが大きいし、そもそもモンスターはバース国民ではないので国の許可云々の話ではないのだが、モンスターを国外に連れ出すという行為について国から許可を得ているか得ていないかの違いは大きいと思う。

 俺としては、これからバース国内を散策して色々なモンスターたちに出会いたいが、婚約の儀が終わったらレオと共にダーナ王国に帰還しなければならないから別の機会にすることにしよう。


 もっとも、すでにモンスター数人はグローパラスに来ることが決まっている。

 今回の件については、当然のことながらウルスラさんやマーメイドたちからも感謝されていて、マーメイドを二人、そしてシービショップを一人グローパラスに派遣してもらう許可をウルスラさんから得ている。

 シービショップが来ることで、神聖魔法の使い手がようやくグローパラスでも賄えるようになった。まだ一人なので、他にも神聖魔法を使えるモンスターを探す必要があるが、大きな進歩と言えるだろう。

 さらに、マーメイドたちが住む海域にある小島に、転移魔法の魔法陣を設置する許可も得たので、これで移動が楽になる。

 マーメイド、シービショップ共に、淡水でも生活することができるが、転移の門を開いている時に海水を大量に持ち込むことも可能だろう。新たに建物を建造した上で、そこに海水のプールのようなものを作ることができれば海のモンスターをもっと移住させることができるかもしれない。

 ……ただし、海水の交換の頻度によっては俺がグローパラスを離れられなくなる可能性もあるので、門を開くことができる魔法使いが必要になるな。妖精の秘術であるわけだから、ティターニアの信頼を得ている妖精となるだろう。そんな妖精を融通してもらわなければならないので、まだ先の話かな。


 ワアァァァァァァ……!


 思考にふけっていたが、大きな歓声に我に返った。

 婚約の儀がクライマックスを迎えたのか、場が盛大に盛り上がっている。

 まだ続きそうな雰囲気だな、これは。昔からこういう堅苦しいイベントは苦手だけど、二人を祝うためのものだし、俺も集中するか。


 こうして、バース王国での最後の夜は過ぎていった。

 翌日、フロージア王女との別れを惜しむレオをせっつきながら、ダーナ王国への帰途についた。




「……以上が、俺からの報告です」


 俺は船の中でまとめた書類を大臣に見せながら、その内容についてひと通り説明を終えた。


「なかなかうまくやったみたいだな。カルロ四世陛下が親書で君のことを随分と褒めていたと陛下がおっしゃっていたぞ」

「俺はバース王国とマーメイドたちの仲立ちをしたにすぎませんけどね」

「それが普通はできないことなんだよ」

「これからは、それが普通になっていきますよ。少なくとも、ダーナ王国とバース王国では」


 俺の言葉に大臣はハッとした表情になった。


「そうだった。君の目的は最初からそれだったな」

「相手のことを知らないと、その相手と仲良くするのは難しくなります。相手のことを知ろう、分かろうとすればいいのですが、その相手がモンスターとなると今までは難しかったでしょう」


 俺がダーナ王国でやったことは、モンスターと交渉が可能だと示すものだ。バース王国でやったことは、互いの理解の溝を埋めることかな。

 どちらにしても、一度互いの認識が変わって歩み寄ることができたのだから、今後も同じことができるはずだ。


「国がモンスターとの関わりを積極的に持つようになれば、色々なことが劇的に変わると思います」

「だが、いい方向に変わるとは限らないのではないか」


 その大臣の考えは正しい。積極的に関わりを持つことによって新たなトラブルも発生するだろう。


「いい方向になるように互いが努力することが必要だと思います。そして、俺はそのためには努力は惜しみません」

「……長く困難な道のりだぞ」

「もちろん、最初から覚悟していますよ。グローパラスの構想を大臣に話したときから、この考えは変わっていません」

「心配する必要はなかったようだな。リューイチ、君には期待している。何か必要となるものがあれば言ってくれ」


 バース王国ではその後の要求のことを考えて断ったが、やはり先立つモノが今一番必要なんだよな。だが、そういう即物的なものを今要求するのは、なんというか空気を読めていない気がする。


「色々な国への通行許可証みたいなものがあれば非常に嬉しいです。色々な国のモンスターと出会いたいので」

「まず、我が国のモンスターたちとの交流をもっと深めてほしいが、友好関係のある国に対しての通行許可証ならば陛下の許可も下りるだろう」


 お、言ってみるもんだな。


「通行許可証についてはわしに任せておけ。だがリューイチよ、やりたいことがたくさんあるようだが、今はグローパラスに戻って、君を待っている子たちに早く顔を見せてあげることだ」

「……はい!」


 バース王国でも、人間とモンスターの共存の道が具体的に見えたことに興奮しすぎていたのかもしれない。ちょっと先走りすぎたかな。

 まずはグローパラスをもっとしっかりとしたものに育てる必要があるか。


 いや、そんな小難しいことは今はどうでもいい。

 グローパラスの皆に早く会いたい、今はそれだけだ。大臣は俺「を」待っているという表現を使ったが、それ以上に俺「が」待っていることに気づいた。

 だって、今の俺にとって、グローパラスは「我が家」であるのだから。

 俺は急いで城から出ると、待たせていたプレゴーンにまたがって、グローパラスへと帰るのであった。


「リューイチ……そんなに急がせなくてもグローパラスは逃げない」

「なんていうかな、今すぐ見たくなったんだよ」

「……もう故郷が恋しくなった?」

「故郷?」

「だって、リューイチにとってはそうなんじゃないの? そんな顔をしていた」


 プレゴーンは時々鋭いな。確かにさっきそう思ったばかりだ。

 俺は照れくさくなり、何も答えず眼下を見下ろしていた。




 やがて、グローパラスが見えてくる。まだ小さく、モンスター娘の数も少ない。だが、ここには無限の夢が詰まっていると思う。そう俺は信じている。


「あら、おかえりなさい」


 ギルタブルルのムニラが真っ先に俺たちを見つけて近くまで飛んできた。副園長の仕事として、グローパラスの上空を飛んで問題が起こってないか確認をしているところのようだ。


「ようやくバース王国での仕事が終わったよ。まずは屋敷に戻って……」


 その時、眼下で猛アピールしている存在に気づいた。プレゴーンに頼んでそこに降りてもらう。


「わーい! リューイチ!」


 体をぷるぷる震わせて猛アピールしていたスライムのニュンが飛びついてきた。うん、相変わらず素晴らしいぷるぷるな肌触りだ。


「ニュンは初めて会った時から変わらないなあ」

「?」


 しみじみと呟いた俺の言葉の意味が分からなかったのか、瞳に?と浮かびそうな表情で首をかしげている。そんなニュンの頭を撫でていると、やはりと言うか、近づいてくるバブルスライムがいる。


「やあ、ネル」

「前も言ったけど、もっとこまめに来なさいよ」

「悪い悪い。これからはそう心がけるよ」

「本当?」


 疑わしげな声をあげながら、ネルは俺に体重をかけてきた。毒のせいで仲間のスライムにも触れることのできなかったバブルスライムの彼女は、毒の問題が片付いてからはこうした触れ合うコミュニケーションを求めることが多い。


「あ、リューイチ、戻ってたんだ」

「おかえりなさい、リューイチさん」


 声がした方向を見ると、クレアとティナがスライムに埋もれていた。声をかけられるまで気づかなかったよ。


「何やっているんだ?」

「いやあ、魔法学院の課題が大変でさ、スライムちゃんたちに癒してもらっている最中なわけ」

「とっても心が落ち着きます……ほぅ……」


 やはりスライム人気はすごいな。癒されすぎて課題に手がますますつかなかったらどうするんだろうと思うが、二人とも根は真面目で優秀だから大丈夫か。


 それからスライムたちに別れを告げて屋敷へと戻ってきた。


「あれ、リューイチ、帰ってきたんだ!」


 ブラックローチのローナが俺に気づいて挨拶してくる。なんで屋敷にいるんだと思ったら、サンドワームのサンディがボールを持っているのに気づいた。遊び相手にでもなっていたのかな。


「リューイチ、おかえりー!」

「サンディ、また大きくなったんじゃないか?」

「ふふふ、成長期なのだ」


 その時、殺気を感じてその場から軽く跳躍して離脱すると、俺がいた場所にヘテロポーダのカフィが手刀をかましていた。当然その手刀は空を切り、しまったという表情を浮かべたカフィの脳天に俺の手刀が炸裂する。


「い、痛いであります~」

「ったく、油断も隙もない」

「少しぐらい油断して私に勝たせてもいいと思うであります」


 そんなカフィの両頬を俺は無言で左右にぐいっと引っ張る。

 涙目になったカフィが謝る頃には、芋虫ボディを必死で動かしてえっちらおっちらと移動していたサンディがようやく俺のもとにたどり着いた。


「とーちゃく!」


 一月弱会っていなかっただけで、サンディの体がまた大きくなった。ひょいっと持ち上げると、芋虫の尻尾の部分が完全に地面についている。一月前はギリギリ地面につかなかったぐらいなのに。


「本当に大きくなったなあ」

「そうでしょ。ほめてほめて!」


 なぜそこでほめてにつながるか分からないが、頭を優しく撫でながらほめてやると、満足したらしく天使のような笑顔になった。

 うむ、可愛い。


「いやあ、やっぱここはいいなあ。帰ったって実感がわくよ」


 俺は心の底からそう言った。まだ会って間もないモンスター娘たちだが、なんというか家族のように感じる。

 この異世界に来たときは、わくわく感はもちろんあったけど、それ以上に不安が強かった。

 でも、こうしてグローパラスという俺の居場所を作ることができた。


「俺、このグローパラスを作ることができて、本当によかったよ」


 笑いながら俺が言うと、皆も笑顔になってくれた。

 ああ、これが幸せってやつかもな……。

 これから、このグローパラスがどうなるか分からない。まだ一年も経っていないから運営も手探りだ。


 だが、皆と一緒なら頑張っていける。

 これからも、できる限りのことをやっていこう。

 俺はこれからやるべきことを頭のなかでいくつかピックアップしながら、屋敷の扉を開けた。


 さあ、今日も忙しくなるぞ!

 これにて、『モン娘えぼりゅーしょん!』は完結です。

 ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。


 あとがき的なものは活動報告に書きました。

 作者名をクリックして私のページに飛んでいただければ読むことができます。

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