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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその1 一章 本物のモンスター娘
10/105

010 川辺での出会い

 川沿いを歩くのはなかなか気持ちいい。

 鳥や虫の鳴き声だけでなく、水のせせらぎの音が常に聞こえるのがなぜか安心感を与えてくれる。

 そういえば、日本で山登りしたときも、川の音が聞こえてくるとなんとなく興奮したっけ。

 川があるとそこが周囲よりも涼しくて、歩き疲れたときに随分助かった。

 まあ、今はちょっとやそっとでは疲れない体になったからそういう感覚はもう味わえなくなったのかもしれないけれど。


「それにしても、結構いるもんだなあ、モンスター娘って」


 直接俺の近くには現れていないが、たとえば立ち並ぶ木々の中からたまに気配を感じる。おそらくドリアードってやつだろうな。

 それだけでなく、大きな花や見たことないような植物から気配を感じたり、木々の陰から何か動くものがこちらの様子を伺っていたり、頭上から見られているような気配も感じたりした。

 残念ながら、もしくは幸いにも、彼女たちは俺にちょっかいをかけようとは思っていないらしい。

 よく考えたら、たった一人で身を守るものは剣のみ。身体能力が信じられないほど上がって、漫画のような曲芸じみた動きもできるようになってはいるが、正直自殺行為以外の何物でもないな、こりゃ。

 ただ、姿を見せないモンスター娘からこちらに向けられている感情はなんとなく理解した。


 警戒。


 外見はただの人間の俺を、どうも強く警戒している感じがする。

 進化魔法という使い道が特殊だけど巨大な力を持っているのは事実。野生の勘というやつで、そういった何かを感じて警戒しているのかな?

 おかげで何事もなくこうして歩いていられる。

 そうそう、モンスター娘ではない普通の動物も見かけた。シカやウサギ、それに鳥たち。残念ながら、見ても具体的な名前は浮かばない。異世界の動物だから、地球の動物と同じやつはいないのかもしれないけどね。


「お!」


 少し先の方に、獣道より広い感じの道が見えた。

 今までは木々の間を縫うように歩いたり、獣道らしき細い道を歩いてきたが、その道は何らかの手が加えられた印象だ。歩きやすいようにある程度切り開かれているような感じだ。

 そういうことをするのは、人間で間違いないだろう。

 山菜や獣をとるために獣道を利用して道を作ったと考えれば、おそらく自動車などの乗り物はないだろうから、村までそう遠くない場所なのかも。


「よし、これはビンゴっぽいな」


 その道は、やはり川沿いに延びていっている。ここだけがたまたま切り開かれているのではなく、明らかに道としての役割がある。

 これなら、日が落ちる前に森を抜けられるそうだ。


 そして、その道を歩いていくと、そいつがいた。

 馬だ。

 しかし、上半身は人間の女性のそれ。


「まさか、ケンタウロス?」


 これまた説明不要のメジャーモンスター。

 外見は人間で言うと、うーん、女子大生って感じだな、大人というよりかはお姉さんといった感じだ。ボブカット、いや、セミロングの赤毛がここからでもよく映えている。ちょっと気の強そうな感じの美人だ。

 なんかこっちを見ている。いたずらっぽい瞳というか、なんか楽しそうな笑みを浮かべている。


「おおい、そこのあんた!」


 驚いた、向こうから声をかけてくるとは。

 そして、うん、なんか手招きしているな。

 随分とフレンドリーな感じだ。ケンタウロスといえば、文化レベルが高く、人間と交流を持つこともあるっていうのがよくあるパターンだが、この世界ではどうなんだろう。

 まあ、俺としてはどちらにしろこの道を進むしか選択肢はないから、呼ばれなくても前に進むが。


「こんにちは」


 俺は近づきながら声をかける。

 スライムと違ってきちんと服を着ているな。人間の上半身のところのみだけど。って、薄い服一枚か。大きな胸の谷間が見えていて今にもこぼれ落ちそうなのが目の毒だ。おっぱいの嫌いな男などいない。

 いかん、胸を見ていたら失礼だ。

 せっかく有名なケンタウロスに出会ったわけだし、他の部分も見るか。と言っても馬の部分ぐらいだが。白馬……じゃないな、よく見たら薄い青色だ。

 そして、尻尾はふさふさ……ではなくて、これは、魚の尻尾……。


 ん?


 俺はそれに気づくと、それ以上近づくのをやめた。


「あれ? どうしたの?」

「あなた、ケルピーだよね」


 俺がそう言うと、そいつは「あちゃあ」と言って肩をすくめた。


「よく知ってるね。ここに来たのはつい最近だから、まだ人間たちの間で噂が広がっているわけでもないだろうに」


 ケルピーはメジャーではないけど、マイナーでもない微妙な知名度といった印象かな。普通の人は知らないけど、ゲームがある程度好きなら耳にしたことはあるといった感じだろうか。

 馬の姿をした妖精で、こうして道にたたずみ、疲れた旅人がこれ幸いとまたがると川や湖に飛び込んで溺れさせるという結構危険なやつ。

 もしかしたら今の俺はピンチなのかもしれない。

 ケルピーが何をしてきても対応できるように、ケルピーから目を離さずに左腰に吊るしてある剣を確認する。


「わわわ、ちょっと待って! あんたを襲うつもりなんてないから!」


 ケルピーが慌てた様子でこちらに話しかける。

 とはいえ、罠かもしれないから、相手の出方をじっくり見なければ。


「こっちの誘いに乗らなかった相手を襲うつもりはないって! 返り討ちにあったらつまらないしね」


 うーん、全面的には信用できないけど、俺の立場的にあまりモンスター娘を疑うのはよくない気がする。

 襲われたら襲われたで、逃げればいいだけだ。たぶん、ちょっとやそっとでは死なないだろうし、俺。


「誘いって、つまり、背に乗せるつもりだったんだな」

「やっぱ、あんた、よく知ってるね。この通り、外見はケンタウロスに似ているからね。ケンタウロスは今でも人間とそれなりに友好な関係を保っている種族だ。旅人に乗っけてってやるよ、と声をかけたらほいほい背中に乗ってくる、はず」


 ああ、外見がこれだから、俺が知っている馬のふりではなく、ケンタウロスのふりか、なるほどね。

 それにしても、最後、なんか微妙に自信がなさげだな。


「はず、って。ひょっとして、成功したことがないとか?」

「一人だちしたばかりなの。やり方は母さんから教わっていたけど、実際にやったことはなくてさ。母さんにしても、最近は引っかかる人間が少なくなったとか言ってたっけ」

「ちなみに、引っかかったらどうなるんだ?」

「とって食うとかはないから安心してよ。ただ、色々暇つぶしに付き合ってもらうけど。飽きるまで」


 うわ、捕まったら大変そうだな。


「ちなみに、どこでわたしがケルピーって分かった? 対策を取っておいた方がいいかも」

「尻尾で分かるよ。馬の尻尾じゃなくて魚の尻尾じゃあねえ」


 そう言ったら、ケルピーは顔を赤らめる。


「こら! 尻尾のところをあまり見るな! スケベ!」

「えー……?」


 ああ、そっか、根元のあたりに性器があるもんな。


「下着とかはけばいいのに」

「馬用の服は入手しづらいのよ。あてがないから」

「今着ている服は?」

「人間の服よ。人間と商売をしているホビットの子から買ったんだけど、馬用のは特別に仕立ててもらう必要があるから。高いのよね。ケンタウロスの集落とかなら安く手に入るんだろうけど」


 なるほど、そんな事情があったのか。てか、買ったって、モンスターの間でも貨幣が流通しているのかよ。


「とにかく、その尻尾じゃ、ちょっと注意深い人間だったら警戒するって」

「うーん、でも、こればっかりは仕方ないじゃん」


 ああ、これは俺が何とかしなきゃいけないのかな?


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