表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその1 一章 本物のモンスター娘
1/105

001 プロローグ

「私はタコの脚を持つスキュラなんだけどさ、この脚をイカに進化することってできない? 八本より十本の方が便利な気がするのよねえ」


 八本の脚で俺をゆさゆさ揺さぶりながらスキュラが訴えかける。上半身の人間部分だけでも俺と同じぐらいの体格だから、下半身のタコの脚があるとボリューム感がすごい。圧倒的な存在感だ。有名なモンスターだが随分と気さくなことだ。


「あの、私は、自分の青白い炎が怖いの。夜、鏡を見てびっくりするから、もっと明るい炎にできないかな?」


 俺の頭に腰掛けながらそう訴えかけるのはウィルオーウィスプ。手のひらサイズの小ささは、妖精ということを強く意識させる。

 炎の色を見せたいらしく全身から青い炎が出ている。その炎は熱くないのだが、頭の上でそういうことをやるのは精神衛生上よくないのでやめてほしい。



「頭取れやすいのどうにかならないかなー」


 自分の頭を小脇に抱えてそう言うのはデュラハンだ。

 いや、それってあなたという存在そのものにケチつけてる気がする。


 ちょっと前まで、日本でフリーターをやっていた俺が、今はファンタジーな世界でモンスター、というかモンスター娘たちの悩み相談をやっている。

 なぜこんなことになったのか。

 それはある春の夜のことだった。




「あー、どうしようかなあ」


 俺、雨宮隆一(あめみやりゅういち)は残金が6桁を切った通帳を見てため息をついた。

 大学を卒業してからフリーターでなんとなく生活をしていたが、収入は当然不安定で、三年間勤めていた場所が潰れたらあっという間にこのざまだ。

 今はコンビニのバイトすら応募者が多く、ここ三ヶ月はろくに働いていない。今年で二十六歳になるというのに我ながら危機感がないことだ。

 だが、このままでは今月の家賃は何とかなっても、来月以降はどうにもならなくなる。インドア派で力仕事がまるでダメだと、バイトの選択肢がだいぶ狭まるんだよなあ。


「ま、何とかなるでしょ」


 根拠もなく無理に明るい声をあげてから、いつものごとくネット巡回でもやるかと思ったそのとき、俺は突然自分が真っ暗な空間に投げ出された。


「え? 停電かよ、勘弁してくれ……」


 家にいる時間の八割はパソコン、テレビ、ゲームという自分にとっては停電は由々しき事態だ。

 ブレーカーが落ちただけかもしれないので、とりあえず懐中電灯を探すために立ち上がろうとしたら、目の前に俺と同い年ぐらいの青年が立っていた。平凡というか、妙に平均的な顔立ちといった印象をなぜか受ける。

 普通なら泥棒などを疑うような場面なのだろうが、なぜかそういう不安にさせるものを感じない。むしろ、安心感すら抱いてしまう。


「ど、どちら様?」

「君たちが住むこの世界とは異なる世界の神で、名をリディアスという」


 どうしよう。変な人だ。

 そう思った瞬間、頭に鮮烈なイメージが浮かんだ。

 今まで見たこのないような生物、植物、都市、天体、言葉、様々な情報が一瞬で頭の中を駆け巡る。録画番組を数十倍速で見るような感じと言えば近いかな。


「うわ……」


 いきなり溢れ出す膨大な情報量に、俺は気持ち悪くなってその場にうずくまる。吐かなかった自分をほめたい。


「今のは私が創造したファルダムという世界だ」


 俺は息を整えながら神を名乗る男を見ていた。今はその男から底知れないものが感じられて恐怖さえ覚えてしまう。

「ファルダムは君たちの世界とまるで異なるが、世界の軸がほぼ近しいため、様々な法則や精神のありようが似通っている。そんな世界に住む君にだから、頼めることがある」

 俺は思わずごくりと唾をのみこんだ。


「ファルダムのモンスターたちを適切に導いてやってはくれないか」

「は?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。

 目の前の神を名乗る男が言っている意味がまるで分からない。

「私は役目があって、ファルダムを去らねばならない。ファルダムの管理を任せた部下たちはいるのだが、直接世界への干渉はできない状況になっている。そんな部下たちが生み出したモンスター……、君が想像しているモンスターと思ってくれ。彼らは不完全な存在だ。私が創ったファルダムの人間が絶滅しないようにするために、部下たちはモンスターを何度か調整したんだが……それが極端でね。ただでさえ進化による環境への適応が長命ゆえに発生しづらい種が多いのに……」


 その後長々と話していたみたいだが、あまりにも実感がなかったので残念ながらよく覚えていない。そもそも、どんな世界かすら分からないのに過去の話を愚痴のように言われてもまったく理解できない。

 さらに言うと、ある言葉が気になって他がどうでもよくなったのだ。


「モンスターが人間を絶滅させないための動機づけとして、部下たちはあろうことか、モンスターの雄をほぼ全ての種で消し去り、子孫を残すために人間の男を必要とせざるをえないようにしたのだ」


 何それ怖い。

 でも、何それパラダイス?

 つまり、ほとんどのモンスターが、いわゆるモンスター娘ってやつ? そういえば、さっき頭の中に走ったイメージで、ネットで見かけるモンスター娘たちのイメージ図と似たような姿をいくつも見た。

 やばい、本物を超見てみたい。


「私が直接関与していないとはいえ、一度創り出された生命があまりにも理不尽な外的要因で滅びるのは忍びない。だから、モンスターたちが困っていることがあれば、何とかしてやってほしい。それを君に頼みたいのだ」

「何か方法があるんですか?」


 フリーターの俺には何も思いつかないし、きっとできることは何もない。


「私は万能ではないが、モンスター限定で、進化の可能性を具現化することができる能力なら与えることができる。それによって、モンスターたちを導くことができるはずだ」


 なるほど、それは面白そうだ。

 よくは分からないが、そんな確信を抱いた。

 俺としては、宝くじの一等が当たるよりも巨大なこの幸運、この時点ですでに引き受ける気持ちで一杯だったが、そのはやる気持ちをおさえていくつか疑問点を解消する必要がある。


「いくつか質問があります。まず、なぜ俺を選んだのですか?」

「進化という概念を最低限理解して、モンスターたちの進化を促すという大役をこなすことができるであろう人間はすぐにピックアップできる。ファルダムの人間は進化という概念を理解できる文明レベルに達していない。そこでこの世界を選んだわけだ。そして、言い方が悪いが、この世界からいなくなっても影響の少ない人間として君を選んだ」

「…………」


 その言葉に何も言い返せなかった。

 確かに、俺は両親を事故で失って天涯孤独だし、今はフリーターとは名ばかりの無職だからこの世界にとって何ら必要のない人間だ。

 それを、まさかこの世界の神ではないとはいえ、神に直接言われるとは……。

 やばい、泣けてくる。


「話の流れ的に、俺はそのファルダムという世界で、今後生きていくことになるんですよね?」

「そうなる」

「この世界とは環境が大きく異なると思われますが、そこで俺、生きていけるか正直不安です。一日もつかどうかも怪しいです」


 体力が致命的にないし、そもそもその世界のことを何も知らない。これで生きていけると考える方が不思議だ。


「君には準神(じゅんしん)としての力を与える。そもそも、そのぐらいの器がないと、生命を進化させる力を使うことができない」


 そして、俺に与えられる力が語られた。


 ファルダムの知的生命体の言語の習得。

 不老不死。ただし、不滅ではないとのこと。違いが分からない。

 頑丈な肉体と超再生力。

 神に匹敵する魔力。しかし、魔力の多くを進化魔法のために割いている。

 モンスターを見分ける眼力。


 主だったところでこんなものだそうだ。

 正直、あまりに大きすぎる力で逆に不安になってしまいそうだ。ただし、力があっても使い方が分からなければうまく戦えないだろうとのこと。

 まあ、ちょっとやそっとでは死なないというのが俺にとっては重要だ。

 ファルダムの世界そのものについて知識がほしかったが、イメージを見せることはできても、情報を記憶に転写するような便利なものはないらしい。残念。


 俺の心はすでにファルダムというまだ見ぬ世界に向けれらていた。

 パソコンとノート何冊かを完膚なきまでに破壊または焼却をすれば、この世界には未練はない。

 いや、趣味のアニメ、ラノベ、漫画、ゲームと別離しなければならないのは身が引き裂かれるようだけれども。

 それでも、俺は……!




 そして、俺はファルダムという世界で生きていくことになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ