犬。
第一部
僕は捨てられた、
僕の飼い主様は盛んに謝っていた、
お金が無い、と、言っていた、
だから、捨てられた、
僕に、憎い、と言う感情はなかった、
そんなものは知らなかったから、
悲しくはなかった、
周りには兄弟がいたから、
そうして、僕は捨てられた、
とても大きなダンボールで、
どこかの道の横に、捨てられた、
周りには雪が降っていた、
とても寒かった、
お腹も空いた、何時間も、何日も過ぎた、
僕等は大きなダンボールを越えることが出来ずに、
次々と死んでいった、
最後まで僕と兄貴が生き残った、
しかし、兄貴も死んだ、
最後に僕に、生きろと言って死んだ、
僕は悲しかった、
初めて悲しいと言う感情を知った、
だから僕は生きることにした、
兄弟の屍を越えて、
比喩ではなく、
兄貴の死体を踏み台にして、ダンボールを何とか抜け出した、
何とか抜け出して、少し歩いた、
しかし、僕に体力は残ってなかった、
僕は、雪の上に倒れた、
次に起きたときは、毛布の上だった、
僕を誰かが撫でている、
何だろうか、誰だろう、
飼い主様が戻って来てくれたのだろうか、
僕が顔を上げると、そこには見知らぬ少女が僕を撫でていた、
暖かい、
少女はなにかを言ってどこかに行ってしまった、
何を言っているか理解できない、
飼い主様のところに居たときはわかったのに…
少女は数分すると戻って来た、温かいミルクを持っていた、
僕はミルクを一気に飲み干し、
辺りの様子を見た、
飼い主様の部屋に似ている、
彼女の部屋なのだろうか、
僕は久しぶりの温かい部屋でゆっくり休むことが出来た、
次に起きたのは誰かの言い争う声が聞こえた時だった、
僕のうえで誰かが言い争っている、
一つの声は、あの、少女だと思う、
僕は眠たい目を擦り、うえを向いてみる、
そこには少女の顔と、少女のお母さんだと思う、女性が言い争っていた、
何を言っているかはわからない、
ただ、時々僕のほうを指差して叫んでいるから、僕の事を言っていることはわかった、
暫く、言い争っていたが、少女が泣き出して、僕を毛布と一緒に抱えて、走って行った、
少女は、僕を抱え、どこかに連れて来た、
多分、橋の下だと思う、
どこからかダンボールを持って、僕をその中に毛布と一緒に入れて、なにか言い残して、帰って行った、
僕は疲れからか、何も考えられずに、眠った、
翌日、彼女は来た、
温かいミルクを持ち、
一日に三度、来てくれた、
僕は嬉しかった、
こんな場所でも、僕は満たされていた、
でも、それも長くは続かなかった、
彼女は一日に二度、一度と段々少なくなり、
やがて、来なくなった、
だから僕は、自分でご飯を探さなくてはいけなくなった、
自分で生きるのは大変だった、
ごみ箱を漁り、他の犬とも喧嘩して、
それでも゛俺゛は生きていた、
長い月が過ぎた、
春が来て、冬が来て、春が来て、もう一度冬が来た、
そんなある日、僕は、少女を見つけた、
僕は、初めて、憎いと言う感情に囚われた、
憎い、憎い、憎い、憎い、
あの女の我が儘のせいで…
俺はこの時、一帯の野良犬のボスになっていた、
俺は、その力を最大限に使い、彼女を殺してやろうと思った、
俺が彼女を見るのはたいてい、夜7時くらいだった、
だから、人通りが少ない場所を選んで、犬達を待ち伏せさせて、一斉に噛み付いて、首を掻っ切って、殺した、
泣きわめく彼女を引っ掻き、噛み付き、殺した、
肉と骨は、部下の犬達が全て食べてしまった、
残ったのは、地面に広がる、真っ赤な血のあとだけだった、
もしかしたら、俺はこの時、狂ってしまったのかも知れない、
第二部
私はある日、犬を見つけた、
見つけたと言っても、犬が後ろをついて来たのだが、
犬はあまり年をとっているわけでもなく、とてもかわいらしかった、
私が近づくと、尻尾を振って、私のほうについて来てくれた、
とてもかわいく、首輪も付いていなかったため、私は、この犬を飼おうと思い連れて帰った、
私が一緒に帰ろう、と言うと、犬は、尻尾を振って、ワン、と軽く吠えた、
私は小さく薄汚れた貸家の自宅につくと、犬の足を洗い、風呂場に入れ、犬を洗ってあげた、
犬は嬉しそうに尻尾を振っていた、
犬を洗い終え、夕食を作ろうと、台所に立ち、何気なくテレビをつけると、ちょうど、ニュースがあっていた、
最近起こっている連続失踪の話題だ、
なんでも、性別年齢問わず、一人暮しの人が、大量の血痕を残して、消えてしまうんだそうだ、
死体は見つかっていない、
だから、まだ大量失踪事件のままだった、
犬は、テレビを食い入るように見ていた、
だが、私が夕食を持っていくと、喜んで食べ始めた、
そうだ、名前を付けないと、と、私は思った、
少し悩んだが、犬の名前はポチに決めた、
ポチはいつの間にか寝ていたから、私は、毛布をかけてあげた、
外には、雪がつもり始めていた、
翌日、朝、なにかの気配で目が覚めた、
目を開けると、目の前にポチがいた、
なんだかポチの顔が、昨日の顔とは違う気がした、
私は少々驚いたが、時間が無いことに気付いて、慌てて朝食を作り、ドックフード買ってこないとな、と考えながら会社に向かった、
夜になり、私は仕事を終え、10キロもあるドックフードを抱え、よろめきながらも、歩いて帰って来た、
家に帰るとポチは、尻尾を振って、迎えてくれた、
やっぱり朝は気のせいだったんだと重い、皿にドックフードを乗せ、私の夕食を作り始めた、
なんだか、ポチが、私を睨んでいる気がした、
朝、今日もポチが私の目の前にいた、
なんだか、怖かった、
何時、ポチが私に噛み付くか、心配でならなかった、
しかし、私が起きるとポチは、尻尾を振りだした、
私は怖かったが、とりあえず、ドックフードを用意して、足速に仕事に向かった、
夕方、私はポチがいつ噛み付くか、心配になってスタンガンを買った、
人間でも気絶するのだから、犬くらい倒せるだろうと、思った、
私は家に帰り、いつものように夕食を終え、床についた、
翌朝、起きると、ポチが大きく口を開け、目の前にいた、
私の感覚は正しかった、
私がポチをなんとか殴り、距離を離すと、ポチは本性を表したのか、私に走りかけて来た、
私は、昨日買ったスタンガンを使って、ポチを殺した、
私が、ポチを殺した、
スタンガンでポチを殺した、
私はなんだか怖くなり、家を飛び出した、
私は早朝の街を走った、走ったが、結局行くところはなく、家に帰った、
そこには、ポチと犬が沢山いた、
ポチは死んでいなかったのか、スタンガンでは死ななかったのか、
そんな事を考えていたら、ポチと犬達が一斉に襲い掛かって来た、
私は、驚きつつも、なにか武器は無いかと探した、
よく見ると、私の手にはまだ、スタンガンが握られていた、
私はスタンガンを使い、犬達に押し当て続けた、引っ掻かれ、噛み付かれながらも、私は何とか耐え切った、
だが、ここで私は、心配になった、
ポチは死んではいなかった、じゃあ、ほかの犬も死んでいないのではないか、
心配だった、怖かった、だから、刺した、
包丁を持ち出し、刺した、
皆、全て、刺した、
私は漸く安心できた、
そうしていると、家の前の道に犬が現れた、
犬は首輪をしていたが、スタンガンを押し当て、刺した、刺した、
そうしていると、近所の家で犬が鳴いていた、だから、そいつも刺した、刺した、
沢山、沢山、犬を見る度に刺した、
私はいつの間にか警察にいた、
何を言っているのか、わからない、
私は正当防衛しただけだ、しかし、いくら言っても、警察は信じてはくれなかった、
しかし、私が捕まることはなかった、
私は精神病院にいれられた、
…私はどこも悪くないのに、
いつの間にか、私は夢を見るようになった、
犬達が沢山向かってくる夢を、
私は疲れた、
何故私ばかり、こんなに苦しまなければいけないのだろうか、もう、私は疲れた、
全てに、疲れた、
だから、もう、終わらせることにした、
私は、病院の屋上から飛び降りた、
私は疲れた、
ようやく、これで開放される、
そう考えると、私は幸せだった、