a few minutes
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がらがらに空いた電車内。
こんな時間じゃ当たり前か、腕時計に目を落とす。
6時17分。
あ、6に1足したら7だな、なんて、完全な暇人じゃん、と閑散とした車内で一人口角を少し上げる。
見渡す限り、同じ車両に確認できた人の数は、5人。
スーツを着、うたた寝する男の人が二人。朝早くから、お疲れ様です。
派手なワンピースに身を包み、二席分で寝息を立てているお姉さん。
大きなリュックと、スーツケースを持つおじさん。これから彼は、どこに行くんだろう、とか考えてしまう。
それから、
俺の座る席の真正面に座っている、女子高生。
俺同様、朝練だと思われる。白地に青でアルファベットが綴られたラケットバック。
毎日朝練に通う俺は、週に2、3回、こうして彼女と向かい合う。
多分、彼女も俺を何となく覚えてはいるだろう。
あ、また乗ってる、みたいな感じで。
俺は、彼女が携帯をぱちんと閉じて、目をつぶる瞬間が好きだ。
そんなこと、口が裂けたって言えないけど。
6時19分。
俺が降りる駅には、大体6時25分位に到着する予定だ。
彼女はいつも自分より後に降りるけど、どこまで行くのだろう。
かつっ
静かな社内に、彼女の携帯が落ちた音。そのままそれは、俺の方に滑ってきた。
「あ、すみません」
初めて聞いた彼女の声は、少し高めで、耳に心地良かった。
「いや、はい」
拾い上げて立ち上がり、彼女の元へ歩を進め、小さい手に、白い携帯を運ぶ。ストラップは多分イニシャルの入ったキーホルダー。M.T。俺と同じだった。
「あ、」
彼女が小さく声を上げた。
「え、」
「あ、すみません、イニシャルが一緒だったんで」
「ああ、ね、偶然」
俺のシャツの袖口に刺繍してある二文字を見つめたまま、少し静止する彼女。
「何て、名前」
沈黙に堪えかねて、俺は口を開いた。
「高田舞子です、えっと」
「高崎誠です」
まさかお互い、自己紹介することになるなんて思わなかった。
とくとくと鼓動がやけにうるさいのは、緊張しているからだ。
6時23分。
「どこの駅でしたっけ」
吊革に掴まったままの俺に彼女が聞く。
「あ、次です」
かたたん、かたたん
時間に追いかけられるように、その車輪を急がせる電車の足音。
「えっと、どこの駅ですか」
名前は呼べなかった。
かたたん
「終点です」
かたたん
「学校まで遠そうですね」
「ちょっとだけ」
かたたん、かたたん
6時24分。
あと、一分。
いやもう、あと50秒くらいか。
電車は俺を笑うように、速度を上げる。
かたたん、かたたん、かたたん
「じゃあ、俺次なんで」
「あ、うん、携帯ありがとうございました」
かたたん、、かたたん
息切れして、車体をゆっくり揺らす奴は、停止位置を探してのろのろと歩く。
「あの」
突然響いた彼女の声にびくっとした俺を見て、ふふっと笑った。
かったん、かっったん
「またお話してください」
しゅー
「俺も、話したいです」
――ドアが閉まります
「じゃ」
――ご注意下さい。
「 」
声は届かなかった。
かわりに、満面の笑顔が、俺を朝の明るい光の中に、送り出してくれた。
6時26分。
ありがとうございました。良かったらアドバイス等、よろしくお願いします。