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第九話(加筆版)

2012 6/11 誤字脱字などを修正致しました。

「どうか致しましたかお兄様? それともわたくしのニホンゴが間違っているのよさ?」

「パパにさわらないでっ!」

「フゥーッ!」


 ヴラドが硬直していると、逸早くエルとリアンが中から抜け出しヴラドに抱きついてきた少女を引き剥がし、それぞれ敵意を剥き出しにする。

 同時に少女が口にした情報がヴラドを更に混乱に叩き落す。


(いや、それより日本語・・・と言ったか、今?)


 茫然自失となっていた耳に届いたありえべからざる情報に無意識で反応するが、それもすぐに少女の言葉でかき乱されてしまう。


「別に貴女のお父様を取るつもりはないのだわ。ただ、このお方、ヴラド=ツェペシュは今日からわたくしのお兄様にもなるのだわさ」



 そう言ってやや語尾が可笑しい気がするものの、随分と流暢な日本で喋りながらエルの本気雑じりの一撃を片手で楽々といなす少女。

 リアンに至っては懸命に爪と牙をその滑らかで白い肌に突き立てようとするが、何か見えない壁でもあるかのように、少女の肌数ミリ前より先に爪も牙も進める事が出来ない。

 エルもむきになっているのかヴラドから離れると、そのまま両手両足、ヴラドから学んでいる素手による基本的な格闘術を駆使するも、これまた容易く動きの基点を潰され行動を制御されてしまう。

 確かに数年足らず、それこそ遊び混じりとは言え、大振りな一撃で視線を集め、狭まった視界から死角を突き、消えるように接近、そこから素早い押し出し、あるいは重心を見極めた体勢を崩す一撃。

 それらをあっさり返すのはしっかりとした技術を身に着けていなければ難しい。あるいはそれを可能とするだけの圧倒的身体能力の差か……

 年齢は恐らくエルより確実に上だろう。見た目だけで判断すれば年の頃十四、五歳くらいだろうか、少なくともかなりの実力者には違いない。



「鬱陶しい生き物だわね。焼いて食べてしまいまいますわよ?」

「フニャッ!?」


 見えない壁にもめげずに爪を突き立て、牙で噛み付こうと奮闘していたリアンがあっさり首筋を掴まれ、少女が発した恐ろしい言葉に一瞬にして尻尾をだらりと力無く下げる。

 

「確か、エル……であっているのだわさ? そう邪険にしないで欲しいのよ。私に敵対する意思はないのですから。それどころか、お兄様のお役に立てること間違いなしなのよ?」



 ヴラドの役に立つ、敵対の意思はない。と言う二つの言葉にエルの拳が下がる。

 まだ完全に信用した風でもない証拠に、その瞳にはありありと敵意が浮かんでいるが、とりあえずは話を聞く気にはなったらしい。

 そこにきてようやくヴラドも己の醜態から舞い戻る。無理も無い、いくらこの世界に来て人ならざる者となったとしても、年頃の少女がいきなり破裂した蟻の下から水が染み出すように登場し、なおかつ全裸でお兄様発言である。

 精神的な訓練を積んでいる身とは言え、あまりにも予想外。インパクとも強すぎであった。そもそも訓練に関しても大半が苦痛に対するものであったのだから、致し方ないと言えた。

 時間にして数分。少女がヴラドを殺す気であれば、とうに消滅させられていただろう。

 少なくとも見た目で実力の判断は無謀であるし、こんな場所にいる時点で弱者である筈もない。現に少女はあっさりエルを手玉にとって見せたのだから。

 聞くことは山ほどもあるが、取り敢えずとるべき言葉は、とヴラドは思念を飛ばす事にする。



『エル。とりあえず話しを聞こう。リアンもあまり無茶はするな。そして君――――』


 とそこで少女の名を知らない事に気づく。一瞬の逡巡の後、再びヴラドは口を開いた。 


『すまない、よければ名を教えてはくれないか。私の名前はヴラド=ツェペシュ、一度名を捨て、新たな人生を歩むことを決めた亡霊だ。この娘は私の子で、名をヴラド=エルジェーベトと言う。こっちの子猫も私の家族で、名を同じくヴラド=リツゥアノーンと言う』


 そうヴラドが切り出すと、少女が「ふふ、これはご丁寧に有り難う御座いますわ」と、見た目にそぐわない艶やかな笑みで全裸のまま、無い筈のスカートを幻視するような、それは見事な礼をしてみせる。

 堂に入ったその仕草は短い期間で身に付くようなものでは決してない。ますます少女の正体があやふやとなる思いだ。

 そのまま下から覗き込むようにヴラドを見つめる瞳は深い緑。まるで大森林を押し込めたような輝きである。


わたくしの名前はロザリンド、ただのロザリンドだわさ。そして、今日からはヴラド=ロザリンドとなる者なのだわ。どうぞ、串刺し公のお兄様におかれましては是非、ロザリーと呼んで下さいまし」



 その言葉からは少なくともヴラドでは嘘を感じ取れない。常識など通用しない異世界だ、ヴラドの知らない方法で嘘を誤魔化している可能性もある。

 が、どうもこれはヴラドの勘ではあったが嘘はやはり吐いていないと思えた。本気でヴラドを兄と慕おうと言う気持ちだって伝わってきている。

 少なくともそれで今までの言が嘘であるのならば、ヴラドの世界で即大女優の仲間入りは間違いないだろう。直ぐに返事をしない為か、よく見ればその瞳が僅かな不安に揺れている。

 エルより年上とは言え、その容姿はどうみても少女と呼ぶべきものだ。そんな娘が上目遣いで内心どうあれ、不安気な表情を見せている。

 ヴラドは何かと言うと子供が好きだ。それは子を育てた経験によるものだが、父としての役割を気に入っている為でもある。



『先に一つだけ聞いておく。後の質問はすべて後回しだ。ロザリンド(・・・・・)、君は私達を身命に誓って害しないと誓えるか?』



 内心で溜息を零し、たっぷり一分以上の間を置いてようやくヴラドは思念を発した。

 ここで必要なのは身の安全である。すべてはそれを確保した後に聞けばいい。この問いも真実相手次第であることから、効力に期待はできないが、それでもないよりはマシだと口にする。

 かなり譲歩した内容だ。相手の実力の底が不明な為、この程度しか急には用意出来なかったと言い換えてもいい。

 ヴラドのロザリンドと言う、あえて愛称を拒否した呼称にほんの僅か、それこそヴラドですらぎりぎり気づけるかどうかの一瞬、酷く傷ついた表情を見せ、即座に元の薄っすら笑みを浮かべた表情に戻ると一呼吸置き、同時に一度閉じた瞳を見開きロザリンドは口を開いた。

 


「お兄様。私は本気なのだわさ。私こと、ロザリンド(・・・・・)は―――その刻みし“真の名”に掛けて、この場に居る二名と一匹に対し如何なる害も及ぼさないと誓うのよさっ!!」



 声高らかに響き渡るロザリンドの言葉。しかし、それは言葉以上の意味で効果を発揮した。

 魔法と呼ばれる、未だヴラドには未知の領域たる世界。その中でも真名・・と呼ばれる、魂に刻まれた名を使った最高レベルの契約。

 それを用いた誓約の魔法を使用したのだ。ヴラドがロザリンドの身より放たれた、その新緑色の光に咄嗟に警戒を示す中、光はロザリンドを中心とした数メートル規模の魔法陣と化し、幾何学模様を形成する。

 陣事態が淡く黄緑色に輝く。それはヴラドが初めてこの世界で見た“魔法”であった。

 光そのものが幾何学模様を描いていき、陣が完成したのを見て、どことなくロザリンドが緊張した面立ちで口を開く。



「さぁお兄様。不安かもしれませんが、どうか一滴の体液を私にお与え下さいまし。それで“誓約”の魔法は成就し、私ことロザリンドは、一切の危害を与える事が出来なくなるのよさ。これを破れば身の破滅を齎す世界最古にして最高の契約魔法なのだわ。例えお兄様が私にいかなる危害を加えようとも、この魔法の完成を持って、私はお兄様に抵抗すら許されない身となるのだわさ」



 そう言ってそっと手のひらをヴラドに差し出すロザリンド。よく見ればその手は小さく震えている。

 それはそうだろう。彼女はこの魔法により、身を守ることはともかく、一切の反撃を許されない身となるのだ。

 言い換えればヴラド達に命を明け渡すにも等しい所業だ。どうしてそこまでするのか、それはロザリンドならぬ身たるヴラドには計り知れない事である。

 ヴラドは迷う。この魔法が本当に言った通りの内容である保証はない。が、やはりロザリンドが嘘を言っているようにも見えなかった。

 多少の嘘を見抜く訓練は積んでいたが、それ以上にロザリンドは感情の揺れがあまりに自然すぎるのだ。他にも勘としかいいようのない部分、こうして未だ襲ってはこない事、上げれば幾つも挙がるのだが……

 その顔はやや薄暗い空間で判別し難いが、明らかに青褪めているように見える。魔法を知らないヴラドですら、この誓約が一歩間違えれば死を招く程恐ろしいものだと理解出来るのだ。

 行使者たるロザリンドからすれば、きっとなお恐ろしい恐怖だろう。もしかしたら使用するだけでも何かデメリットが発生するのかもしれない。



 触手を伸ばそうとして引っ込める。それを幾度も繰り返す。エルもリアンも無言だ。その瞳に映るのは家長たるヴラドの意思に従うと言う無言の光。

 だからこそ、その期待がヴラドに容易な選択を許してくれない。ヴラド一人であれば、これだけの本気を見せた少女に納得し、誓約を止めただろう。

 だが今のヴラドは家長なのだ。一つの判断が下手をすると、己以外の命まで冥府に引き摺り込みかねない。

 遠い昔、子の責任は親の責任だと教官が重い罰則を被ってくれたことがあった。同じく、紛争地域にて瀕死の子を同じ子として迎え入れてくれたこともあった。


 ならば、今のヴラドに出来る事とは一体何か? 少なくとも教官を敬い、師と、親と仰いだ己に出来る事とは――――


 ヴラドは家族と言う絆を大切にしている。その結果が彼の人としての最後の幸せな老衰だろう。家族全てに見守られ、温かな中で死去した彼はその時代では酷く稀有な最後と言えた。

 切っ掛けはとても些細なことではあったが、ヴラドは教官との出会い以来、自身の命と等しいくらい家族を大事としてきた。

 だからこそ己の意思と言うべきものと、家族と言う言葉がぶつかり主張を繰り返す。一体どの道こそが最善であるのかと……



「パパ」

「ニャー」



 幾度も迷うヴラドの背から、その家族の声が届く。信頼に満ちた、まるでヴラドなら当たり前のように全てを任せられると、そう言われたかのような信頼感。

 それを機に、ヴラドが腹を括る。答えは最初から出ているではないか。ならば、ここで取るべき選択肢もまた既に決まりきっている。

 そして、ヴラドは先程までの迷いを感じさせない雰囲気で触手を動かした――――





 ――――伸ばされた触手はロザリンドの手に収まり、そのまま先端からぽたりとその体液が零れ落ちる。

 ヴラドに表情はないものの、その気配から尋常ならざる決意が窺えた。それは一体いかなる決意なのか、ロザリンドには分からない。


「いい……のよさ?」


 思わずと、そう呟いたロザリンドの声は小さく震えており、端には深い期待と脅え、そして安堵の感情が揺らめいている。

 信じたい。けれど裏切られるのではないか。自分の精一杯は伝わったのだろうか……

 渦巻く感情は瞳にしっかりと現れ、だからこそヴラドは言葉を口にする。感情は時に言葉にしなければ伝わらないのだ。


『私のみの本心で言えば、この誓約などなしに君を迎え入れたい。しかし私はこのヴラドの家長なのだ。迂闊な判断はそう取ることは出来ない。それでも私はこの誓約が本物であると信じてみようと思う。なぜなら、君は私の家族となるのだから。それなら家族を信じるのは当然だ。なんら問題はないだろう?』

「……ぁ…っ…」



 ヴラドの言葉にロザリンドが何か口にしようとするが、しかし漏れ出るのは嗚咽のみであった。

 綺麗な深い森林を讃えたような色合いの瞳からは大粒の涙が零れ落ち、その白皙の肌を静かに伝い地面に落下していく。

 エルとリアンの安全を最大限考慮するのであれば、この案は正直あまり褒めたものではない。

 それでも、ヴラドは少女の願いを見捨てる事は出来なかった。今確かに、ヴラドは在りし日の教官の気持ちを理解していることだろう。

 血よりなお強固な絆、それは家族と言う。誰をも疑うのは容易いことだ。それを踏み越え、時に相手を信じることもまた重要な意味を持つ。それは彼がアメリカで教官から得た価値観でもある。

 顔を俯かせ、静かに嗚咽を漏らす少女を黙って見守るヴラド達。エルもリアンも先までの反発が嘘のようだ。



わたくしを信じてくれて有り難うなのよ……ロザリンドの命、お兄様に預けるのだわ。さぁ、ここに最も古く強力な誓約を! 魂に刻まれた真の名と、一族の長足る者の一部を持ってここにその成就を!!」



 暫くし、目元を少しだけ赤くした少女が面を上げキリっとした凛々しい表情で高らかに宣言する。

 同時魔法陣が回転し、そのまま新緑色の発光を一際高めては周囲を照らし出す。

 発光が数秒持続した後、緩やかに収束し、魔法陣は煙が掻き消えるようにして霧散する。

 するとすっ、と、その白く細いロザリンドの右腕がヴラドの前に差し出される。

 何事かと視線を腕に映せば、そこには先程までは見当たらなかった赤いラインが手首に記されていた。

 丁度手首周りを一周し、円となっているライン。それをエル達にも見えるよう腕を掲げると、ロザリンドは口を開く。



「これは誓約の証なのよさ。この誓約は私に消滅が訪れるその日まで解けることはないのだわ。これがロザリンドの差し出せる誠意。だから……その――ヴラドお兄様と、そう呼んでもよろしいですか?」


 ちょっと上目遣いでヴラドを覗き込むロザリンド。声音は随分としっかりしているが、その実その裏には不安が見え隠れしている。

 一体どうしてこうも不安となるのか、ロザリンドの過去に関係あるのか、それは分からない。それも何れ彼女が語ってくれるだろう。

 自身に表情が無いのを恨みつつ、出来るだけ柔らかな響きを意識してヴラドは思念を放つ。


『ああ……確かに。ロザリー、君の誠意を私は受け取った。ようこそ、私の――――ヴラド家に。今日から君はヴラド=ロザリンドであり、私の妹だ……ただ一つ、私からも頼み事がある――』







「お兄様、本当によろしかったのよさ? お兄様だけではなく、エルにリアンまで巻き込むだなんて……本当に後悔しないのだわ?」


 さん々と日の光が差し込む“大草原”の途中、今まで無言であったロザリーが口にする。

 心配しているのはヴラド達だと言うのに、その声音からはまるで自分のことの様に心配しているようにも思えた。


「パパがきめたことだもん。エルはいつだってパパがいちばんだからだいじょうぶだよ」

「なぁー」


 ヴラドの触手を掴み、もう一方でエルとは違い“黒白のゴシックドレス”を身に着けたロザリーの手を握り、にこやかな笑みを浮かべる。

 その姿は在りし日の、まだヴラドが若かった頃、妻とヴラドの間に子を挟んで経験した光景の焼き増しのようであった。

 その酷く懐かしい光景に、一抹の郷愁の念と。それを大きく上回る思いがヴラドを包み込む。己の選択肢はきっと間違っていなかったと、そう証明してくれている気がするのだ。



『だ、そうだ。私としても心苦しかったが、こう言う時こそ家族は一致団結するべきだろう?』

「でも……同じ誓約を全員がするなんて……」

『なに、家族は家族を傷つけない。ならば、この誓約に一体どれほどの枷があろうか。家族となった瞬間から、誓約などなくとも、見えない誓約は適っている。それに、家族一人に肩身の狭い思いをさせるのは、家長としては見過ごせないだろう?』



 そう言って最早癖となりつつ頭を撫でる行為をロザリーにも行う。ロザリーが口にした通り、あの後ヴラドは同じ誓約。

 つまりはロザリーを一切害せないようにする誓約を行ったのだ。証拠にその核には赤いラインが走っている。

 見ればエルも左手首に、リアンも右前足に同じものがあった。術は無論ヴラド達には使えないのでロザリーが行使したのだが、この術は害すると言う項目には当て嵌まらないらしい。

 ロザリー曰く、害しようとすると、まず警告のように魂に直接作用する激しい痛みが走るとのことだ。

 実はかなり特殊で高度な術らしく、その判別の精度も相応に高いのである。



「お、お兄様! 私こう見えてもう三千歳近いのだわさ!? こ、子供扱いはよして欲しいのよさ!」

『精神と年齢に関係はない。それに私は兄だ、ならば何も問題はないだろう』

「それはそうだけれども……でも、恥ずかしいのだわ」



 そう言ってほんのり頬を染めるロザリー。曰く、それこそこの世界に生を受けて一度も頭を撫でられた事がないらしい。

 そして、ロザリーは本人の自称だが既に封印されていた期間を含めると三千歳近いと言う。

 封印。彼女はあの樹海の最深奥の地下、それこそ女王蟻のいた場所より更に下で封印されていた。

 当時、魔神と言うこの世界でも上位に位置する力のヒエラルキーに属していた彼女はその力に溺れ、この世界で好き勝手してきた。

 そして結果的にとある勢力に目を付けられ封印されてしまう。

 そうして今回の一件までおよそ五百年以上を暗い地下で過ごす事となる。眠るような封印ではない。それは意識のある、身動きの出来ない拷問のような封印だ。

 その孤独は一体どれだけのものであったのだろうか。ロザリーならぬ身であるヴラドには知る事は出来ない。



「エルはパパにあたまなでてもらうのすきだよ?」

「にゃー!」

『だ、そうだ。そのうち羞恥心も消える、何も問題は無い』



 リアンにまで鳴かれ、とうとうロザリーが白旗状態となる。恥ずかしいと言うが、それは別に撫でられるのが嫌いな訳ではないのだろう。

 事実、ヴラドに撫でられているロザリーの顔には心温まるような笑みが浮かんでいる。

 ロザリーが空を見上げる。今日は晴れで、時刻も昼過ぎ。当然空は澄み渡る青、そして温かな気温。だが、ロザリーにとって数百年ぶりの空気の味であり、青であり、風であった。

 少しずつ自力で封印を破り、ちょっとした能力を行使出来るだけの余力が出来たのはヴラドがこの世界に来た僅か後。

 そしてヴラドの行動をひっそり魔法により眺めていたロザリーにとって、エルとヴラドの関係は酷く眩しいものに見えたのだ。

 更に言えばその扱う言語も酷く懐かしく、思わず夢を使い語りかけてしまったのは許して欲しいとロザリーは思う。

 それでもこうして結果的には大地の下で、こうして歩いていける。懐かしい言語は既に忘却した筈の古い記憶を疼かせる。溢れる郷愁、言い知れぬ感情の高鳴り。



 気付けば封印から近い場所に巣を作っていたフォレストアントの女王蟻を操り、それを通じて他の蟻を支配し、ヴラド達を封印の場に最も近い巣の最奥へと導いた。

 フォレストアントも女王を介した為か、命令に齟齬は発生するし、ロザリーも実はかなり焦っていたのだが、結果よければすべてよしとは良く言ったものだ。

 自我の薄い存在を支配するくらいは可能であったが、逆に直接ヴラド達に思念を飛ばすのは難しかった。それでも何度か繰り返してみたのだが、結局まともに通じたのはフォレストアントが暴走した時くらいである。

 感情の波は一時的に力に変化を与える効力がある。間近でヴラド達を感じれれば、高鳴る感情もあいまって封印から抜け出せる……

 そう思っての行動は的中し、あまつさえロザリーは三千年の時の中でついぞ得られなかった家族を手に入れる。

 それは予想通りとても温かく、ロザリーの心を癒してくれた。本当は口にしたい言葉がある。

 でも、それを言うには少しロザリーのコミュニケーション能力は欠如していて、羞恥心が邪魔をする。

 だからヴラドには聞こえないと知りつつ、ロザリーは心の内で口にした。




(ありがとう)


 と。






後書き


加筆作業終わった! まぁ、冗長と言うなの作業でしたが、そこは次回に活かすとします。

加筆量はざっと二万字……ぉぉ、普通に六話分くらいの量ですねw

やっと続き書けます。次はまたちょい展開がある意味様変わり、ある意味ようやくか! を迎えます。


それでは、感想や評価、お気に入りに誤字脱字報告、心よりお待ちしております^^

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