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第三十三話

前話投稿後から書き上げたので、まだ誤字脱字確認していません。

後ほど読み直し、修正致します。

 天使を名乗るソリュンシャンから別れて一時間。

 道無き道。それこそ岩肌むき出し、苔むした地面を踏みしめヴラドはリィーン山脈を進む。

 同じ道をロザリーはともかく、エルも歩いたのかと思うと負担になりはしなかったかと心配になる。

 確かに頑丈な娘である。吸血鬼と言う種を知らないに等しいが、それでも驚くほどだ。

 しかし、まだその身は幼く、成長途上。

 今のような無理な行動がその成長にどんな悪影響を与えるか分からない。

 気持ちとしては既に立派な父親のソレだ。


(まぁ、ロザリーがついてるんだ、そう滅多なことにはなってない筈だが)


 純粋な力量においては無論、この世界における知識もロザリーはメンバー随一を誇る。

 ふと、そう言えばリアンは大丈夫だろうかと一抹の不安が翳った。

 最後、女魔神へと挑む時はロザリー達について行ったのは見えたが、逸れてはいないだろうか。

 元来は野生に生きていた身だ、最悪一人でも生き抜くことはできるだろうが、リアンも立派な家族である。

 叶うのであれば、全員五体満足で再開したいものであった。


『魔獣達の気配が近づいてこない……天使の残り香の効能と言ったところか?』


 急斜面を上手く登りながら、自身が発せられる清浄なる気について考える。

 言うまでもなく、それはソリュンシャンの言わば残り香だった。

 低級の魔族や魔物、魔獣なんかはその聖なる力を恐れてか近寄ってこない。

 一時間も経つのに未だ纏わり付いているのは、もしかしたら意図的に守護を付与してくれたのだろうか。

 地球の知識が当て嵌まるかどうか不明だが、少なくとも我欲に生きる魔族や魔神とはまた違う生態のようだ。

 ただ、その発言からどうも天使の情勢は魔族に押され気味だとも判断できた。


(まぁ、いずれ詳しく知る機会もあるだろう。里に着けばその辺も聞けるかもしれない)


 そう思考し、小さな沢を飛び越え険してきた奥地に入り込んでいく。

 鋭い嗅覚は人の頃とは比べるまでもないが、濃密な緑の匂いに遮られてエル達を捕捉するには至らない。

 竜が住まう地はどうも時折感じる気配から、更にずっと奥のようだが、浸入するのも大変だろう。

 翼でもあればその限りではないだろうが、残念ながらヴラドには四足しか存在しない。


『……流石に疲労するな』


 相当体力は人間の頃より増しているし、四足のお陰で斜面などにも対応しやすい。

 それでも足場は不安定だし、急な斜面は容赦なく体力を奪い去っていく。

 沢で水分を補給し、木の実の類で腹を満たしつつ進んでいるが流石に辟易してきた。


『これは――風、か?』


 ふと、前方から――ひゅるるるる――と、通路を通り抜けるような風音が聞こえてくる。

 休憩しようか悩んでいたが、この手の音は渓谷だと知識から想像し進む。

 



『これ…が、蛇竜族ナーガの里?』


 木々が急に開けた先に広がったのは、幅数百メートルに達し、深さも同規模の大自然の要塞、大峡谷であった。

 先程の風音は、この峡谷を通り抜けたものだったらしい。


『何度かこの手の風景は実際に見てきたが、これほどの規模は初めてだな』


 あまりにも絶景。巻き上げられた風は強風となり、ヴラドの毛を逆撫でていく。

 その風に乗って香るのは生活臭。間違いなく、文化を持つ生命が住んでいる証拠だ。

 

『しかし、何所から降りればいいんだ、これは?』


 眼下の大峡谷はどう見ても生身で降りられる類のものではない。

 なんせ切り立った崖はまさに重直。

 今も足を踏み外せばそのまま遥か下の河川に衝突、恐らくは即死するだろう。

 それこそ羽でも生えてなければ無理だ。


『……迂回して、降りられそうな場所を探すしかないか』


 もうすぐロザリー達と再会できるかもしれないと思ったばかりに、落胆は中々心に染み入る。

 

(上流はより山肌が険しくなるようだし、下流に下った方が得策か)


 瞬時に判断し、山を下るように崖沿いを歩いていく。

 今でこそ優々と歩けるが、もし人の身であれば早々に峡谷に落ちていたかもしれない。

 非常に高いビルの屋上などから、下をじっと見ていると、ふとそのまま落ち込んでいく錯覚に陥ることがある。

 どうもこの峡谷はその類が強いらしく、あまり見つめていると足を踏み外しかねない。

 尤も、そこは獣としてのバランス感覚は流石と言ったところで不安足り得はしなかったが。


『……?』


 降りられそうな場所を探し初めて三十分近く。

 ふと、何か奇妙な感覚を感じ取った。

 言葉にするのは難しいのだが、あえていえば、ロザリーが魂術を扱う時の空気に近いだろうか。


(断ずることはできないが。つまり、この辺りは魂術が掛けてある。あるいは、痕跡が濃い?)

 

 残念ながらヴラドは魂術を扱えない。正確には扱う方法を知らない。

 炎を操るのは言わば先天的であり、手足を動かすに等しいと言えた。

 が、魂術は言わば学問にも通じるものがあり、センスと知識を要する。

 つまり、何が言いたいのかといえば、違和感こそ感じられるものの、ヴラドには現状その違和感の正体を突き止める術がないのだ。


『とは言え、もしかしたら結界の類かもしれない。なんとか暴く事はできないか……』


 空間を閉ざしたり、分けたりといった、言わば結界。

 ロザリーには大雑把にだがそんなものも魂術にはあるのだと、教えられている。

 もし今の違和感がそれに相当するのであれば、峡谷への入り口の可能性もあるのだ。

 どうにかしたいのだが、どうにも出来ないむず痒さがヴラドを苛む。

 炎は確かに燃やす対象を区別出来るが、非常に集中力を要するし、力技を行って里に敵対行動ととられてはかなわない。


『これはいっそずっと下流まで下るしかないか?』


 なにも入り口は一つではないだろうし、ここがそうとも限らない。

 ――そう己を慰めその場を立ち去ろうとした瞬間。

 

(ネックレスが発光して!?)


 首に掛けた、セリュンシャンから譲り受けたネックレス。

 それが青白い燐光を放ち、ゆらゆらと揺れ始めた。

 一体何事かと警戒するが、更なる驚きに言葉が出ない。


 今まで何の変哲もない崖だと思っていた場所が、まるで薄布を裂くように変化していく。

 空間が剥がれ落ちるような奇妙な現象に、魂術の強大さを目の当たりにした気分だ。

 やがて完全に今まで違う景色が姿を現した。

 幅数メートルのなだらかな道。先は峡谷の下まで続いている。

 一度目視したからか、見れば対岸の方にも同じ道が確認できた。


(一種の防衛策だろうが。セリュンシャンからネックレスを貰っていなかったらと思うと、あまり考えたくないな)


 最悪下流に下っても、峡谷の入り口自体同じような術で隠されているかもしれない。

 そうなるとヴラドにはお手上げだろう。

 エル達であれば、ロザリーが何か手段を持っていそうだがいいが、これは魂術を本格的に学ばなければと内心で呟く。

 踏み外せば果実が潰れるようなことになるのは間違いないので、慎重に下っていく。

 あまり想像したくないが、最悪この道自体がなんらかの罠の可能性もあるのだから…………






 と言うこともなく、十五分以上かけてとうとう峡谷の真下にまでたどり着く。

 中央には幅百メートル程の川が流れ、周囲は大小さまざまな岩がじっと佇んでいる。

 近くに滝でもあるのか、重く、響くような重低音が耳にまで届いてくる。

 そんな中、上流に向かうように歩くこと一時間近く、明らかに人工物とわかるものが眼前に現れた。

 高さ十数メートルのバリケード。いや、丸太を編んで作られた門だろうか。

 その一本一本の太さはヴラドにも勝り、更には魂術の気配まで感じられた。


『誰か、誰か居ないであろうか!! この里にエル、ロザリンドと名乗る者が居るはずだ!! 私はその身内である! どうか門を開け、招き入れてほしい!!』


 一抹の不安、緊張を隠すように念話を高らかに張り上げる。

 やがて、一分、二分と経過し、更に数分が経つが音沙汰がない。

 もしや門番は不在なのか。あるいは無視されているのかと暗い思いが蔓延る。


『門番よ! 居ればどうか応えてほしい! 我が名はヴラド=ツェペシュ!! セリュンシャンよりこの地の門番に見せよと、一つのネックレスを預かる者なり!!』


 これでも無理なら別の手段を考えるしかないか……

 そう諦めも念頭に置いて発言したのだが、一瞬にして空気が変わった。

 今までは、どことなく監視するような、警戒するようなものであったソレが、慌しいものへと変わったのだ。

 その急激な変化にはヴラドも驚きを隠せない。

 蛇が出るか鬼が出るか、生唾を飲み込み待つこと数分、重い音を立てながら目の前の門が開いていく。


『おお! まさしくそれは“約定のネックレス”我等一族と、かの天使と結んだ約束の証!!』


 中から出てきたのは、高さにして二メートル程の下半身が蛇で、上半身が女性の魔族であった。


『この装飾の由来はわからぬが、これを門番に見せよとソリュンシャンから言われている。どうか中へと入れてもらえぬだろうか』


 ヴラドの言葉に、顔をケープのようなもので隠した黒髪のナーガ考え込むように唸る。

 閉鎖的だと言っていた通り、どうも簡単にはいかないようだ。


『いいでしょう。元よりそなたの名前はロザリンドより聞き及んでいます。試すような真似をして申し訳ありません』

『いや、見知らぬ者を警戒するのは当然だろう。なんせ魔族は我欲が強い。それより、ロザリンド達は無事なのか?』

『はい。わたくしどもの里で、丁重におもてなしさせていただいてます。ロザリンドには、過去、一族の者を助けていただいた恩義がありますので。さぁ、ヴラド殿も中へ』

『では、失礼する』


 ――ズズズズズズズズ……


 背後で再び重い音が響き、門が閉じていく。

 見れば両端で太い紐を握った男のナーガが数名見えた。

 どうやら門自体は手動式らしい。

 ざっと見た感じ、高床式の住居、それに横穴式住居が見られ、中央の川ではなにやら作業に勤しむ者も見られた。

 建築様式こそ古く、科学的技術もおぼつかないようだが、そこかしこから魂術の気配らしきものが感じ取られる。

 やはり余所者だからか、感じる視線は警戒的な色が強く、ヴラドとしては苦笑をきんじえない。


『さぁ、ここです。ここにロザリンド達は身を寄せています』


 案内されたのは、里の一角にある、それなりの規模を誇る高床式の家だった。

 いや、それは家と言うよりは小さな屋敷と呼んで差し支えないかもしれない。

 不可思議な文様を彩られたそれは魅力的で、外来者用の施設だと想像させてくれる。

 梯子ではなく、返しのついたスロープ式の床をあがり、垂れ布で仕切られた入り口を潜った瞬間……


「パパッ!! パパ! パパ、パパ、パパっ!!」

「にゃー! ニャーッ!!」 


 何かがぶつかり、そのまま外に弾かれたかと思えば、ぐりぐりと何かが擦り付けられる。

 一ヶ月も経っていないというのに、どこか懐かしささえ感じられる声は、間違いなく――


『エル? それにリアン?』

「あら、わたくしも居るのよさ、お兄様?」

『ロザリー!! よかった、無事だったのだな!!』

「それはこっちの台詞なのだわ。本当に……本当に、生きた心地がしなかったのよさ……」


 そう言って目元を赤くしたロザリンドがヴラドにぎゅっと抱きついてくる。

 三人にもくちゃにされ、普段なら少々暑苦しいと思うところだが、今回ばかりは喜びの念が先だってしょうがない。

 一時は本当に死に掛けたが、それでも結果的にこうして五体満足で再会できた。

 ――それがたまらなくヴラドには奇跡に思え、感情の迸るままに三人を暫しの間嘗め回すのだった。






後書き


少々急ぎ足ですが、引き伸ばすもあれなんでここはすんなりと書き上げました。

次回は占いの話です。

実は最終回にかかる結果が占いで出てきます。

ヒント言うほどでもないですが、それを見て最終話の予想でもしてみて下さいw


それと、かなりの久しぶりの更新ながら、実に多くの方に読んでいただき嬉しく思います。


感想の返事は少々お待ちください。

寝る前までには返しますので。

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