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第三十話

まともな戦闘描写は久しぶりかもしれない。

やっぱりほのぼのと違って難しい……



『グギャギャ!! ギャーーッ!!』


 再びドラゴン、いや、見た目から判断すればワイバーンがけたたましい咆哮を上げヴラドに突進してくる。

 バキャバキャと木々をへし折り、口元からは大量の唾液が零れ落ちては地面でシュウシュウと嫌な音を響かせる。

 強酸に焼かれた地面は土が覗き、不快な臭いが鼻をつく。一瞬気を取られた間に気づけばワイバーンの顔が目の前に現れており、今にもその真っ赤な大口が閉じられようとしていた。


『――ッ!?』


 間一髪、噛み付かれるより早く肉体が宙を舞い、折れていない巨木の一本。その幹を蹴り上げ更に高く舞う。

 ワイバーンよりなお高い位置を取り、そのまま自由落下に合わせ鋭い爪を擦れ違い様顔に放つ。

 ギャリギャリギャリ――などとまるで金属でも斬り付けるような音が鳴り、地面に足が付いた瞬間スウェーの要領で即座に移動。

 一瞬後ヴラドの居た位置にゴウンッ! と鈍い音と共に、太い尻尾が巨体の回転に合わせ空を撫でていく。

 ただそれだけで風圧がヴラドの毛を逆撫でる。まともに喰らえば内臓の一つや二つ破裂しても可笑しくない。


『アルラウネッ!』

「――――!?」


 ヴラドの大声にようやくアルラウネがハッとして我を取り戻す。

 反応してくれるかは正直賭けであったのだが、名前と言うのはアルラウネの中でも随分大きい位置を占めていたらしい。


「――、――――、――!」


 戦意を取り戻したアルラウネを忌々しそうな瞳で見つめ、ワイバーンがその首を伸ばし喰らいつく。

 ――――より早く、アルラウネの力ある言魂ことだまが森に響いた。

 地面に生えた草花が凄まじい勢いで成長し、信じられない強度となってワイバーンの足や翼膜に絡みつく。


『ギャッギャーアアアァアアッ!』


 暴れるようにもがけばブチブチと音を立て草が引きちぎられていく。時間にすれば一分、いや、三十秒ももたないだろう。

 だが、それだけあればヴラドもアルラウネも次の一手を放つには十分だ。

 魂力も全快とはいかないが、もとより大規模な炎の能力は森では使えない。

 

(だが、こう言う扱いなら可能だ!)


 再び幹を蹴り飛ばし、宙高く舞ったヴラドが強襲する鷹のように爪を振り下ろす。

 先程と違い、鱗を裂き、肉を断つ感触が伝わってくる。見ればヴラドの爪は真っ赤に赤熱し、傷を与えた翼膜の腕部は、焼け焦げた跡が覗いている。

 致命傷ではないが、確実に痛打を与えられる事実に勝機が覗き見えた思いだ。


「――――――ッ!!」


 続いてアルラウネの猛攻が炸裂。純戦闘種族ではないが、それでも攻撃手段がないわけではない。

 夥しい量の蔦が花弁の下より這い出たと思えば、それらが鞭のようにしなりワイバーン目掛けて殺到。

 ビュンッ! ヒュッ! と、風を切る音が鳴り響く度、パァーンッ!! と鞭が鱗を打ち据えていく。

 撓りを持って振るわれる鞭は想像以上の威力を発揮し、更に付随したトゲがより凶悪な一撃と化す。

 だが、流石は竜種と言うべきだろうか。秒間数十にも届く鞭の嵐に晒されてなお、鱗が数枚剥がれ落ち、僅かな血流を流すに止まっている。

 魂力を蓄えた鱗は、下手な鉱物を強度で勝る驚異的な防御力だ。


『グッ――ギャアアァアァアァアアアアッ!!』


 終に拘束していた草の蔦が全て引きちぎられ、怒りに爛々と瞳を輝かせたワイバーンが振るわれた蔦を食いちぎった。

 

「――――――ッ!?」


 千切れた先からは緑色の液体。いや、血が流れ出し、アルラウネが絶叫を上げる。

 そこに追い討ちのように筋肉の塊である尾っぽが振るわれた!

 ゴウッ! と差し迫る鉄槌の如き一撃をアルラウネを突き飛ばすことで逃がすが、尻尾の先端についた鋭いトゲが脇腹を浅く切り裂いていく。


『……グゥッ!?』


 ただの軽傷ではありえない、鈍く響くような痛みに思わず傷口を見れば、僅かな時間でありながらそこは毒々しい色を放ち、腫れ上がっていた。

 強酸の唾液だけでは飽き足らず、毒まで持っているらしい。即効性の毒が身体を蝕み、手足が軽い痺れを起こす。

 

「―――――、――――ッ!」


 これは不味いかと思った瞬間、アルラウネの力ある言魂が響き、見る見るうちに傷口が、毒が癒えていく。

 ロザリーもある程度治癒の術は可能であったが、アルラウネのそれはもしかしたら更に上をいくかもしれない。

 行動の鈍ったヴラドに、トドメを刺そうと突き出された巨大なあぎとをバックステップで回避。

 引き戻されるよりなお早く再び踏み込み跳躍、無防備に輝く瞳を狙い爪が振るわれるが、まるで顔面を守るように翼が肉体を多い、翼膜を浅く切り裂くだけに終わる。


『チィッ!?』


 そこにアルラウネの追撃が入った。既に癒えた蔦が高速で飛来し、翼膜をずたずたに切り裂いていく。


『アンギャァアァアアァアアアッ!?』


 血こそ殆ど出ないが、神経の過敏な場所なのか、凄まじい絶叫が辺りに響く。

 怒りに狂いに狂った瞳が理性を食いつぶし、まるで暴走するかのように暴れ狂う。

 アルラウネを凄まじい形相で睨み付け、ヴラドなど目に入ってないとばかりに襲い掛かっていく。

 叩きつけるように尻尾が踊り、切り裂くように足の爪が振り上げられ、叩くように翼膜が縦横無尽で振り回される。

 早く威力も大きいが、大振りなそれは時に樹木を盾に、あるいは魂術により急成長した草木により、はたまた密集した蔦の壁により阻まれてしまう。

 その隙にヴラドが懐に潜り込み、気づかれるより素早く爪の乱舞が踊る。赤熱した爪は鱗の防御すら貫通し、その下の肉を深く穿ち、筋繊維を引き裂いていく。


『ギィアァアアァアアア!!』


 苦痛の絶叫が響き渡り、その口からは絶え間なく唾液が飛び散る。

 ヴラドの毛皮にもその被害は及び、シュウシュウといやな音を立て肌を焼き焦がす。

 

『ふんッ!!』


 それでもここで引けば折角の機会を逃してしまう。再び赤熱した爪がその馬鹿に太い脚を切り裂く。

 一度、二度、三度と繰り返し振るえば真っ赤な血が傷口より噴出し、流石のワイバーンも狙いをヴラドへと変更する。

 今度はその隙にアルラウネの蔦が飛び、ヴラドの与えた傷を抉るように、破けた皮膜を更に千切るように乱舞する。

 相手は確かに魔神級だが、女魔神のような防御能力はないし、何より圧倒的に知能で劣っていた。

 罠を仕掛ける頭はあっても、本能を押さえつける理性は乏しいのだろう。これならいけると、そう判断した瞬間、ヴラドの横っ腹に勢い良く飛来した尾が命中。

 撓りと剛力で振るわれたそれはヴラドの巨体を軽々吹き飛ばし、一本の巨木にぶつかり地面に落ちる。


『――――かっは!?』


 余りの衝撃に息が詰まり、背中に奔った衝撃で肺の空気が吐き出された。

 同時、口元からは鮮血が飛び散り、内臓の幾つかがやられたことを知らしめる。 


「――――!!」


 アルラウネが何か叫び、ヴラドの元へと駆け寄ろうとするが、それを待ってましたと言わんばかりに凶悪な顔で口を限界まで開くワイバーン。

 魂力がそこに集中し、見る見るうちに火球が生成されていく。膨大な熱量が空気を焼き焦がし、ワイバーンの顔が陽炎のように揺らめく。

 アルラウネは気づかない、その顔はヴラドの傷を逸早く治すことだけを考え、周りを気にする余裕はないことを窺わせた。

 痛む身体を無理やり動かす。折れた肋骨が肺に突き刺さり、凄まじい痛苦が脳を掻き乱す。

 

『オオォオォオォォオオォォッ!!』


 それを精神で、気力で捻じ伏せ力強く跳躍、驚愕の表情を見せるアルラウネを真上から押し倒し、そのまま抱きこむように抱え込む。

 瞬間、膨大な光が森を照らし出し、次の瞬間爆発的なエネルギーが炸裂した。

 轟音が轟き、凄まじい爆風が周囲一帯を薙ぎ払っていく。熱に対する圧倒的な耐性を誇るヴラドの肉体ですら、まるで火傷のような痛みが奔り抜ける。

 地面に爪を突き立て、尻尾と腹でアルラウネの頭部と胴体を必死で守り通す。抱えきれない蔦が一瞬で蒸発し、花弁が数枚灰と消えていく。

 腕下で凄まじい苦痛に呻き声をあげるアルラウネ。それを感じつつも、ただひたすら、熱の暴虐を過ぎ去るのをまった……


 

 十秒か、一分か、それとも永遠か。終わりは唐突に訪れた。轟音に麻痺した耳は静寂しか届けず、痛む肌は痛覚を忘れ去ったかのように。

 それでもよろよろと起き上がった瞬間、何かに吹き飛ばされた。それがワイバーンの尾だと気づいた時には地面滑空し、ガラス化した床で滑るように転がっていく。

 被害を免れた樹木にぶつかり、強制的に呼気と血の塊が吐き出される。


『げほっげほっ、ゴボッ!?』


 ビチャビチャと地面に赤が広がり、内部から狂ったように痛覚が送られる。

 

『ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……』


 無理やり呼吸を落ち着かせれば凄まじい量の脳内麻薬が生成され、直に痛みなのか快楽なのか曖昧になっていく。

 つまり、致命傷手前。戦闘の続行が厳しいと肉体が訴えるがそれを無視する。

 どちらにせよワイバーンを倒さねば待ってるのは餌としての死、のみ。

 数十メートル先、爆発の中心地、クレーターの底で勝利の咆哮を上げ、意識が朦朧としているアルラウネを、嬲るように足の爪で転がすのが見えた。

 

 瞬間、ヴラドの脳裏で何かが砕けた。アルラウネは確かに切り捨てるべき存在として、連れて行くのを諦めた少女だ。

 だがしかし、しかしである。情を持ったのは事実であり、まして命の恩人なのだ。

 冷静になれと脳裏で誰かが囁くが、それを凶暴な獣の本性が引きちぎっていく。

 家族を守る為なら他者を犠牲にしてみせよう。だが、命の恩人を見捨てるほどヴラドは決して薄情ではない。


『ウオォォォォオオオオオォオ゛オ゛ォ゛ッ!!』


 気づけば肉体を死地に追いやるのも厭わず走り出していた。それをワイバーンが発見し、まるで嗤うように牙を見せ付ける。

 お前には何もできない、黙ってそこで食事を見ていろ。そう言われたかのようにヴラドは感じた。

 事実、その巨大な口は限界まで押し広げられ、足で胴体を踏み潰すようにアルラウネを押し付け、今にも頭部に喰らい付こうとしている。

 意識がないのか、全身ずたぼろのアルラウネはぐったりとして動かない。

 間に合わない。疲労し、損傷した肉体では圧倒的に時間が足りない!


(いいや、手段なら、あるッ!)


 瞬間、景色がまるで流れるように消えていく。ジェット噴射のように炎が手足から轟々と噴きすさび、凄まじい勢いと加速をヴラドに与える。

 傷口から血が溢れ出し、炎耐性の弱った傷口から灼熱の痛みが身を蝕む。

 まるで寿命を削り倒すような行為はしかし、間一髪でアルラウネの危機を救う。

 筋肉が断絶する音を無視し、死力を振り絞り跳躍、今にも喰らい付こうとしている顔面へと懇親の一撃を見舞う!!


 眼球に高熱の爪が突き刺さり、噴き出た血が瞬時に沸騰する。暴れ狂うワイバーンに残りの生命を燃やしてしがみ付く。

 ここで離しては恐らく最後、既に体力も限界だ。それ以前に放って置くだけでヴラドは死に向かうだろう。

 己が生き残る為にもアルラウネを活かし、ワイバーンを駆逐せねばならない。

 その想いを糧に爪の先から炎を噴射する。ありったけの魂力を変換し、持てる最高の熱量を叩き込む。

 振りまわされる肉体が悲鳴をあげ、あり得ない体勢に曲がった身体の骨が砕け散る。それでも懸命にしがみ付くこと数十秒。


 重々しい音と共に遂にワイバーンが倒れ伏す。ヴラドが力尽きるより早く、脳髄を焼き尽くす事に成功したのだ。

 同時、もう指先すら動かすことの出来ない身体が大地に沈む。

 意識が薄れていく。外部より内部の損傷が酷く、一度眠ればもう助からない。

 それでも意識を手放すことへの抵抗は不可能であった…………






後書き


昨日更新予定でしたが、遅れました。申し訳ない。

それでは感想評価、誤字脱字の報告など心よりお待ちしております^^

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