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第二十八話

特に総合評価五桁記念、番外編を望む方もいなかったのでそのまま進めます。

今回はかなりグダった内容。




 


 ヴラドは腕の下に捕らえた馬に角や鱗が生えた魔獣に止めを刺しつつ、内心ではアルラウネの見せた表情に暗澹とした思いであった。

 あの後、自分の状況を詳しく説明したのだ。

 己が本来一人ではないこと、テトローイから逃げてきたこと、もしかしたらまだ追っ手がいるかもしれないこと。

 そしてなにより、ヴラドが留まればそれだけアルラウネに迷惑を掛ける可能性があり、どちらにせよリィーン山脈へと行かねばならないことも告げた。

 結果、確かにアルラウネは特に反対もせず聞いてくれたし、引き止めるようなこともなかった。

 が、感じ取れた感情は孤独感と寂しさ、そしてなにより悲しげな表情。

 

 なんと声を掛ければいいのかヴラドには分からなかった。安易に一緒にくるか? と口にすればよかったのか。

 それとも問題を先送るように、暫くはまだ居ると慰めればよかったのか……

 結局ヴラドに出来る事は少なく、アルラウネが納得するしかない。

 そもそも、どうしてアルラウネは一人なのかとここ数日ヴラドは思っていた。

 感情だけのやりとりではあったが、彼女の種がアルラウネのように最初から魔神級の実力を持っているわけではない。

 と言う事も分っている。一族で群れるのか、一人で暮らしていくのかまでは分からなかったが、それにしたってテトローイなどに住まない理由はないだろう。


 その辺りに恐らくはアルラウネが一人この森で暮らし、ヴラドとの別れを惜しむ理由があるのだろうが……

 聞けばいい。そんなことはヴラドだって承知だ。だが、感情だけでは事実を正確に把握できない。

 それ以前の問題として、出会って数日の己が不躾にそのような事を聞くのは、あまりに失礼が過ぎるとも考えていた。

 もしかしたらヴラドの考えはどれも間違いであり、好きで森に住まい、久しぶりの客人との別れが惜しいだけかもしれない。

 

 ――――と、ここまで思考してヴラドは内心己を嗤う。

 結局は今考えたことのどれもが逃避であると、そう知っているからだ。

 推測でいいのならば、彼女が一人の理由も既におぼろげながら理解している。

 そもそもアルラウネの事がどうでもよいのであれば、こんな事考えはしない。むしろ、ここまで意識してしまったからこそ悩むのだ。

 とすれば、結局は向かい合うしかない訳だが。それをしてしまえばもう後には退けなかった。

 そこまで踏み込むのなら、推測が正しいのなら、ヴラドは彼女を森から連れ出す代償として、その生を背負う義務が生じる。

 いや、それは詭弁だろうか。つまり、そこまでしてしまえば結局アルラウネを他人と見れないのだ。

 エルやロザリー、リアンと等しく扱わねばヴラドの気がすまない。それは新たな家族の誕生を意味した。


 だが、だからこそ迷い、思う。


(現状、エルもロザリーも守れているとは言えない不甲斐無い身で、彼女を己のエゴの下巻き込もうと言うのか? 一時手を差し伸ばし、結果更に不幸な結末が待っているかもしれないのに?)


 つまり。結局のところヴラドは恐れているのだ。己の持てる力でエルを、リアンを、ロザリーを守りきれないことを。

 きっとエルもロザリーも話せば守られるだけは嫌だと、自分の身くらいは守れるようになると、そう言ってくれるだろう。

 それを分かっていてなお、己の手であらゆる害意から守れなければ意味がなかった。

 常人では理解出来ない家族と言う言葉、括りへの異常な執着、妄執。

 それはヴラドがヴラド足る根幹の一つであり、最早血肉となり切り離せない。

 数多の他人が幾万死のうが構わない。己の家族が無事であれば何も必要としない。


 そこまで達観してればよかったのだろうか。実際ヴラドには自分だけの欲があり、家族を楽にさせてやりたい欲望も、野望だってある。

 楽しい生を謳歌して欲しいし、豊かな生活だって与えてやりたい。それが自分達を危険に晒す、本末転倒な行為に繋がると知ってなお。

 矛盾した行動はしかしヴラドは肯定していた。聖人君子ではないのだから、常に矛盾してこそまさに人間。

 一か零かを完全に割り切る者は機械と変わらない。それは必要な時、大切な時に選び取るだけで十分だ。

 だが、ヴラドと家族の天秤、その皿にアルラウネを乗せれば今の均衡は崩れ去るだろう。

 ただでさえヴラドと言う皿が軽く、家族と言う皿が重いのに、これ以上天秤を傾けることは出来ない………


(だからこそ、私はアルラウネを切り捨てなければならない。命の恩人と称えておきながら、彼女を救う鍵を持ちながら、私は己のエゴでそれを投げ捨てる)


 結局この無駄な思考も、決まりきった答えを正当化するためであり、それをヴラドは重々理解していた。

 一昔、己が若かりし頃であれば、アルラウネをもっと淡々と切り捨てて見せたことだろう。

 どうも老いさらばえ、この世界でエルと二人ながらも暖かな暮らしを経験し、心の牙が抜けかけていたらしい。

 ぐだぐだと長く思考し、ようやくアルラウネを切り捨てるのだと決めたヴラド。

 後はアルラウネの問題であり、ヴラドがどうこうすることではない。








「――――――――」


 何時の間にか寝ていたらしい。既に洞穴の入り口から見える外は茜色に染まり、直に闇夜が覆うだろう時刻。

 アルラウネが哨戒から帰宅したらしく、ヴラドに声を掛ける。やはり言葉は理解できないが、その感情から彼女もまた何かしかの答えを出したのだと知る。


「――――――?」


 再び何事かを口にし、背中に隠していた色取り取りの果実をにっこりと差し出す。

 それを見て、今日はまともに食事していなかったことを思い出した。

 昼に仕留めた獲物はどうも気分ではなく、喰わずにそのまま置いてきてしまったのだから。

 空腹に加え、喉は水分不足で軽い渇きを訴えている。

 昨日の、別れに関して告げた時の暗い表情はなりを潜め、今は元の笑顔が浮かんでいる。

 それが答えなのだろう。避けられない別れなら、残りの時間をせめて楽しく過ごしたい。

 そんな気持ちが、感情が、ありありとヴラドまで伝わってくる。


『それが答えなら、せめて残り二日三日……私も笑顔で過ごすとしよう』

「――――?」


 ヴラドが口にした内容が気になるのだろう、首を傾げるアルラウネ。

 それには応えず持ってきてくれた果実の一つを受け取り、そのまま大きな口でがりごりと噛み砕く。

 味は美味であり、含まれる水分が身体に染み渡るようだ。

 食事を必要としないアルラウネは、ただ黙々と食事を続けるヴラドを見つめ続ける。

 その顔に浮かぶ笑顔がやがて曇ってしまい、再び一人になるのであろうと理解していても、それが彼女の答えであるのなら。

 何をしてやることも出来ないヴラドは、せめてそれに応えてやることだけが、今何かしてやれることであった…………







後書き



丁度良い場所だったので、かなり短いですがここで区切り。

後二~三話くらいで山脈へと向かう予定。

その後暫くナーガ編入って、その終わりで二章終了、単行本なら一巻終了みたいな感じになると思われます。

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