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第二十七話

祝! 一万総合評価突破記念日!

(2011 12/7)








 ヴラドがアルラウネと思わしき少女と出合って既に数日が経過していた。

 欠けた記憶は未だ戻らず、どうしてテトローイから逃げ出したのかも曖昧だが、徐々にだがそれも思い出しつつある。

 実際、どうしてそうなったのかと過程は思い出せないが、矢傷による重傷を負い倒れたのは思い出していた。

 間違いなくそのままであれば死に向かっていたヴラドを助けたのが、そう何を隠そうアルラウネだ。

 実際の種族名は分からないが、ヴラドがアルラウネと少女を呼称すると、やたら嬉しそうにはにかむのですっかり定着してしまった。

 どうも治癒の魂術や植物を操ることに長けているらしく、戦闘力こそ状況に左右されるが、その気配から階級は間違いなく魔神級だと思われる。

 

 起きた当初は食い物すら取りにいけなかった為、アルラウネがわざわざ果実や肉類を狩っては届けてくれた。

 本人は食物を必要としていないらしく、時折蔦が地面に突き刺さっては陽射しをぼぉっと浴びている。

 光合成だと思われる行為が恐らくは食事に値するのだろう。

 それも今は過去となり、ヴラドの肉体はすっかり癒え、魂力も半分近くまで回復している。

 どうも限界まで振り絞ったせいか、回復の速度が鈍く、半分回復するだけでもこの数日を必要とした。

 ロザリーが何もしない場合、全力を取り戻すのに途方もない時を要するといった理由が分かろうと言うものだ。

 なんせ全盛期のロザリーとヴラドの実力差はまさに天と地。数字に表せば数百倍以上。

 魂力の量も勿論それに比した差があるだろう。


(つまり、ロザリーを守るには私は最低でもその数百倍の差を埋めねばならないのか……)


 当初はとりあえず魔神級の力を得るのが目標だった筈だが……と内心苦笑し、そこでふと気づく。


(まて、どうして私は(・・・・・・)ロザリー級の力がないと駄目だと、そう思ったんだ?)


 無意識の思考だった。ゆえに記憶が戻った訳ではないが、それはとても重要なことであるような気がする。

 頭痛を堪え、必死に霞の彼方で移ろう記憶を手繰り寄せようとしていく。

 痛みに脂汗のようなものが毛の下で滲むが、そのお陰か一つだけ記憶を掴み取る。


(そうだ、私は。いや、私達は追われて街を逃げてきたんだ。それにたしか……駄目か、これ以上は思い出せそうもない)


 ズキズキと痛む頭に眉をしかめ、ふぅっと息を吐き出す。

 

(と言うことはやはり、敵によって私はロザリー達と離れることとなり、致命傷を受けたことになるな。幸い山脈はすぐそこだ、魂力が回復してから向かえばいいだろう)


 記憶の欠片を取り戻したことで先の方針が固まり、ようやく安堵が心に広がっていく。

 この数日、何か忘れてはいけないことを忘却した気がずっとしており、中々落ち着けなかったのだ。

 晴れた心は久しぶりに沸き立ち、気分に任せるままグッと伸びをする。


『アルラウネはまだ哨戒中か?』


 己の命を救ってくれたまさに恩人の少女。リィール山脈の麓に広がる名も無き大森林の一つ。それがアルラウネの領域であり、棲家であった。

 領域内の哨戒は彼女の日課であり、これのお陰でヴラドはまさに九死に一生を得たのだから、頭が下がる思いだ。

 

『……そろそろ身体を動かさないと鈍りが酷いな、これは』


 洞穴の入り口に向けて歩き出せば、予想以上に筋肉が凝り固まっている。

 人間であった頃も一日鍛錬を怠ければ、その時間の数倍努力せねば元に戻らなかったが、それよりマシとはいえ今の状態は近いものがあった。

 いくら身体能力に優れようと、怠ければ錆付くのは道理であると思い知った瞬間だ。

 洞穴を出れば空高く昇った太陽が燦々と照り付け、思わず瞳を薄目にしてしまう。

 すっかり洞穴の暗闇になれてしまった弊害だろうか。まさにモグラになった気分。

 洞穴は丁度崖のように切り立った場所にあり、周囲の植物は払われちょっとした広場になっている。

 半径五十メートル程先には鬱蒼とした広葉樹林が広がり、ヴラドがエルと過ごしたあの大樹海をどことなく思い出す。


(さて、軽く運動がてら昼食でも狩るとしようか)


 アルラウネから相変わらず言葉はわからないものの、大体の感情は汲み取れる。

 お陰で会話には満たないが意思疎通は出来ているし、このあたりには彼女のおかげで、強力な魔物が居ないのも判明していた。

 準備運動がてらに軽く数分身体を動かし、肉体が温まってきた頃に森に入っていく。

 気配を探ればぽつりぽつりと小型、中型の生物反応を感じ取れる。

 魔神の領域は魔族や魔獣が集まるか、逆に寄り付かないかのどちらかであり、ここは後者であった。


 出来るだけ気配を押し殺し、背を低くし近くの小型の気配へ近づいていく。

 暫く経つと見た目鹿のような生物を発見。まだ歳若いのか、その身は生命力に溢れ、非常に美味そうだ。

 背の高い草葉の陰からじっと隙を窺う。ヴラドの能力は火だ、確かに使えば仕留めるのは容易いだろうが、森に火が移っては不味い。

 害意ない者を燃やさないことは可能でも、流石に植物だけを外すなんて器用なことは今は無理だった。 一分、五分……そして十分と経過した頃、遂に機会が訪れた。

 無防備に背を見せ、地面に生えた背の低い草花を啄ばんでいる姿は警戒心ゼロ。


(三…二…一……GO!)


 限界まで近づき、気づかれるよりなお早く飛び掛る!

 逃さないよう真っ先に腕を背に振るい、深々と爪を引っ掛ける。


「――――!!」


 脊髄を損壊させるほど深く食い込んだ爪に、若鹿のような生物が声を荒げる。

 なんとか逃れようともがくが、既に両腕で組み付き地面に引き倒されており、その抵抗も最早無駄に等しい。

 苦痛を長引かせる必要もなかろうと、トドメとばかりに首筋に喰らい付き喉元を食い破る。

 断末魔の悲鳴が辺りに木霊し、すぐにそれも消え森が静寂に戻っていく。

 そのままがつがつと生肉を喰らい、途中で広場まで戻り能力で丁度よく焼き上げる。

 餌に困らない為か、その身は丁度良く脂も乗り、獣としての味覚も相俟って非常に美味だった。

 大柄な身であるヴラドは綺麗に一頭丸々平らげ、満足げに血生臭くなった口周りを舐め取る。

 この辺りに糧となるような魔物が居ないため、魂力を効率よく回復させるなら、よく食べよく寝るのが一番だ。

 

 リィール山脈に行こうにも、一人では最悪ナーガに敵視される可能性もある。

 他にも強力な魔獣に出会うかもしれないし、領主の手の者がいないとも限らない。

 あまり気配を濃くしては見つかるかも知れず、大規模な能力行使も不味いだろう。

 今頃エルもロザリーもどうしてるのかと、不安な気持ちが一瞬過ぎるが広場の端、獣道の奥からアルラウネが出てきたことでそれも霧散する。

 その小さな両腕には兎に似た生物が抱かれており、綺麗な腹部や花弁が血に塗れていることから死んでいるのが分かった。

 数日の間で、無駄な殺生を好まない純真な性格であると理解していた為、こうして己で狩りに出たのだが、そう言えばそれを伝えていないと思い出す。


 向こうもヴラドを見つけ、その隣の皮と骨に事情を察したのだろう。

 目線が兎と食いカスを何度も往復し、おろおろとした雰囲気が伝わってくる。

 感じ取れる感情は迷いと僅かな悲しみだろうか。

 ヴラドが告げずに昼食を狩ったのを責めず、兎の生命を無駄に摘み取った自分を後悔しているのかもしれない。

 そうなればヴラドとしても申し訳ない。地面から起き上がり、アルラウネの元まで近づいていく。

 腕に抱かれた兎を口に挟み奪い取ると、能力を行使し、素早く全体に火を通す。


「!?」


 驚きの表情を見せるアルラウネからは既に悲しみは感じられない。

 能力行使は初めて見せるのだから無理はないだろう。

 一先ずはこれでいいと、そのまま洞穴に向かっていく。

 

(兎は晩にでも喰えばいいだろうし、その後は彼女に近いうちここを出ることを伝えないといけないな)


 どうも無邪気なところがあるアルラウネだが、頭の回転は悪くない。

 ヴラドの気遣いに気づいたらしく、下部の蔦が嬉しそうな感情と共に忙しなく蠢く。

 その様子はまるで犬が尻尾をぶんぶんと振るようで、中々に微笑ましい。

 だが、いずれはここを去らねばならない身としては、その好意がどうしても重く感じてしまうのも事実であった………






後書き


アルラウネの好意? には理由が無論あります。

ドリアドネーとどっちだそうかと実は迷ったのですが、個人的にはアルラウネの方が好きだったもので。

容姿は日本一ソフトウェアのディスガイアシリーズ。あれに出てくるのに近いかと思います。


気づけば日間とは言え十位ないに食い込んでおり、瞼がぱちくり。

ありがとう御座います。予想以上の読者数もあり、半ばあるぇ? と困惑しております。


それでは感想評価、誤字脱字報告いただけましたら嬉しく思います。



ps 総合評価五桁突破です。

何か書いてほしい番外編あれば、一話用意しようと思いますので、感想かメッセで見たい内容送って下さい。

特になければ書かずに進めたいと思います。

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