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第十八話

『つまり、誓約のせいで私はロザリーの過去を夢として見たと。そう言う解釈でいいのか?』


 宿屋“リーズテロ”の大食堂。その一角のテーブルでヴラドはそう口にした。


「そうなのだわ。わたくしとしたことが……魂レベルでの繋がりなのだから、こういう事だってあると分かっていたはずなのに。すっかり失念していたのよさ。お陰で恥ずかしいのだわ……まぁ、どうやらお兄様から聞く限りじゃ、この世界に来てからの部分までは見られていないみたいだけれども」


 そう言って頬をほんのり染めてテーブルに置かれた器に口を付ける。同時に香る刺激的な匂い。地球で言えば香草の類だろうか。

 ロザリーが頼んだスープ、その他料理が数皿テーブルには置かれている。話し合いとは言え、仮にも食堂。何も頼まず居座るのはどうかと言う結果である。

 置かれている皿は白磁であり、この世界にも焼き物の技術が存在しているのが窺えた。

 案外ヴラドが想像しているより文明のレベルは高いのかもしれない。宿屋の部屋からもそれは十分に見て取れたのだ。

 

「エルにはよくわからなかったけど、おねえちゃんのすんでいたばしょがすごいところだってのはわかったよ」


 エルの言葉にリアンが同意するように一声鳴く。確かに地球の暮らしを見ても、未だ幼いエルでは理解できないだろう。

 言葉通り、なんだか不思議で凄い場所くらいにしか思ってないかもしれない。


『だがもう平気なのだろう?』

「さっき施した術が防波堤の役割となってくれるのよさ。もう記憶の流入なんて起こらない筈なのだわ」



 そう、やはりと言うか、見た夢はロザリーの人の頃の夢であった。そして話し合いの結果誓約の魔法が原因だと判明。

 その後夢は全員が共有していたとも分かり、即座に対策がなされた。それが各自に刻まれたラインと平行に走る金色の細い線である。

 記憶の流入の原因。それは魂レベルの誓約による魂同士の繋がりだ。記憶とは肉体と魂、その両方で保存される。

 それはヴラド自身憑依と言う経験を経て理解していることだ。つまり、魂の繋がりは記憶をすら共有することに他ならない。

 今回起こった事はある意味事故であり、想定されてしかるべき必然であった。可能性としては、ヴラドの記憶が流出する場合もありえただろう。

 ロザリーの記憶が流出したのはただの偶然である。それでも記憶を見られるのは恥ずかしいだろうし、見た者も気まずいのは変わりないだろうが。



「んぐんぐ……でも、エルはもっとおねえちゃんのむかししりたかったな」


 柔らかい白パンらしきものを口一杯に頬張り、ヴラドの躾のお陰かしっかりと飲み込んでからエルが喋る。


「流石に勘弁して欲しいのだわ。この世界に来てから暫くは、正直黒歴史なのよさ……」


 げんなりとした表情でロザリーがエルに答える。黒歴史。つまりは思い出したくもない過去と言う意味だ。

 と言っても負の要素によるものではなく、言わば若気の至りと言うところだろうか。あるいは厨二病などと呼ばれるものに置き換えてもいいかもしれない。


『若気の至りと言うところか? 確かに夢の内容を思えば……ふむ』


 ヴラドだって昔は黒歴史と呼べる内容を持つ。だからこそロザリーのあの後もなんとなく予想出来た。

 もしかしたら今の珍妙な口調もその頃の名残なのかもしれない。そう思えば勝手に笑みが口から零れ落ちる。


「お、お兄様! 何も笑わなくてもよいではないのよさ!? 妹苛めなのだわ!!」


 ヴラドにとっては小さなものでも、その巨体を考慮すれば十分にロザリーの耳に届くレベルだったらしく、目敏く反応してみせる。

 羞恥の為かその肌の白さもあいまって、頬の赤味具合がよく見て取れた。既に二千歳程の歳になるらしいが、どうもそうは思えない。

 尤も、精神年齢は経過した年月によらないことを思えば十二分に許容範囲内である。


『そういきり立つ必要もないだろう。周りの視線を集めてしまうから落ち着け。それに料理が冷めてしまうのは勿体無い』


 そう言って机の横――巨体故に椅子などは使えない――の木製の板張りとなっている床に置かれた巨大な皿。その上に置かれた正体不明の肉の丸焼きにヴラドは齧り付く。

 鋭い牙が鋭利なナイフのように肉を裂き、豪快に肉の塊がその大きな口に消えていく。周囲はしっかりと、中は血が滴るレアに焼かれ、香辛料で味付けされたそれは中々に美味だ。

 肉汁が顎を伝い零れ落ちそうになるのを器用に舌で掬い取る。どうしても優雅な食べ方が出来ないのは仕方ないだろう。


「むぅ……」


 おどけた口調だったとは言え、あっさり袖にされたロザリーがしぶしぶ料理に手を伸ばす。と、この世界ではナイフとフォーク、それにスプーンが一般的である為ナイフを目的の料理に向けようとし……


「あら、無いのだわ」


 そう、無かった。何かで煮込まれた肉にデミグラスのようなソースを掛けた一品。それが綺麗に消えている。

 

「おねえちゃん?」


 エルがどうしたの? と言う顔で正面の席からロザリーを覗き込む。

 「何でもないのだわ」と、いくら久しぶりのまとまな料理とは言え、一品程度に目くじらを立てる必要もないと思い、そう口にしようとしてロザリーが言いよどんだ。

 見上げるエルの口元には何か茶色い液体。どうみてもソースであった……


「い、いや。なんでもないのよさ」

「……?」


 少しだけぎこちない口調のロザリーにエルが疑問の声をあげるが、小さく首を傾げるだけで再び料理に挑み始める。

 基本的にエルは血が主食となるが、別に普通の食事が出来ない訳ではない。だが、血液に含まれるなんらかの成分が必要なのか、一定期間摂取していないと衰弱してしまう。

 ヴラドと住んでいた時は食べれても果物や肉ばかり。こうしてまともな料理を口にするのは、エルにとって始めての経験であった。


「うん! エル、こんなにおいしいごはんはじめて!」

「ああ、分かったからそんなにはしゃぐんじゃないのだわ! ほら、汁が飛んでいるのよさ」


 そう言って甲斐甲斐しくも置かれた布で口元を拭ってやる。はたから見ても間違いなく姉と言った風情だろう。

 エルも黙って拭いやすいよう口元を差し出すが、その格好がなんだかアヒルの口のようでヴラドがひっそり笑いを零す。

 なまじ容姿が幼いながらも整っているせいか、そのギャップがまた笑いを誘う。


「ちょっとお兄様。笑うなんて酷いのだわ!」

『いや、すまない。微笑ましい光景だと思っただけだ。まさかこんなところに来て、こんな姿となって。それでもこんな穏やかな日を過ごせるなど、夢にも思っていなかった』

「お兄様……」



 それはまぎれもないヴラドの本心。地球ではとりとめのない、それこそ日常にありふれたような一シーン。

 だが、この異世界に来てまでそれが叶うなど、一体誰が予想出来ようか? 樹海に居た頃は文明の存在する怪しんでいたくらいである。

 そんな思いを察したのかロザリーが何と口にしていいのか戸惑う。この世界でこそヴラドの言わば先輩ではあったが、地球で過ごした時間は圧倒的にヴラドに軍配が上がる。

 更に言えば。記憶の融合、魂の結合により地球への望郷の念が薄れたロザリーと違い、ヴラドは精神に僅かな変化――スライムへの憑依による精神の適応――のみであった。

 それも地球への想いが薄れるような類ではない。今や地球などよりよっぽどこの世界の住人と言う意識が強いロザリーに、ヴラドに掛ける言葉は思い浮かばなかった。



「ナァー」


 しんみりとした空気を感じたのか、リアンがテーブルの上で一声上げる。それを皮切りにヴラドは常の思考へと状態をシフトさせる。

 内心リアンに感謝しつつ、その大きな前足でエルの頭を器用に肉球で優しく叩く。するとたちまち場の空気におろおろしていた不安げな顔が笑顔に変わる。


『さぁ、食事をさっさと終わらせよう。この後はこの街を見て回らないとならないからな』

「了解なのだわさ」

「(こくこく)」

「ニャッ!」



 約一名新鮮な野菜とドレッシングを頬張り声が出ないのか、首を縦に振るだけであったが、それぞれ威勢のよい返事を返す。

 そんな一行を周囲の者達はやや珍妙なものを見る目で見ていた。この世界は前述した通り、基本的に実力社会であり、力さえあればそれこそ法すら無視される場合もある。

 そんな中では自然、他者は蹴落とすべき者として認識されていく。ヴラド達の見るからに仲のよい会話はこの世界の、特に一定以上の実力を持つ者からすれば非常に奇妙に見えた。

 奇異の視線にエルは気づかず、リアンも同文。ロザリーとヴラドは理解しながらも無視し、その後楽しい一時を思い思いに過ごした………






後書き


なんだか引き伸ばしとなっている気がしますが、申し訳ない^^;

さて、拍手にちょっとしたモノを設置してみました。

二回押すと見れます。まぁ、大したものではないですが興味があれば押して見てください。

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