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第十五話

「やっぱりお兄様はこれを付けるべきなのだわ!」

「それ、エルもほしい!」


 荷物の山から取り出した四つの装備。どれも同じ型らしい。恐らくは四つで一つのセットなのだろう。

 エルがそれを見てキラキラとした瞳で口にするが、ロザリーは困った顔をする。


「同じものは流石にないのよさ。でも似たものならまだあるのだわ――――」



 ヴラドを置いて行くくらいの勢いで盛り上がる二名。と思えばリアンも何気に獣用の装備を漁っている。

 やはり知能が高いのは間違いないらしい。何となくその表情が好奇心に輝いているのは、おそらくヴラドの気のせいではないだろう。

 そもそも上記の会話になった始まりは、ロザリーが持ってきた荷物にあった。曰く“魔道具”と呼ばれる魔法の力を付与した神秘のアイテムや、装備が無数混じったものであるらしい。

 もしかしたらそれなりに凄いものかもしれないのだが、残念ながらヴラドにはこの世界の価値観を未だ有していない為判別が付かない。

 そんな荷物の置かれた部屋でロザリーが発した、「さ、何を使ってみたいのだわ?」と言う言葉が切っ掛けであった。



「ほらお兄様、早速装備してみるのよさ」


 そう言ってうきうきとした様子でロザリーが足甲と手甲の中間のようなものを持ってくる。

 どうやら四足獣用の装備なのだろう。銀色に輝くその金属製の装備の先端には、爪がしっかり飛び出るよう細工されている。

 だが如何せん大きさが違う。どう見ても装備の方が小さく、ヴラドに使用出来るとは思えない。


『大きさが合わなくないか?』

「ふふ、大丈夫なのよさ。まっ、お兄様はわたくしに身を身を任せていればいいのだわ」


 と、何やら聞きようによっては勘違いしそうな言葉を口にしつつ、そのメタリックに輝く具足の横にある留め金らしきものを外す。

 すると丁度右に当たる部分から綺麗に具足が縦に開き、見事足に装着できるように変化する。

 

『これは……これも魔法の力なのか』


 思わず驚愕の言葉がヴラドより漏れ出る。横で見ていたエルも驚きの表情を浮かべているようだ。

 ロザリーがそっと開いた具足をヴラドに当てると、まるで装着者に合わせるようにその大きさが変化していく。

 ものの数秒も掛からず丁度いい具合になり、そのままロザリーが留め金を締める。カチャリと金属音がなり、ヴラドの前足、後ろ足は次々と手首足首の次の関節手前まで守る形で具足に覆われる。


「ふふ、似合っているのよさ。この具足の名前は“ディオ・エルエレイア”。この世界の言葉で、日本語に言い換えれば“堅牢なる守り”と言う意味を持つのだわ。本当は他にもあればよかったのだけど、流石にそこまでは置いてなかったのだわさ」

『いや、むしろこういったものを使う発想が私には欠けていた。人が使うものだと言う認識があったのだろう。感謝している』

「喜んでもらえたらなら嬉しいのよさ」



 そう言ってにっこりと微笑むロザリー。森林色の瞳が細まり、その桜色の唇が弧を描く。この世界にあるのか不明だが、その着ているゴスロリチックな衣装――衣装に関してはどうやら魔法で用意したものらしく、魔法を打ち消すタイプのものを食らうと一瞬で掻き消えてしまうらしい――更に地球ではあり得ない髪色なども相俟ってどこか作り物めいた雰囲気だ。

 エルも容姿だけで言えば非常に先が楽しみだが、まだアルビノ等と説明のつく容姿である為衝撃は少ない。

 反面ロザリーのそれは明らかにヴラドにとって見慣れないものであった。染めたりカラーコンタクトを入れているのとは違う、自然な感じが何とも改めて見れば不思議である。

 ロザリーの笑顔にそんなことをヴラドが考えていると、どうやらロザリーがエルの為に装備を見繕っているようであった。



「これなんてどうなのよさ。鉤手甲、お兄様の付けているものの先端に三本の爪を装着した代物なのだわ。特別な魔法は掛かっていないけど、使われている素材は中々で、その強度と鋭さは鋼だってものともしないのだわさ」 

 

 取り出したのは手甲に爪を付けたような装備だ。全体的に薄青色に輝く金属で出来ており、その爪だけはシルバーに輝いている。

 飾り気は殆どなく、実用本位と言う気配を漂わせている一品だ。爪の部分はヴラドのものより幾分か短い。大体目測十五~二十センチくらいだと思われる。

 エルは素手で直接殴り掛かったりする為、相性は悪くないだろう。扱いに慣れるには少し時間を要するだろうが、基本は手を扱う延長と考えればいい。


「これ、エルがつかっていいの?」

「構わないのよさ。さっ、付けてあげるのだわ」


 そう言ってヴラドの装備と同じく留め金を外し、エルの腕にその金属塊を装着していく。

 これまた同じく大きさが勝手に装着者に合わせて縮み、それによって爪も十五センチ程度に縮まる。


「これにはちょっとしたギミックがあるのだわさ。ここの引き金、ちょっと引いて欲しいのだわ」

「ひきがね?」


 エルの疑問の声に「これだわさ」と、丁度手の外側の部分にほんの少し飛び出ているレバー。

 引き金のようなものを示す。エルが頷き、その引き金を反対の手でグッと引く。

 すると今まではそのギラリとした凶器の輝きを灯していた刃が、シャキンッ! と言う甲高い音を奏でて手甲の部分に収納される。


「そのまま直ぐ下にあるボタンを押してみるのだわ」

 

 こくりと再び頷き、レバーの直ぐ下に存在するでっぱりを押し込む。すると予想通りと言うべきか、今まで収納されていた爪がジャキッ! と鋭い音を立て勢いよく飛び出した。

 その様子にエルの瞳の輝きが一層と増していく。まるで玩具を与えられた子供のように、何度も爪を締まってはボタンを押して射出させるのを繰り返す。


「気に入って貰えたならよかったのだわさ。残念ながら、防具の類は置いてないのだわ。どこかで調達するしかないのよさ」

『いや、十分だろう。ロザリーが居なければ、それこそ何も持たずに旅をする羽目になったのは間違いない。それよりロザリーは何も必要ないのか?』


 エルもヴラドも装備を見繕ってもらったし、リアンも何時の間にか手足を包む皮製の靴らきしきものを装着している。

 一方のロザリーは用意した袋に金貨やその他持ち出せそうな物を仕舞い込むだけで、何か武器を手に取る様子はない。

 そんなヴラドの疑問にロザリーが詰め込み作業を止め、にやりと口角を持ち上げる。


「私はこれを使うのだわ」



 そう言って床に突き立っていた一本の剣を手に取る。それは俗に連接剣と呼ばれるものだ。あるいはその剣身がまるで蛇の腹のようにも見える事から、蛇腹剣とも呼ばれるだろうか。

 握り手は何か布が巻かれ滑り止めとされており、柄は優美な羽を思わせる形をし、連結されている刃はまさに蛇の腹を思わせる。

 その刃の色は艶消しの黒で構成されており、光を一切反射しない。長さは優に一メートルを超しており、振るった時の長さがどれだけなのか予想が難しかった。

 剣と鞭の要素を併せ持つ一品だが、見た目通り癖が強く扱いは難しい。鞭より重いそれを自在に操るには相応の膂力と、熟達した技術が無いと不可能だろう。

 ロザリーの容姿であれば、細剣などが似合いそうなのだが、随分とキワモノを持ち出したものだとヴラドは内心で苦笑する。



『一応蛇足だと思うが聞いておこう。扱えるのか?』

「勿論なのだわ。伊達に千年以上も生きてないのよさ。それに、これは過去直接使った事もあるのだわ。エルの装備と同じように、これにもちょっとしたギミックがあるのだわさ」


 そう言うと持ち手の底に付いているボタンを押し込むと――ジャキンッ! と言う何か固定するような音が響くのと同時、ロザリーがその連接剣を振るう。

 片手で楽々と振るわれたそれはしかし、刃が撓り飛び出すこともなくまるで普通の剣のように弧の軌跡を描く。


「こうしてボタンを押せば通常の大剣のように扱えるのよさ。強度を保護する魔法も併用されているから、魂力を流すことで予想以上の硬度を誇るのだわ」



 そう言うと床に転がっていた黒の艶消しに塗装された鞘に剣を仕舞い込み、そのまま備えられているベルトのようなものを利用し背中に背負い込む。

 身長の関係で腰に佩くのは無理なのだろう。それだけでもその剣がロザリー用に作られたのではないかと、そう思わせるには十分であった。

 それから十分程たち、皮製のバッグに必要な物を詰め込み終え、残りは捨てていくと言うところで落ち着く。

 総数にして三つにも及ぶ大きめのバッグは二つをヴラドの首に掛け、残り一つをロザリーが運ぶ事となった。

 そんな中、一枚の色褪せた巻紙をロザリーが地面に転がす。紐を解かれたそれはコロコロと転がり、その全容を明らかにする。



『地図か?』

「そうなのだわ。あって困るものではないのよさ。これから向かうのはここ。この拠点から真っ直ぐそのまま直進して約一週間の距離にある街、“テイトローイ”なのだわ。何をするにしても情報は必要だし、そこで必要な物も購入しないといけないのだわ」

「ねぇねぇパパ、まちってなーに?」

『私達のような者達が一纏まりで住んでいる地だ』


 ヴラドの言葉に何を想像したのか、エルの表情ワクワクとしたものに変化する。

 その様子にロザリーとヴラドが笑みを零し、行き先は誰からも反対されずテイトローイへと定まった。

 一行の長い長い旅路は今ここに始まったと言っても過言ではないだろう……






 

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